呪いの人形(ドール)と不良三人組
現在、とある高校の一年一組の教室内は、戦慄教室と化しており、今から貴方達には殺し合いをしてもらいますと突然バトロワ宣言されたが如く萎縮し縮こまっているクラスメイト達なのであった。
理由はというと、少し前に人形 緋影(ヒトカタ ヒカゲ)が人形(ドール)を抱え久しぶりに登校してきたことで、教室内は一気に気温が数度ほど下がり、この世とは思えない雰囲気に包まれ、朝早くから登校して楽しそうに談笑していたクラスメイト達は一瞬で静まり返った。
ガタガタと震えながら席に座り続ける者、恐怖で教室から慌てて飛び出し逃げ出す者、腰を抜かして地面に座り込む者、両手を合わせて祈りを捧げる者と反応は様々だが、みんな共通しているのは呪いの人形(ドール)に怯えているということだった。
これこれ、これが正しい反応とむふんと喜びの顔(無表情)で悪くないといった表情(無表情)のりんねちゃん。一週間くらい緋影と一緒にいたため、自分の存在を意義を見失いかけていたりんねちゃんは自分が恐怖の呪いの人形(ドール)ということをどんどん思い出し実に喜んでいるのであった。
気分はまさに愉悦なのである。夫である(りんねちゃんの中では)緋影の浮気現場を押さえるため学校に着いてきたりんねちゃんなのだが、恐怖で慄く人々に快感を感じ、緋影に着いてきてよかったと心底思うりんねちゃんなのである。
そんな、戦慄教室といった雰囲気の中、どこ吹く風といわんばかりに緋影は窓際の一番後ろの自分の席に座り、ジッと無表情で目の前の自分の机の端に腰を掛け座らせている上機嫌な無表情ドールフェイスのりんねちゃんを眺めていた。
(意外とりんねちゃんのこと……何も聞かれたりしないものなんだな……まぁ、あのドールショップの店員さんも言ってたもんな……人形(ドール)とは自分の娘であり、娘のように可愛がってあげてね……と、できる限り人形(ドール)と一緒に居てあげることを諭し教えてあげるのが真のドーラーというモノらしい)
ドールショップの店員さんが誇らしげに語ったドーラーというものが何なのかは調べても結局、緋影にはわからなかったのだが、とても素晴らしいモノなのだろうと漠然と理解した気になっていた。なるほど、ドーラーの店員さんの教えのおかげで世間一般的には人形(ドール)を連れていることは、そこまで変わったことではなくなっているのかもしれないと。
ジッとりんねちゃんを見つめながらそんな事を考えている緋影のことを、顔を上げジッと見つめ返しているりんねちゃんなのである。賢くて博識な出来る呪いの人形(ドール)であるりんねちゃんも漠然と理解した。
なるほど、これが学生カップルのイチャイチャという青春の一コマなのだろうと。愛する人と教室で見つめ合う――――――青い春つまり青春なのかと。りんねちゃんの無表情ドールフェイスが恋する乙女顔になっている――――――気がしなくもなかった。
緋影とイチャイチャしているつもりの呪いの人形(ドール)のりんねちゃんなのだが、端から見れば怪異(緋影)と呪いの人形(ドール)が無表情で見つめ合いなにやら無言で交信しているような怪奇現象にしか視えないのである。
そんな、怪異(緋影)と呪いの人形(ドール)に恐怖で支配された一年一組の教室の後ろの扉が突然乱暴に開かれ、入り口で立ち止まる人物の姿があった。
そう、例の不良男子の三人組であり、現在のクラスカースト男子トップスリーであった。
「ひ、ヒトカタ……てッ、てめぇ……い、生きてやがったのかッ……」
なにやら、悪役定番の台詞を吐き出しているのは、不良三人組のリーダーのかわちゃんであり、彼の額からは大量の汗が流れだし見るからに動揺していた。かわちゃんの背後に居る不良の二人は呑気にまだ、何も理解してない様子であった。
その台詞で緋影の視線はりんねちゃんから声のした教室の入口へと向く、その瞬間、異様な雰囲気に悪寒を感じ、ガタガタと震えだす不良かわちゃんの視界には緋影の机の端にちょこんと腰を掛け座りこちらを不機嫌そうな無表情でジッと見ている人形(ドール)の姿が。
「……ッ!!!!!!」
殺気だ――――――かわちゃんは緋影の机に座りこちらを凝視してくる人形(ドール)からものすごい殺気を感じて後退り、後ろに立っていた不良二人にぶつかる。どうやら、かわちゃんの登場のせいで緋影とのラブラブ時間を邪魔され大層ご立腹の様子の呪いの人形(ドール)りんねちゃんなのである。
「おい……かわちゃん……なにやってんだ……早く入れよな………………って!? ひッひとかたッ!! てっ、てめぇ……い、生きていたのかよぉッ!!」
同じく、悪役みたいなセリフを吐き出す大柄の不良の山川は、大げさに恐怖で尻もちをつくのである。まるで幽霊を見た感じのリアクションにもう一人の不良もガタガタと恐怖で震えていた。
「……かわちゃん達……何をやっているんだ?」
一向に教室内に入ってこず入口の前で、こちらを見て怯えている不良三人組に首を傾げる緋影に対してお化けを見たような反応の不良三人組なのである。
「おッ……おまえッ……ど、どうしてッ……あ、あの館には行かなかったのかよッ!!」
「…………行った……けど」
かわちゃんに怯えられながら人差し指で差され声を荒げてそう言われた緋影は、無表情でハッとなって、両手を机において勢いよく立ち上がると、自身の両手の間に鎮座し無様な不良を上から目線で眺めている可愛い可愛いりんねちゃんの方を見る。
(よくよく考えると……こ、これは盗難になるのか!? ま、まずい……非常にまずい状況になった……せっかく趣味と言えるモノを見つけられた上にこんな可愛い娘が出来たのに……このままではりんねちゃんは……ど、どうすれば………………)
普通に考えて、無断で人様の屋敷の中の物を持って返ってしまえば窃盗だという常識的なことを、今更、思い出し内心で焦りまくる緋影は、頭フル回転でどうやって誤魔化すのかを考えるのであった。
もう、彼の思考は犯罪者なのだ。
(……いや、しかし常識的に考えて……誤魔化すのはマズいな……す、素直に話して譲ってもらおう)
否、ちゃんとそこは常識人な緋影なのであった。散々悩んだ結果、ごく当たり前の考えに至った緋影は、無様な不良たちを嘲笑っているように――――――見えなくもないりんねちゃんを抱きかかえると恐怖から静止していたかわちゃん達の方へと歩み寄る。
一年一組のクラスメイト達は今だけはニュータイプよろしくと思考が一致、シンクロした。あ、あの不良たち死んだ………………と。
「お、おまッ!! ななななな、な、なにやってッ!! こ、こっちに来るなッ!!!!!」
徐々に無表情の緋影と無表情の呪いの人形(ドール)が不良達の方に近づいていき、慌てるかわちゃんだが、足がすくんで動かない。もはや、彼らを視界にいれておけないと両手で顔を隠し必死に恐怖から逃れようとするかわちゃんなのであった。
「かわちゃん……何やってるんだ?」
ホラー映画で呪い死ぬ瞬間みたいになっている不良三人組の前で立ち止まった緋影は抑揚のない声で彼らの不審な行動に対して無表情で問う。ちなみにあまりの不良たちの無様な姿に呪いの人形(ドール)りんねちゃんは大爆笑(無表情で無音)しているようであった。
反応的には泥棒子猫の優々子の次に面白いっとキャッキャと愉悦気分の呪いの人形(ドール)りんねちゃんなのだ。
「あッ…………ひ、ひと……かたッ……て、テメェッ…………」
なにやら恐ろしい人形(ドール)を差し向けられたと、精神が恐怖に支配される中で、なんとかヤンキーとしてのプライドなのか、緋影に食ってかかろうとする不良のかわちゃんなのだが、呼吸が荒く今にも失神してしまいそうな様子である。
そんな、哀れな不良かわちゃんをジッと無表情の赤い瞳で見続ける緋影なのである。彼の心の中では、自分の犯罪行為についてどう話を切り出そうかと必死に考え、動揺しまくっているのだが、はたから見れば無表情の緋影が無言で不良達を睨んで圧を放っているようにしか見えない。
そして、緋影の無意識の圧に屈したのか、かわちゃん以外の不良たちが恐怖で悲鳴を上げる。
「な、なんだよぉッ!! わ、悪かったって!! ゆ、許してくれ!! このとおりだ!! ヒトカタ!!!!!」
「いやだぁぁぁぁ!! し、死にたくないー!! 死にたくないヨォー!! 許してー!! いや、許してくださいー!!!!! ヒトカタ様!!!!!」
「おッ、おいッ!!! てめぇーらッ!!! な、なにヒトカタなんかに頭下げてんだよぉッ!!!!!!」
無言でこちらを見続ける緋影と彼に抱えられた呪いの人形(ドール)の恐怖の圧に屈して華麗なる命乞いの土下座を披露する不良仲間達にキレるかわちゃんなのだ。
「なななな、なんだよッ!! な、何かッ文句でもあんのかよッ!!!!! お、俺様は悪くねぇッ!! 死んでも頭なんてぜってぇーにさげぇねぇからなッ!!!!」
今だ沈黙を保ちジッとこちらを見てくるだけの緋影に対して、冷や汗ダラダラ恐怖で呼吸が荒いかわちゃんの必死な強がりに対して、なら、いっぺん、死んでみる?と緋影に抱えられた呪いの人形(ドール)から黒い闇の呪いのオーラが不良のかわちゃんに襲いかかる。
「あッ……がッ……ぐおッ……ぜ、ぜってぇッ…………あッ、あやまんねーッよッ!!!」
呪いの波動レベル1を必死にプライドだけで堪えた不良のかわちゃんに感心している様子のりんねちゃんなのである。呪いの人形(ドール)的にはデコピン程度の呪いの波動だったのだが、恐怖で失神もしなければ逃げ出さなかった不良のかわちゃんに対して、悪意のある笑み(無表情)になる呪いの人形(ドール)の無表情ドールフェイスは新しい玩具を見つけ喜ぶ子供のような無邪気で残酷なモノであった。
呪いの人形(ドール)にとっては不良やDQNといった生き物は最高の獲物でしかない。何も怖いモノなどこの世にはないといった大言壮語、不遜な態度の不良やDQNを恐怖で支配し、生涯残る恐怖のトラウマを植え付け、無様な姿を見る瞬間が堪らなく好きな愉悦神のりんねちゃんなのである。
哀れかわちゃん――――――呪いの人形(ドール)に獲物認定され、絶対に無様に頭を下げさせたいと思われた彼の今後は絶望が待ってるぞ。
呪いの人形(ドール)に獲物としてジッと見つめられ震え上がり今にも失神しそうなかわちゃんに対して、散々悩みに悩んだ結果、重い口を開く緋影なのである。
「………………あの館ってかわちゃんの知り合いの館だったよな……その知り合いを……紹介してくれないか?」
無表情で抑揚のない声でそう突然に尋ねる緋影なのだが、内心では超緊張しているのだ。その言葉に緋影から抱っこされながら、疑問顔(無表情)のりんねちゃんはジッとかわちゃんの顔を凝視している。例の呪いの館の持ち主は自分なので、緋影の言葉が事実なら、この不良と自分は知り合いということになるのではと、疑問に思ったのでこんなヤンキー顔の知り合いいたかなと凝視し考えている呪いの人形(ドール)こそが、呪いの館の主だと本能で悟ったかわちゃんは大慌てだ。
「ちちちッ、ちがッ!!!!!」
必死に涙が溢れそうなのを我慢し奥歯をガタガタ鳴らしながら否定しようとするかわちゃんに呪いの人形(ドール)の闇のオーラと視線が突き刺さる。
「……え? かわちゃん……確かあの館が知り合いの館で、近場に住んでるかわちゃんに館の状態を見に行ってほしいという話じゃなかったけ?」
緋影の話になるほど得心がいったという感じの敏い呪いの人形(ドール)りんねちゃんなのである。緋影がなぜ自分の館を訪れたのか、なぜ、すぐに館の中に入ってこなかったのかを理解した呪いの人形(ドール)りんねちゃんはお前が犯人かとものすごい怒りの無表情でかわちゃんを睨むと、恐怖で震え上がり、ついに尻もちをついて床にへたり込むかわちゃんなのである。
「あ、ああああッ、あッ、あの館が知り合いの館なわけね~だろッ!! ちょッ、ちょっと考えればわかんだろーがよッ!! た、ただのジョークってやつだッ!!!!!!」
「……そ、そうなのか……」
「だッ、だからッ!! お、俺様は関係ねぇッ!! かんけーねーんだよッ!!!!」
今にも泣き出しそうになりながら怒鳴り散らし、恐怖で後ずさり土下座している不良二人とぶつかる哀れなかわちゃんに、なんでそんなに怯えているのだろうかと内心で呆れる緋影の無表情の視線と呪いの人形(ドール)の怒りの(無表情)の視線が突き刺さる。
「………………ななななッ、なッ、なんだったんだよッ!! クソッ!! クソッ!!」
必死に立ち上がろうと緊張で動きが悪くなった筋肉を無理やり動かしては何度も地面に這いつくばってしまうかわちゃんとそれにつづく不良二人組なのである。
(ん? あの館が知り合いの館じゃないなら……なんであんなことをかわちゃんは頼んだんだ?)
緋影はなにかの遊びでもしているのだろうかと無様な不良三人組の恐怖で慄く姿を見ながら当たり前の疑問が浮かぶ。
「なら、かわちゃ……」
「俺様達は何もし知らねぇっーッ!! 知らねーッんだよッ!!!! クソがッ!!! ひ、ひとかたッ!! て、テメェッ!! お、覚えてやがれよッ!!!!!」
緋影が、単純に疑問に思ったことを尋ねようとした瞬間にかわちゃん達は、なんとか立ち上がれたようで捨て台詞を吐き、不良三人組はその場から慌ててとんずらするのであった。
だが、しかし、数分後に無慈悲にもホームルームの始まりを知らせるチャイム音が学校中に鳴る響くと恐る恐ると一年一組の教室に戻ってきて、顔面蒼白で怯えながら自分の席にそれぞれ着席する根は真面目な不良のかわちゃん達なのであった。
そんな不良たちを緋影の机の端に腰を掛けて座っているりんねちゃんが絶対に謝らせてあげると怒りの(無表情)視線で見つめていたのであった。
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