呪いの人形(ドール)りんねちゃん 呪いの人形(ドール)をおもちか・・・・・・お出迎えしたらラブコメが始まった!?
涼風悠
プロローグ 出会いという名のお持ち帰り(お出迎え)
ここは呪いの館と噂されている古い洋館がある場所である。郊外の雑木林の奥深くにあり、もう夕方と言われる時間帯、生い茂る木々が陽の光を遮っているために周囲は薄暗く噂の洋館は物凄く不気味に見える。
昭和の経済成長とともに流行った昭和モダンな作りの洋館は、経年劣化を多少は感じられるが、廃墟と言うにはまだ人が住んでてもおかしくないといった感じだ。しかし、逆にこんな辺鄙な森の中で、修繕や改修工事など行われてないはずの古い洋館がそんな状態なのである。
そう考えると、この場所だけ現世と切り離され、時間が止まっているように感じられ不気味だ。
「……なかなか趣がある館だな」
いかにもヤバい雰囲気を醸し出している古い洋館を見上げ、ぼそっと呟く中学生、否、高校生くらいの少年なのである。
ちなみに彼は、かれこれ一時間ほどこの不気味でやばそうな心霊スポットでもあり、悪い噂しか聞かない古い洋館の正門の前に立っているのであった。
そんな、普通なら警察に通報待ったなしの不審な少年をジーッと見つめる不気味な人影が洋館正面から見て左端の三階の窓に映る。その人影の正体は、勿論、この館の主である。
館の主も始めは中に入るなら歓迎(やばい意味で)してあげましょうと待ち構え、邪悪な笑み(無表情)で意味深に窓から、少年を見下ろしていたのだが、流石に一時間以上も面白半分で館に不法侵入することもなく、だからといって恐ろしい雰囲気に恐怖し帰ることもしない青年に対して苛立たないはずがないのであった。
「しかし、遅いな……かわちゃん」
彼が何故ずっと館に入らず佇んでいたのかというと、とある人物に誘われ、この場所に訪れたからであった。しかし、そんな彼の私情を館の主は知る由もなく、少年の行動にイライラし、怒りは極限マックス状態なのである。
「そういえば、かわちゃん……もしも自分が遅れるようなことがあったら、先に中の様子を確認してくれって言ってたな」
腕を組み目をつむり、この場所に来ることとなった経緯を思い出し、独り言を呟く少年。
(まぁ、かわちゃんは人気者だからな……急に用事でも入ったんだろうな……確か知り合いの洋館で……中の様子を確認してほしいと頼まれたらしく、同行してほしいとのことだったんだが……)
スマホを取り出し時刻を確認する少年は、これ以上待つと日が暮れるし、数少ない知人の頼みだと仕方なく館の中に入ることを決意したのか、正門を開け館の入り口に歩みを進めた。その光景を目にし館の主はやっとこのイライラをぶつけられると邪悪な笑み(無表情)で少年を出迎える準備を始めたのであった。
一方その頃、とある高校の一年一組の教室にて、少年がかわちゃんと呼んでいた人物は、二人の少年と談笑中であった。椅子があるのにわざわざ机の上に座り偉そうな態度の男が、どうやら、館に入っていった少年が言っていたかわちゃんのようである。
「かわちゃん……行かなくていいの?」
「ああんッ!? 行くわけねーだろがよッ!! まぁ、あいつはバカ正直に行ってそうだけどなッ!! あんなやばそうな噂の館が知り合いの館なわけねェーだろッ、こんなあからさまな嘘信じてッ、あいつほんと馬鹿だぜッ!!」
「おいおい……ひっでぇなぁ」
ゲラゲラと嫌な笑い声を発しながら雑談する男子生徒三人組は、耳にピアス、制服は着崩しており、あからさまに三人とも不良という見た目をしていた。
「まぁ、どうせビビって行かねぇだろッ……まぁ、けど行かなかったら行かなかったで、それをネタに煽ってやればあいつも俺様の恐ろしさを認識するだろッ?」
