緋影はりんねちゃんの制服を作りたい。1
昼休みが終わり、一年一組の教室で迎えた五限目の授業中、緋影に向かって『浮気は許さない』『絶対に許さない』と強烈な呪いオーラを放つりんねちゃんの様子に恐怖した男性教諭は、ついに白目を向いて昏睡状態に陥り、授業は自習となった。
授業が終わるや否や、緋影は何の疑問も持たず、ジト目の無表情でヤンデレオーラ全開の呪いの人形(ドール)りんねちゃんを抱きかかえ、そのまま教室をあとにする。
緋影と呪いの人形(ドール)が去った一年一組の教室に、しばしの安らぎの時が訪れクラスメイトたちは、命の喜びを噛み締め、互いに安堵の笑みを浮かべて喜びを分かち合うのであった。
そして、緋影が緊張の無表情で向かった先は、もちろん、義理の姉の利賀 優々子(トガ’ ユユコ)のところだった。もちろん、不満爆発なヤンデレ人形(ドール)りんねちゃんは緋影の右前腕に鎮座し真上を向いてヤンデレドールアイで緋影のことを無表情で凝視していた。
「すみませんが……ゆゆね………………あ、いや……利賀生徒会長いますか?」
そして、緋影は二年の義理の姉のクラスに辿り着くと、丁度教室から出てきて、今だに真上を向いて『浮気か?』『浮気なのか?』と無表情で怒っている人形(ドール)であるりんねちゃんを見て恐怖で固まってしまった上級生の女子生徒に声をかけた。
突然の出来事に涙目で恐怖に震える上級生の女子生徒は緋影に了承の意を示すように、コクコクと勢いよく首を縦に振ると、そのまま扉を勢いよく閉めた。
一人廊下に取り残された緋影はめちゃくちゃ目立っていた。理由はもちろん、彼がこの学校で話題の呪いの人形(ドール)を持ち込んだ男子生徒であったからである。
上級生の女子生徒は顔面蒼白になりながら慌てて、次の授業の準備をしていた生徒会長の優々子のもとへ駆け寄った。肩を小刻みに震わせながら、絞り出すような声で要件を伝えられた優々子は清楚な振る舞いでにこやかに呼び出しに応じ、女子生徒が恐怖から逃れるために閉めた教室のドアを開けると視界に『こんにちは泥棒子猫』とヤンデレ人形(ドール)りんねちゃんが映る。
刹那、物凄い勢いで扉を閉めた。もちろん、物凄い音もなった。
「……え?」
いきなり、義理の姉の優々子に拒否られ、かなり内心で動揺している様子の緋影。注目の的となる緋影と優々子なのである。
顔面蒼白で恐怖に染まった優々子に、クラスメイトたちの視線が集まる。注目されていることに気づいた優々子は、一瞬だけ深呼吸し、次の瞬間には穏やかな笑顔を浮かべていた。まるで何事もなかったかのように、いつもの優秀で清楚な生徒会長の仮面を被り、完璧に体裁を整えるのであった。
笑顔で今のは忘れなさいとクラスメイト達に圧を放った後に、なんとか勇気を振り絞る優々子は呪いの人形(ドール)の存在を完全に忘れることにし、恐る恐るドアを少しだけ開ける。
「……な、何かようですか?」
今の今まで、緋影が教室を訪ねてくることなどなく、内心で驚き、ソワソワする優々子なのだが、恐怖の呪いの人形(ドール)がジッと無表情でこちらを見つめてきており怖いのであった。しかし、優々子は強い心で完全に呪いの人形(ドール)を無視することに決めたのである。
「あ……ゆゆ姉……」
「……」
教室の扉を少しだけ開け、隙間から片目を覗かせこちらを見てくる優々子に、内心でビビりながらも勇気を出して声をかける緋影に対して、無言の笑みで返してくる優々子なのである。りんねちゃんは『無視するな』『泥棒子猫』と優々子に圧を放つも、強靭な心で優々子に完全にスルーされていた。
「……利賀生徒会長……」
「…………」
にっこり天使の笑顔で無言を貫く優々子の圧が強くなる。緋影の無表情な顔から冷や汗が流れる。
「……利賀……先輩……」
「………………」
僅かに開いていた扉が完全に閉まった。扉の向こうから激しいプレッシャーを感じ緋影の喉がゴクリと鳴る。
「ゆ……ゆ……こ……さん?」
「……………………」
扉は微動だにしない。ただ、扉の向こうからのプレッシャーが更に強まることを感じた緋影は目を閉じ、腹をくくる。
「…………ゆ、ゆこ……」
閉まった教室の扉がまた僅かに開かれる。ひょこっと顔を出す優々子は上機嫌であった。
「ふふふ、そう、あなたの優々子ですよ♪ これで、副会長に私の悪口を言っていたことは許してあげますね……ひ・と・か・た・く・ん♪」
「悪口って………………」
容姿ロリロリ優々子が妖艶なお姉さんをムーブを披露する。とても、ミスマッチであるが緋影は無表情にいつも通りの優々子を眺めながら、ゆゆ姉の悪口なんて言ったかなと疑問符を浮かべる。
