呪いの人形りんねちゃん学校に初登校編 りんねちゃんVS強面体育教師
とある古風な高校の長い歴史を感じさせる古びた校門前では、朝早くから風紀委員の生徒数名を立たせ、ガタイの良い強面の体育教師である男性が竹刀片手に昭和からこんにちはと出てきたのかというような白のタンクトップに下はジャージという服装で風紀チェック&朝の挨拶運動をしていた。
彼は昭和生まれ――――――ではない。
しかし、昭和に生み出された数々の名作教師モノのドラマに憧れ教師となった平成生まれの令和教師なのである。竹刀は勿論ファッションでしかない。今の世の中これで生徒を叩けば教師など一瞬で人生デットエンドだからだ。
実際、貫禄のある容姿の彼は、実はまだ20代後半アラサーである。生徒からは影ではゴリラやゴリと呼ばれ恐れられていた。そんな彼は現在、人生で最大級のピンチを向かえていた。
先程、ものすごい速度で走って登校してきた我が校の誇る美少女生徒会長にお願いされた事を思い出した。
「先生!! い、今から怪しい人形(ドール)を持った生徒が登校してきます!! 絶対にその人形(ドール)を没収してください!! 頼れるのは先生しかいません!! 絶対に、ぜーったいに没収してください!! お願いしますね!!!!」
そんなふざけた生徒がいるのか……けしからんッ! 頼れる先生に任せておきなさいッ!! とちょっと、我が校が誇る絶対無敵な美少女生徒会長に頼られたため年甲斐にもなく張り切っていた体育教師だったのだが、その生徒が視界に入るや否や、先程の勢いはなく、冷や汗ダラダラでSAN値がピンチなのであった。
黒より暗い黒髪に真っ赤な瞳に真っ白な肌の少年が、これまた艷やかで真っ黒な綺麗な髪に真っ赤な瞳と深紅の紅い瞳が不気味な人形(ドール)を右前腕に鎮座させ、我が校の校門に向かって歩いてきていた。彼らが視界に入ると突然、光が失われ夜が訪れたような感覚に陥った体育教師はすぐに理解した。
これは、絶望なのだと――――――人生、絶望で目の前が真っ暗になることがあるというが、彼自身経験したことがあった。それは、高校時代最後の夏に甲子園初出場という快挙を成し、人生絶頂期だったあの時、甲子園の初戦、戦意気揚々とマウントに立ち1回表で8失点という大失態を犯し、マウントを降ろされたあの時の感覚と同じだった。
今、こちらに向かってきているモノは、そんな絶望そのものなのだと細胞が――――――自身の経験則が全てを物語っていた。
周囲が暗くなったような感覚に陥り、どんどんと近づいてくる絶望に対して体育教師はただ、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。
周囲の気温が下がり、悪寒が全身を駆け巡り寒気を感じるのに、どんどん鼓動は早くなっていき汗が止まらないのである。感覚的にフルマラソンを終えた後のような疲労感と熱量に襲われると同時に風邪を引いたときのような寒気も感じるという不思議な感覚。
どれぐらいの時間、自分はこの場に立っていたのだろうか、一瞬か永遠か――――――いつの間に目の前に絶望そのものが立っていた。体育教師の呼吸が荒くなる。
そして――――――おはようございますと言葉を発してきた。その言葉を理解するのに体育教師は数秒ほど時間を要した。
そして、気がつくのである。
それは人の形をしていて、自身の学校の制服を着ている男子生徒だったということに――――――少しだけ冷静さを取り戻した体育教師だったのだが、不意に男子生徒が腕に座らせている不気味な人形(ドール)の方を見てしまい恐怖で気を失いかける。
(あ、ああぁぁああ………………な、なななななな、なんだ!! あの人形(ドール)!! ぜ、絶対にやばいやつだろ!! せ、先生……ホラーは、ホラーはダメなんだヨォォォォォッ!!)
体育教師は意識をなんとか保ち周りに見渡すと、顔面蒼白な風紀委員の生徒達が視界に入る。生徒達もまた、恐怖で怯えているようで体育教師が助けを求める視線を彼らに向けると、生徒達はみんなすぐに視線を逸らした。
「あ……お、お前……その人形(ドール)は……な、なななな、なんだッ!?」
生徒達の助けは望めないと理解し、荒い呼吸をなんとか整え、握力の限界の力で拳を握りしめ勇気を振り絞って、そう目の前の異様な雰囲気の男子生徒に問う体育教師の顔面は真っ青であった。
そして、対する緋影はというと、やっと学校につき校門前でいつも風紀チェックをしている強面で苦手な体育教師に意を決し、緊張した面持ち(無表情)で向かっていきなんとか挨拶をしたのだが予想してた通り、体育教師に呼び止められ、さて、りんねちゃんのことをどう言い訳しようかと考え始める。
無表情で体育教師をジッと見て思考を巡らせている緋影に対しタジタジになり怯える体育教師なのだ。
「………………えっと………………りんねちゃんって………………言います」
(なうぉッ!? な、名前をきいてるんじゃないんだヨォォォォォッ!!)
抑揚のない声で緋影にそう言われ、体育教師は心のなかで全力で突っ込む。もちろん、口に出す勇気はない。ないのだが、流石にこのまま通すわけにはいかないと教師魂を燃やし、喉をゴクリと鳴らした後に、無表情の緋影に注意することを決める。
「……が、が、学校に……そ、そんなものを、も。持ってきて――――――」
いいと思っているのか!!! と発言をしようとした体育教師の時が止まった。
(み、見てる……この人形(ドール)さっきまで正面を見てたはずなのだが……い、いつの間にか顔を上げて俺を……み、見ているッ!! き、気の所為なんかじゃないッ!! ぜ、絶対に、見ているッ!! この……俺をッ!!!!!)
呪いの人形(ドール)に睨まれ(無表情)体育教師は風紀委員の生徒達に再度助けを求める視線を送るが、生徒たちは恐怖ですでにこっちを見ていなかった。体育教師は生徒達に見捨てられていた。
「先生……人形(ドール)とは自分の娘だそうです」
「おッ!? お、おおおうッ!!!!」
「……娘を一人寂しく家にお留守番させるなんてオレには出来なかったんです……先生……あなたも親ならわかりますよね?」
「………………せ、先生は独身…………だッ」
「そう……なんですね…………なんか……すみません」
「い、いや……む、娘か……そ、そうか……む、娘なら仕方ないな!! し、仕方ない……ぼ、ぼ、ぼぼ没収などできるわけないッ!!」
「え? 没収? りんねちゃんを!?」
緋影の無表情の赤い瞳が体育教師に突き刺さり、彼の右前腕に鎮座している人形(ドール)の深紅の瞳と赤い瞳も体育教師の顔をジッと触ったら許さないという表情(無表情)で見ていた。自分は今、この怪異達に脅されている――――――もしも、没収などしようものなら、自分は――――――こいつらに殺される!!! 体育教師は恐怖に支配され直立不動になってSAN値がゼロ、発狂寸前だった。
「し、しない!! しない!! ほら、と、とっとと教室に行けッ!!」
美少女生徒会長のお願い? 教師としてのプライド? そんなモノは知らんとばかり、自分の命を優先することを選んだ体育教師は、さぁどうぞお通りくださいと緋影に道を譲る。
「そ、そうですか……では、失礼します」
顔面蒼白で、自分の目の前から素早く退いた少し苦手な体育教師に内心、今日はなんか挙動不審だったなと少し疑問に思うも緋影はとりあえず、教室に向かうかと頭を下げ挨拶をして歩き出す。彼の腕に鎮座しているりんねちゃんはドヤ顔(無表情)でやってやったと絶壁のまな板を張っていた。
(意外と、なんとかなったな……流石に学校に連れてきたのはやはい少しまずかったかな)
傍若無人の振る舞いの呪いの人形(ドール)とその主人なのである。この体育教師が学校内に怪異を招き入れてしまったことで、この学校の七不思議の1つに呪いの人形(ドール)を持った男子生徒の怪異がいるという怪談が学校中に広まることになるのであった。
そんな光景を遠目から眺めていた絶対無敵美少女が舌打ちをする。
(あの体育教師……いつも偉そうなくせに、ほんと使えないですね……どうにかして、緋影をあの呪いの人形(ドール)から救ってあげないと!! まぁ、学校でなら誰かしらあの人形(ドール)を始末してくれる人がいるでしょう………………絶対にあの呪いの人形(ドール)を焼却処分にしてやるんだから!!)
こっそり木の陰から緋影と体育教師のやり取りを遠目で覗き見していた生徒会長の優々子が心のなかでそう毒を吐く。顎に人差し指をあて、次の作戦を真剣に考えながら自分の教室に向かう優々子。そんな、彼女の後ろ姿を緋影の右前腕に鎮座し遠目からジッといつの間にか見つめていた呪いの人形(ドール)りんねちゃんなのであった。
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