「さすがかわちゃん!! やばいって噂の心霊スポットに一人で行かせるとか、マジ鬼畜……でもさ、あそこの館……結構本気で……マジヤバイって噂あるけど……」
散々おもしろおかしく笑っていた不良三人組の中で背が一番低い不良少年の一人が、呪いの館の話を持ち出すと、急に静まり返り、嫌な沈黙の時間が流れる。
「……噂は噂だろ……オメェらがビビってどうすんだッ!!」
「でもさ……なんか有名なホラー動画配信者もあの館に撮影に行くって言って配信して以降……音信不通で行方不明になったとか……結構ガチでやばい心霊スポットらしいよ……さ、さすがにやりすぎなんじゃ……?」
「まぁ、確かに……スカした感じでムカつく野郎だけどさぁ……流石にマジで行方不明とかなったら……俺等もまずいんじゃねぇー?」
数々ある郊外にある呪いの館の噂話を思い出し、急に自分達がやったことが怖くなってきた背が低い不良と強面でガタイの良い大男の不良に苛立つかわちゃんなのである。
「な、なんだテメェらッ!! 今更ひよんなってッ!! それになぁッ!! あんなクソ野郎行方不明になったほうがいいんだってッ!!」
不良仲間の二人の不安が伝染したのか、かわちゃんも引きつった表情を浮かべ、恐怖心を誤魔化すように大声で怒鳴り散らす。
「いいからよッ!! あ、あんな奴のことは忘れよーぜッ。なんせ明日からはゴールデンウィークだからよぉッ!! それに……あいつさえいなければ今頃俺様は七川と楽しいGWタイムだったてのにッ!! ほんとムカつく野郎だぜッ!!」
必死に話を反らし、早口でそうまくしたてるかわちゃんに対して、これ以上変なことを言ってグループのリーダーを怒らせるべきではないと判断したのか、不安がっていた不良二人も冷静さを取り戻す。
「そ、それもそうだ!! よし!! GWは遊び倒そう!!」
「だなぁだなぁ!!」
「とりあえず、テメェーらッ!! 今からカラオケかボーリングいくぜッ!!」
そして、不良三人組は、不安をかき消すようにそう言ってバタバタと慌ただしく教室を出ていくのであった。
さて、一方彼等の卑劣極まりない悪行で一人バカ正直にこの場所に来た少年は、呪いの館と呼ばれている古い洋館の鍵もかかってない扉を開き中に入った。
室内は物凄く暗かったため、少年はスマホのライト機能を使って辺りを照らすと、エントランスは異様な物の散らかり方をしていた。まるで屋敷をひっくり返し、元に戻したような異様な散らかり方をしており、普通の人間ならこの違和感に気がつき恐怖を感じるのだが、少年は何も感じないのかそのまま正面階段に向かって歩みを進める。
バタンッ――――――と大きな音が室内に響く。少年は背後から聞こえた音の原因を確認するために振り返ると、玄関の扉が閉まっていたのであった。
「風で閉まったのか……まぁ、とりあえず奥に行くか」
ぼそっと独り言を呟き、侵入者を拒むように散らかっていた様々な物を避け奥にどんどん進む少年は、やっと目的の正面階段に辿り着き二階へと進むため階段に右足をかけた瞬間に背後から古い西洋風のスタンドライトが飛んできた。
そして、西洋風のスタンドライトが少年の後頭部に直撃――――――とはならず、なぜか少年は屈んで靴紐を結び直していた。
「……ん!? なんでこんなもんが後ろから……まぁ、古いしい散らかっているからな……そんなこともあるか」
自身の頭上スレスレをものすごい速度で通過し正面の階段に激突し眼の前に転がり落ちてきた西洋スタンドに対して、ぼそっとそう独り言を呟くと、靴紐を結び終えたと立ち上がる少年なのであった。
