消えた少年と呪いの人形2

 時が経ち学校も終わり日も落ちた頃、とある一軒家のリビングで黒いソファーに腰を下ろし、どこか疲れた表情を浮かべるダンディな中年男性相手に、腕組み立ちで物凄い威圧感を放ち目の前に立っている超絶美少女生徒会長の姿があった。


 彼女は、人形 緋影(ヒトカタ ヒカゲ)の義理の姉であり、緋影たちが通う高校の生徒会長を務める利賀 優々子(トガ ユユコ)という。140ちょいの身長と幼児体型ではあるが、容姿は整っており、大きな瞳に長い睫毛という愛らし造形に誰もが魅了させられるほどの超絶美少女なのだが、今は悪魔のような笑みを浮かべ威圧感を放っている。


「……緋影くんが学校に行っていない……と?」

「そうです……クソおや……いえ、お父様が余計な邪魔……いえいえ、緋影を一人暮らしさせた結果ですね」


 口元に人差し指をあてながら、目だけ笑っていない笑顔で実の父を断罪しようとしている優々子の言動に困り顔のダンディな優々子の父なのである。


「優々子……所々に父親である私に対して棘のある発言をしようとしてなかったかい?」

「そんなわけないじゃないですか……クソゴミクズオヤジマジ許さないぞ♡ とか私は言ったりしませんよ……私は♡」

「今、はっきりと口にしたと思うが……可愛らしく言っても暴言は暴言なんだが……優々子」


 愛らしい口調と仕草で暴言を吐く実の娘優々子に対して、困りながら、ダンディな低音ボイスでツッコミを入れる父は頭を抱える。


「なので緋影の義理の姉であり……未来のお嫁さんであるこの私が……義理の弟であり、未来の旦那の緋影の様子を見に行くべきだと思うのですが!!」

「……はぁ……優々子お前は絶対に緋影くんの家に行ってはいけない……これは絶対だ……いいかい!! 私が直接緋影くんに電話をすればいいだけの話だ!!!」

「……許さない……絶対許さない……私と緋影の仲を裂こうだなんて……実の親でも絶対に許さない」


 優々子は実の父に対して前のめりになってそう提案するも、両肩をガシッと実の父に掴まれ諭されるように、怒られるように拒否されると、姿勢を正し直立不動で恨み辛みを笑顔でボソボソと呟く優々子の瞳はハイライトオフなのである。


(怖ッ……今の発言は聞かなかったことにしよう)


 実の娘の行動に困り果てる優々子の父親なのだが、どれだけ威圧されても、暴言をはかれても、義理の息子のところに優々子を行かせるわけにはいかない理由が、優々子の実の父にはあるのである。実の娘に恐怖を覚えるも、仕方ないとスマホを取り出すのである。


「あらあら、孔明さんとゆゆちゃん、相変わらず二人は仲良しね」

(理子さん……今のやり取りでどうしてそうなるのかな)


 キッチンで先程まで料理をしていた優々子の継母であり、緋影の実の母である利賀 理子が、両手を合わせ笑顔で二人のやり取りに対しての感想を述べるのだが、孔明と呼ばれた優々子の実の父親は目尻を押さえ、疲れた表情を浮かべ心の中でも、超低音ボイスでツッコミを入れる。


 渋々といった様子で優々子の実の父である孔明は、必死でスマホの画面を覗き見ようとする優々子から離れスマホの画面を隠しながら緋影に電話をかける。そんな孔明に対して、優々子は可愛らしい笑顔から一変し、悪魔のような形相で孔明を睨んでいるのである。


 恐ろしさから、絶対に視線を合わせないようにしている孔明はスマホを耳に当て、コールを鳴らし続ける。


「……あぁ……ひ、緋影くんかい?」

「あ、はい……なにかありましたか?」


 コールが止まり相手が通話に応じたことがわかるとすぐに優々子の殺気から逃れるために会話を始めようとする孔明に対して、いきなり電話をかけてくるなんて何の用だろうかと返答する例の少年――――――緋影なのである。


「少し聞きたいことがあってねって、コラッ、ゆ、優々子やめないか!! 私がひかげく――――――」


 会話を始めようとすると、かすかに聞こえた緋影の声に反応し、突然優々子が実の父のスマホに飛びかかったのである。


 突然親子の死闘が始まると、その様子を理子は笑顔で眺める。180は超えの身長と筋肉質で体格のいいダンディ中年の実の父孔明に対し、遺伝子どうしたと言わんばかりの140ちょいのロリ体型の娘優々子という対戦カードなのである。


「こ、孔明さん? ど、どうしたんですか?」

「コホン……緋影、久しぶりですね」


 圧倒的不利なスマホの争奪戦という名の死闘に勝利した優々子は実の父のスマホを奪い取り、声色を整え、頬を赤らめ、ちょっと乱れたボブヘアーを人差し指でくるくるしながら、嬉しそうに緋影と会話を始める優々子。


 一方、圧倒的有利だったが、実の娘の気迫と殺意に気圧され敗北した孔明は、優々子に突っ伏され床にぶつけた腰を痛そうに抑え、そんな孔明を見て、あらあらと救急箱から湿布を持ってくる理子なのであった。


「ん? あれ……この声は……えっと、ゆゆ姉……か? 孔明さんはどうしたんだ?」

「ッ……今はあんな奴のことはどうでもいいでしょ――――――」

「ゆゆ姉……今なんて言ったんだ?」


 突然義理の父の孔明から電話がかかってきたと思ったら、急に義理の姉の優々子の声が聞こえ、???状態の緋影の至極真っ当な問いに、何やら表情が一瞬で曇っての優々子の不穏な発言はどうやらノイズでかき消され緋影には聞こえてない。


「ふふふ、なんにも言っていませんよ……私の……緋影に一人暮らしさせたこと……恨んだりはしていませんよ」

(ゆゆ姉……やっぱり、俺だけ一人暮らしさせてもらっていること恨んでいるのか? でも、しょうがないよな……やっぱり、義理の弟とはいえ、年頃の男子だからな……孔明さんも実の娘が心配なんだろうな)


 一人暮らしすることが決まった時、義理の姉の優々子が猛反対していたのを思い出した緋影は、何やら勘違いしている様子で心の中でクソボケをかましている。緋影本人は義理の父孔明が、年頃の男子である自分が実の娘に手を出すんじゃないのかと心配し、自分は一人暮らしさせられたのだと思っている。


(ほんと、私達の仲を引き裂くために緋影を一人暮らしさせるなんて……あのクソ親父……絶対に許さない!! 実の親でも私の邪魔をするのは許さない、許さない、絶対に後悔させてあげる)

「理子さん!! 娘が!! 実の娘が親に向けてはいけない視線を私に向けてるのだが!!」


 寝っ転がり、理子から腰に湿布を貼ってもらってる孔明は、恐ろしい殺気とともに当時のことを思い出し恨めしく睨んでくる優々子に恐怖して理子に助けを求める。こういう娘だから孔明は義理の息子のために一人暮らしをさせたのだが……まぁ、親の心子知らずという格言があるように、親心は全く伝わっていないのであった。


「あらあら、まぁ……でも孔明さんが悪いと思うわ……大丈夫よ……孔明さんに何かあっても私が子供たちの面倒はみますからね」

「理子さん!?」


 笑顔で、遠回しに骨は拾ってあげるし後のことは任せて発言をする妻の理子に対して孔明は低音ボイスで大声を上げる。そんなやり取りが通話越しに聞こえてきた緋影なのである。


(相変わらず……母さんと孔明さんは仲が良さそうでよかった……やっぱり、孔明さんが言った通り……俺が家を出てよかったな)


 自分が実家にいた頃、たまに家族がギスギス(緋影を誘惑しようとする義理の姉VS義理の息子の貞操を守ろうとする孔明)していた瞬間を思い出し、自分が居ないほうが上手く回っているのだろうと、少し寂しさを覚えるも結果的に今の環境に納得している緋影は心の底からそう思うのだった。


「ゆゆ姉……結局何のようで電話かけてきたんだ?」

「あ!! そ、そうですね……緋影!! 緋影からは言いにくでしょうけど……そのですね……学校で嫌なことがあったのでしょう……家に引きこもるほどの……でも、大丈夫ですよ……今から私があなたのところに行って身も心も癒やしてあげますからね……そして今夜私達は――――――」

「ゆゆ姉……一体何の話をしているんだ? あと、ノイズで後半全く聞き取れなかったんだが……」

「はぇ?」


 赤く染まった頬に手を添えて、愛らしくも妖艶な仕草で遠回しにスマホを通じて愛を囁く優々子に対して、クソボケな緋影には通じるわけもなく疑問で返された上に聞こえてもないということで愛らしく声が上ずり呆然となる優々子なのである。


「あ……い、いえ、緋影……あ、あなたは同じクラスの不良達に学校で虐められ、苦しめられているのですよね!! 大丈夫、私がなんとかしてあげますから!!」

「……あの、ゆゆね――――」

「いいのですよ、誤魔化さなくても……緋影のことはなんでもお見通しですからね……大丈夫です……私が癒やしてあげますからね!! さぁ、緋影怖かったでしょう……私が今すぐあなたのお家に行ってあげますからね!!」

「……ゆゆ姉ほんとなんのは――――――」

「緋影……もう、ゆゆ姉じゃなくて優々子でいいのですよ」

「……いや、流石に義理とはいえ姉を呼び捨てにするわけにはいかな――――」

「もう、どうせすぐ姉じゃなくなるのですから気にしなくて良いのですよ!!」

(ゆゆ姉……そんなに俺が義理とはいえ弟なのが嫌なのか……本気で落ち込むんだが……)


 めげない優々子は困惑する緋影の言葉を遮り、目を見開き迫真の形相で捲し立てる。先程は愛らしかった優々子の仕草は荒々しくなっており、スマホを両手で掴みながらの優々子の必死なあがきもクソボケ緋影に通じるわけもなく、あまりの勢いに緋影の方は何故か落ち込んでしまっている。


「今から、緋影の家に行きますから、そうですね……良いことを思いつきました!! 私も一緒に住めば緋影も何も恐くはありませんね!!!!」

(ゆゆ姉……まさか、強硬手段で俺の家を乗っ取り、俺を追い出して事実上の一人暮らしを始める気なのか!?)


 優々子は暴走列車状態でもはや止まるんじゃねぇぞ状態なのである。優々子の勢いに気圧され、無言だった緋影は勘違いを加速させめちゃくちゃ内心で焦る。あまりの優々子の必死さに勘違いを加速させる緋影は珍しく動揺した様子をみせる。


「ゆゆ姉……わ、悪いんだが孔明さんから、ゆゆ姉を家にあげてはいけないと約束してるから、家に来られても困るんだが……」

「そうですね……私もクソ……コホン……お父様から緋影の家に行ってはいけないと言われてますが……義理の弟のピンチとあれば私が行かないわけには行きません……それに私はあなたの未来のおよ……コホン、いえ、いえ義理の姉ですからね!!」

「……いや、何もピンチではないんだが……さっきからゆゆ姉ほんと、何を言っているんだ?」

「え?」

「ん?」


 シーンと無言タイム――――――そうお互いのすれ違いにやっと気がついたのである。


「え? だって、クラスの不良達に心霊スポットに無理やり行かされたり、日々嫌がらせをされてて……それで学校に行きたくなくなって、学校を休んでいたのですよね?」

「……学校?……そ、そうか……学校か……すっかり忘れてた」

「わすれ……って、えぇ!?」


 ポカーンとなった優々子があれあれと疑問と困惑半々といったコミカルな表情になってあわあわと緋影が学校に登校していなかった理由を確固たる確信をもって確認するも、あっけらかんと忘れてたなど予想外のことを言われ、目がぐるぐる思考回路がバグる優々子なのである。


「明日は……休みか……週明けは問題なく登校するから……教えてくれてありがとなゆゆ姉、じゃあ」

「あ!? ひかげ!? ちょ――――――」


 優々子の思考回路がショートしている間に、自分が学校に行くことを忘れていたのを伝えてくれるために通話してきたのだと得心がいった様子で通話を切ると、ハッとなった優々子は緋影を呼び止めようとする時すでに遅し、スピーカーからは虚しく通話終了の効果音が響いているのであった。


「わ、私の完璧で究極の計画が……ど、どうして……ど、どこでミスを……」


 へたりと床に崩れ落ちる優々子はうわ言のようにそう言って完全に放心状態になり、超絶美少女フェイスが完全にギャグキャラみたいにバグっている優々子なのである。


「優々子お前という奴は……ほんとに……どうしようもない」


 また、なにかよからぬことでも企んでいたのだろうと察し、実の娘のおこないに頭を抱え、悩まされる孔明は放心状態の優々子の手から滑り落ち床に転がった自分のスマホを取り戻しソファーに腰を下ろす孔明は全て理解しているのである。


 実の娘が天使のような愛らしい外見と裏腹に、悪魔のような人物であることを――――――。


 そんなやり取りをしていると今しがたこの家に帰宅したセーラー服姿のサイドテールで見た目ちょっと派手な美少女がリビングの扉を開けて顔を出す。


「ただいま~……って……ねぇさん? ねぇさんどうかしたの?」


 見たまんまギャルって感じの美少女は、リビングの床にへたり込んで放心状態の実の姉をぎょっとした目で見て驚きの声を上げる。いつも清楚で凛としている実の姉の姿とは乖離しすぎてちょっとパニックになるセーラー服姿の妹ギャルなのである。


「寧々子か……今は優々子のことは放っておいてやってくれ……というか、私はどこで教育を間違ったのか……はぁ~」

「ふふふ、緋影ったらほんとゆゆちゃんに愛されて幸せものね」

(理子さん……あなたって人は何でそんなに呑気なのか……まぁ、そんなところが好きになったんだが……いやいや、私がしっかりしないでどうする!! 緋影くんのことは私が守ってあげなければ!!)


 呑気にどこか嬉しそうに頬に手を当てながらそういう理子に対し、改めて自分の決意を固める孔明なのである。


「え? ほ、ほんと……あたしが居ない間になにがあったの!?」


 絶賛困惑中の彼女は利賀 寧々子(トガ ネネコ)、緋影の義理の妹であり、優々子の実の妹であり、中学3年生で受験生なのである。ちなみに姉の優々子とは違い160超えの身長に、中学生とは思えない胸部装甲を持っいるスタイル抜群の美少女ギャルである。


 二人が並んで歩けば、誰もが思う、姉は寧々子の方であると――――――。


「ねねちゃん、心配しなくても大丈夫よ……ねねちゃんにもチャンスはあるわ……いえ、緋影なら女の子の2、3人くらいなら……上手くやれるはずよ!! なんたって私の息子ですから」

「理子さん!? その発言は私が不安になるのだが……!?」

「お、お義母さん!? あ、あたし別に兄さんのことなんかなんとも思ってないだからね!! あと、姉さんの前でその話はやめてよ!!」


 状況が理解出来ずに絶賛困惑中の寧々子に年甲斐にもないウインクをしながら不穏な発言をする理子に対して、慌てる孔明は心臓バクバクになり、寧々子は一気に顔を真っ赤にしゆでダコ状態で義理の母の理子に詰め寄り大声でツンデレ発言をしている。


「大丈夫よ……ゆゆちゃん今それどころじゃなさそうだし……ふふふ、どちらにしても孫の顔は思ったより早く見れそうで嬉しいわ……ね? 孔明さん」

「お、お義母さん!? 突然何言ってんのよ!! あ、あたしは別に兄さんのことなんか好きじゃないから!! そもそもに、兄さんは姉さんのほうが、ていうか姉さんが兄さんを逃すわけ無いと言うか――――――」

「理子さん……や、やはり、緋影くんは私が守ってあげなければ……」


 緋影の義理の父孔明はソファーに深く腰を下ろし、目尻を抑え独り言を呟く、まだ、放心状態の優々子と、照れ隠しだとはっきりわかるような言い訳を義理の母の理子に述べ続ける寧々子を見て、ため息をつく。


(しかし、緋影くん……なんで学校休んでいたのだろうか……聞き忘れてしまった)


 思い返せば義理の息子から何も聞けてないことを思い出すも、スマホの画面を見ながら再度通話しようか数秒間悩んだ結果、緋影の電話番号などの連絡先を知らない実の娘の優々子が、また暴れだしても困るので、とりあえず今度聞こうと答えを出した孔明なのであった。






「そうか……とっくにGW終わってたのか……いかんな……趣味に没頭するとこうなるのか……」


 緋影はスマホをテーブルに置くとベッドに腰を下ろす。ありふれた一人暮らしの男子の部屋、しかし、ここには緋影の通話を盗み聞きしてたがごとく、テーブルに腰をおろしジッと緋影のことを見ている例の人形(ドール)の姿があったのであった。

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