「…………あっ…………あぁ……あれは違うから……副生徒会長がゆゆね…………」
なにか自分の中で得心がいったのか、緋影は慌てた無表情で、言い訳をしようとする。その最中に、ゆゆ姉と言おうとした瞬間に、笑顔の優々子の視線が鋭くなり、固まる緋影は、諦めの無表情になる。
「…………ゆ、ゆこのことを純粋無垢とかいうから別人なのかと思ってな」
「へぇ~、そうですか……では、ひか……人形君にとって私はどういう人なんですかね?」
「どういう人か……端的に言えば……サイコパ………………いや、ゆゆね…………優々子は純粋無垢……だな」
にっこり笑顔で恐怖の大魔王級の圧を放ってくる優々子にすぐに屈する緋影なのであった。
(ゆゆ姉……そういうところが……サイコパスなんだって)
そんなことを考えている緋影の心を見透かしたのか、優々子の圧が更に強くなる。
「ヒ、ト、カ、タ、ク、ン?」
「………………なんでもない……」
「そうですよね……ひとかたくん……って怖い怖い! なに!? そんな怖い顔で睨まないでください!!」
今の今まで完全にスルーされていたりんねちゃんの怒り爆発『なに私の旦那(旦那ではない)を脅しているの?やんのかコラッ!』といった表情(無表情)で物凄い呪いの圧を放っている呪いの人形(ドール)の存在をさすがに無視できなくなった優々子は恐怖の声を上げ扉を閉めた。
「……………………あの、ちょっと頼みたいことがあるんだが……」
「……わ、私を頼ってくれるのはありがたいのですが……ど、どうして、その人形(ドール)を連れてきたのですか!?」
扉越しに緋影が優々子に声をかけると、教室の扉を少しだけ開けて、ちょっこっと顔を覗かせる優々子は顔面蒼白めっちゃビビっており不満の声をあげる。そんな、普段は決して見られない利賀生徒会長の怯えた姿に、クラスメイトたちの間から驚きの声が次々と上がり始めた。
「利賀さんが・・・・・・めっちゃビビってる!?」
「あの・・・・・・生徒会長が恐れる人形(ドール)って・・・・・・」
「う、噂はほんとうだったの!? 見たら呪われるって人形(ドール)の!!」
「というか……あの男子生徒は誰だ!? まさか利賀生徒会長の彼氏とか!?」
「そ、そういえば、一年生に利賀生徒会長の彼氏が居るとかって噂あるよね!?」
「さ、さすがに、あれではないんじゃない? だ、だって、あれっておば……」
「「「「それ以上は口にしてはいけない!!」」」」
優々子のクラスメイト達がざわざわと騒ぎ始めると、優々子は、扉の隙間から引っ込み、クラスメイトたちの方を向いて笑顔で圧を放つのであった。刹那でクラスメイト達は静まり返ったのであった。そして、再度ひょっこり隙間から顔を見せる優々子に首をかしげる緋影なのである。
「優々姉? どうしたんだ?」
「…………なんでもないですよ……それより、人形君……私のことは優々子ですよ♪」
「…………………………」
緋影が沈黙で抵抗すると扉が閉まった。内心で絶対にゆゆ姉はオレのことを揶揄っているなと不満爆発だったが、こちらは頼み事をする立場、我慢だ我慢となる緋影なのである。
「…………ゆ、ゆこ」
そう緋影に名前を呼ばせ満足そうに再び扉を少し開く優々子の眼前に、呪いの人形(ドール)りんねちゃんが身を乗り出し扉の隙間からこちらを覗き込んでいた。そう、深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗き込んでいるが如く、呪いの人形(ドール)りんねちゃんと眼と眼が合う瞬間なのであった。
数秒思考が停止した優々子の顔面から冷や汗がダラダラ流れ出し、恐怖で二年生の廊下中に響くほどの悲鳴とともに尻もちをつく。
床にへたり込みびびり散らかす、優々子の方をジッと見ているりんねちゃんは、いつの間にか、普段通り緋影の腕におとなしく鎮座し直しており大爆笑中(無表情)だった。優々子の醜態にクラスメイトの驚きと困惑の視線が集中し、顔を真っ赤になって恥ずかしくなる優々子の姿を、今日のゆゆ姉は本当に変だなとなる緋影なのであった。
(こ、この人形(ドール)!! わ、私にこんな恥をかかせるなんて……ぜ、絶対に許さない!!)
心の中でキレ散らかす優々子は、とりあえず、立ち上がり、にっこり恐怖の大魔王笑顔で忘れろビームをクラスメイト達に放った後に、今だに爆笑中の無表情の呪いの人形(ドール)を睨むのだが、りんねちゃんが怖くて何もできない優々子なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます