消えた少年と呪いの人形
GW明けのとある高校の1年1組の教室で、恰幅が良く貫禄のある30代くらいの男性教諭が教壇に立ち朝のホームルームにて、出席確認をしていたのだが一人まだ登校していない生徒がいた。その生徒の名前は人形 緋影(ヒトカタ ヒカゲ)という男子生徒である。
呆れる男性教諭と何の疑問にも思わない生徒達の中に、彼が不登校だったことに対し、あからさまに動揺している様子の男子生徒が三人いた。
そう、まだ登校していない男子生徒こそ呪いの館に行き、突然人形(ドール)とともに呪いの館から消えた少年なのであった。呪いの館に行ったであろうということを知っている三人の男子生徒に担任や他のクラスメイトは勿論気づくこともなく、どうせ遅刻だろうと考え普通に朝の連絡事項を伝え始める担任だった。
結局この日は、例の少年、人形 緋影(ヒトカタ ヒカゲ)が登校してくることはなかったのであった。
そして、次の日も、また次の日も彼が登校してくることはなく、誰か何か知らないかという担任の問いに、冷や汗が止まらない不良三人組なのであった。
「な、なぁ……ま、マジで行方不明になってたり……してないかな?」
ホームルームを終え、いつもの不良三人は教室を出て、遠く離れ誰も行かないような場所にある男子トイレに集まると、不安そうに背の低い不良の一人が会話を始める。すると、かわちゃんは怒りと不安半々という表情を浮かべ、尋ねた背の低い不良男子を睨むのである。
グループのリーダーであるかわちゃんに睨まれてしまえば黙るしかないのである。少し冷静さを取り戻し、かわちゃんはため息をつくと苛ついた様子で口を開く。
「行方不明になったからってよッ!! なんだってんだよッ!! 俺のせいってかッ!? 違うよなッ!! あいつが勝手に行って、勝手に行方不明になっただけだッ!! なぁ!! そうだろッ!!」
「あ、ああ……そうだって」
「だ、だなぁ……俺たちは何も知らない……そ、そういうことだろぉ? かわちゃん」
焦りの混じった邪悪な笑みを浮かべ、そう怒鳴りながら言い放つかわちゃんの言葉にすぐに乗っかる二人なのである。そして、まだ不安そうな不良二人の肩を抱き圧を放つかわちゃんは更に悪そうな歪んだ笑みを浮かべる。
「大丈夫だ……俺達三人が何も喋らなければ誰にもばれやしねぇからよッ!! そう、誰かが喋らねぇかぎりなッ!!」
かわちゃんはそう言って、不良二人の肩から首に両手を移動し力を込め二人の首を絞める。苦しそうな不良二人は脅されているということを自覚する。
「だ、大丈夫だって……誰にも言ってないし、言わないから!!」
「ああ!! 言わねーよぉ!! ぜっってぇ!!」
二人のその言葉に安堵したのか両腕の力を緩め二人を開放するかわちゃんなのであった。そして、怒りの表情から普段通りの無愛想で憎たらしい表情に変わる。
「これで、あいつは勝手に行方不明になった馬鹿野郎ってことだッ!! さて、じゃあ、戻るぞッ」
これで万事解決と男子トイレから不機嫌そうに外に出るかわちゃんの後を急いで追いかける不良二人なのである。そして、不機嫌に両手をズボンのポケットに入れて、ヤンキー歩きで廊下のど真ん中を我が物顔で歩いていたかわちゃんが突然歩みを止める。
「少々お時間よろしいですか? 貴方方に少しお伺いしたいことがあるのですが?」
彼等不良三人組を待ち伏せしたように現れた超絶美少女は愛らしい表情を浮かべて友好的な態度で不良のかわちゃんに歩み寄る。その超絶美少女の後ろにはメガネをクイッとし、不機嫌そうに待機する偉そうな男子生徒もいた。
「……せ、生徒会長!?」
かわちゃんが立ち止まり自分に近づきながら話しかけてきた女子生徒を睨んでいると後ろからついてきていた背の低い不良の一人が驚きの声をあげる。
「……チッ……面倒なやつが出てきやがったぜッ……」
「貴様!! 今何と言った!? 我らの生徒会長に不敬を働いたら容赦せんぞ!! この不良共!!」
ボソリとかわちゃんが独り言を呟くと、地獄耳か結構距離のあったはずのメガネ男子生徒には、バッチリ聞こえたらしく怒りの声を上げかわちゃんに詰め寄ろうとするが、すぐに生徒会長と呼ばれた美少女に視線だけで制止させられる。
「ダメですよ……副会長……こちらはあくまでお願いをしている立場なのですから……」
歩みを止めた後、美少女生徒会長に笑顔でそう言われ、喉を鳴らすメガネ男子生徒は緊張した面持ちになるのであった。ボブカットで艷やかできれいな髪を靡かせ両手を合わせて笑顔でかわちゃんに向き直る。
「すみません……副会長が……」
「別に……気にしてねーよッ」
上目遣いと笑顔で愛らしく謝罪の言葉を述べる超絶美少女から視線を反らしぶっきらぼうになるかわちゃんの様子は少し変で、背の高い方の不良は疑問顔なのである。
「では、本題なのですが同じクラスのひか…コホン、人形 緋影(ヒトカタ ヒカゲ)君について確認したいことがあるのですが……」
「わりぃーがよッ……俺様は何も知らねーぜッ!!」
笑顔だった美少女生徒会長の視線が、かわちゃんがそっぽを向いたまま会話を打ち切ろうとした瞬間、一瞬だけ鋭くなるも、すぐに愛らしい瞳になる。
「……そうですか……最後に貴方方と会話していたという目撃情報があるのですが……」
「ただの日常会話してただけだぜッ……それだけでなにか疑われるとは……心外だぜッ」
圧倒的な身長差があり、上から見下ろし邪悪な笑みでそう言い放つかわちゃん相手に、全く怯むことがない美少女生徒会長は相変わらず清楚で愛らしい笑みを浮かべている。
「そうですか……では、後ろのお二人はなにかご存知ではないですか?」
かわちゃんの背後にいる不良の二人組に、腰の後ろで手を組んで、愛らしく上半身を反らしてそう尋ねる美少女生徒会長に、先程から不機嫌にかわちゃんの態度に疑問と納得の行かない様子の背の高い方の不良が前に出る。
「ああん……知るかよぉ!! チビがぁぁ!!」
そう美少女生徒会長の前にでて、暴言を放った瞬間に緊迫した空気感が漂う。美少女生徒会長の雰囲気が変わったのである。もう一人の不良は目が泳ぎ、不遜な態度だったかわちゃんも苛立つ。
「……今……なにか言いましたか?」
体格差で威圧してくる背の高い不良に対し、絶対零度の笑みを浮かべ一歩も引かず美少女生徒会長は少しトーンが下がった声で尋ねる。もちろん、暴言を言った背の高い方の不良は睨み続ける。
「おいッ!! 山川!! 謝っておけッッ!!」
めちゃくちゃ動揺し苛立った様子のかわちゃんは、怒鳴り声を上げながら不良仲間の背が高い不良――――――山川の横腹に肘打ちをする。
「ゴホッ!! な、なにすんだよぉ!! かわちゃん!!」
「そ、そうだよ!! 謝っておこう!!」
山川じゃない方の不良も尋常じゃない様子で、腹を押させて怒る山川に詰め寄る。そこまで言われると納得はいかないものの謝罪しておくかとなる山川なのである。
「す、すんません……生徒会長」
「……フフ、そうです……・では今さっきのことは聞かなかったことにしますね……二度目はないですよ」
鋭い視線と殺気が山川を襲う。先程までと打って変わり、冷や汗が流れビビる山川は後ずさる。
「お、俺たち何も知りませんよぉ!! 生徒会長」
なんとか誤魔化そうと、いつの間にか敬語でそう言い放つ山川に頭を抱えるかわちゃんなのである。
「……」
生徒会長の疑る鋭い視線が山川を襲う――――――喉を鳴らし冷や汗が流れ視線を逸らす山川にニッコリ笑顔になる美少女生徒会長なのである。
「なるほど……貴方方三人共何も知らないということですね」
「……ああ、何も知らねーぜッ……でもよぉ……なんか、どっかの洋館に用があるとか……言ってた気がするぜッ」
「「!?」」
これで会話が終わると安堵した様子だった不良二人がかわちゃんのその発言に動揺し始め、生徒会長は愛らしく人差し指を顎に当て、何やら考えている様子なのである。
「そうですか……わかりました。貴重なお時間ありがとうございました……それでは失礼いたしますね」
自分の中でなにか答え――――――結論がでたのか嬉しそうな天使な笑顔を浮かべ、踵を返し去っていく美少女生徒会長の後ろ姿を佇み見送る不良三人組を鋭い視線で数秒睨むと、急いで美少女生徒会長の後を追いかけるメガネ男子なのである。
「会長……いいのですか? あいつら絶対に何か隠していますよ!!」
「ええ、なにも問題ありません……全て計画通りですから」
「……え?」
「いえ、なんでもありません……さぁ、教室に戻りましょう……授業に遅れてしまいますからね」
生徒会長の美しく歩く後ろ姿に見惚れながら、後ろをついていくメガネ男子――――――副会長には見えないのである。生徒会長の口角が釣り上がり不気味な笑みを浮かべていることに――――――。
そして、廊下に残された不良三人組は生徒会の二人が見えなくなると会話を始める。
「かわちゃん……内緒って話じゃなかったのかよぉぉ!! あんな小さいくせに偉そうな生徒会長にビビったのかよぉ!? あんなん俺等がちょっと脅せばぁ……」
「山川てめぇビビったくせによく言うぜッ……てめぇは高校から俺達とつるみだしたから知らねーかもしれねーがなッ!! いいか……あいつには、生徒会長には逆らわない方がいいぞッ……俺様が知っている中で……あいつは一番敵に回したら面倒なやつだぜッ!!」
「はぁ!? あんだよぉ!! かわちゃんがビビるなんて……そんなやばいのかよぉ……ただのチビな女だぜぇ!!」
「山川!! 二度と言うなってかわちゃんに言われただろ!! それに……あそこで謝ってなかったら……お前……大変な事になってたと思うよ……中学時代だけでも生徒会長の容姿の悪口を言った人はろくな目にあってないから……」
「……滝山の言う通りだ……実際俺様も……いやなんでもねぇーぜッ!!」
何かを言いかけたかわちゃんは不機嫌そうに誤魔化す、その様子にちょっとビビる不良の一人山川なのである。
「あんな奴のことはどうでもいいだろ……さぁ早く行くぞッ!!」
もうこれ以上ゴタゴタやってると授業に遅れると、会話を無理やり終わらせ、かわちゃんは不機嫌そうにこの場を後にし、教室に向かうと残された不良二人も慌ててかわちゃんの後を追いかける。
結局この日も、人形 緋影(ヒトカタ ヒカゲ)は学校に姿を表すことはなく、不安そうな一年の不良三人組と、何故かどこか嬉しそうな感じの超絶美少女生徒会長なのであった。
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