その後、階段を登っている最中にテーブルや椅子にガラス瓶や食器など様々なものが飛んできたり、突然シャンデリアが落ちてきたり、突如目の前から棚が落ちてくるなど、様々なアクシデントもといポルターガイストに襲われるも、全て神回避し、その全てに古いから、散らかってるからだなと結論づける少年なのであった。階段を登り終え、廊下を歩いている最中も花瓶や絵画など様々なものが飛んできたが、やはり全て神回避するのであった。
少年は無表情、無感情でどんどん不気味さが増す呪いの館の奥に進んでいく、五月という晩春にしては、肌寒さを感じるほど気温もどんどん低くなっているが少年はなんの疑問も抱いていない様子であった。
普通なら歩みを止め、恐怖を感じ、この異様な寒気や雰囲気に気が狂いそうになるのが普通なのだが、少年は迷いなく目的地があるかの如くスマホのライトでも正面が全く見えないほどの暗闇をどんどん進んでいくのであった。
「暗いし……静かだな……古い建物なのに防音対策がしっかりされてるんだな」
などと独り言を呟きながら謎に不気味な館に対して感心している様子なのであった。本来、人は暗闇を本能的に恐れる。それは、闇が人の死を連想させるから、視界を奪われ暗闇に包まれる恐怖に対し普通の人は抗えない。しかし、真っ暗でスマホの光すらかき消すほどの暗闇、そして無音な世界に少年は何も感じていない様子なのである。
自分の足音すら消えていることすら、気づいている様子はない。
もしかしたら、この少年には恐怖心という感情が欠如しているのかもしれなかった。
そんな異様な少年の行動に対して逆に冷静さを失ってしまい無表情で慌てるのは館の主の方なのである。なんなんだあいつはと憤る館の主は怒りに任せ辺りのモノを浮かせあちらこちらに飛ばし、ぶつけて怒りを発散させる。
ここまでやれば普通は恐怖で尻尾を巻いて逃げ出す。今まではそうだった。だが、今回は違う。彼は逃げ出すどころか向かってくるのである。もはや、手加減(確実にやりにいっていたのだが)不要と判断し本気を出すことにした館の主なのであった。
「感覚的にこっちな気がするが……おっと危ない……外見はしっかりしていたが……やっぱ中は廃墟って感じだな」
突如として正面から西洋剣が少年の額めがけて飛んできたのだが、それを首を傾け上半身を横に反らし僅かな動きで回避し、また一人呟く。彼の中では廃墟だと西洋剣が突然飛んでくることもあるだろうで、今の出来事を納得できてしまうようであった。
もしもかわせなかったら今頃命はなかっただろうに――――――。
そして、少年はとある扉の前で足を止める。異様な雰囲気を醸し出している扉のドアノブに、躊躇なく手をかけた瞬間、突如として扉が倒れてきたのだが――――――少年はそのまま倒れてきた扉を手で抑え横に払い除ける。
「まさか扉が外れるとは……これは……まぁ、古いからしょうがないか……俺のせいではないはず……だよな?」
あからさまに不自然に外れ、突然倒れてきた扉に対して無表情に無感情にそう言い放つ少年はやはり普通ではないのである。払い除けた扉を眺め弁償とか言われたら嫌だななどと考えていた少年に向かって、今度は丈夫そうな西洋椅子が飛んでくるも、一瞥することもなく反応し回避する。少年が回避することを読んでか今度は西洋風のテーブルが勢いよく飛んでくる。
ものすごい速度で飛んできた西洋風のテーブルをなんと少年は真上に蹴飛ばし軌道を反らし防御もとい回避する。
「やっぱ廃墟は危ないな……こういうところはホントに……面白半分で来て良い場所ではないな」
どこ吹く風と言わんばかりにそう抑揚のない独り言を言い放つ少年は、天井にぶつかりものすごい音とともに真後ろに落ちた西洋テーブルの方に目もくれずに室内に入っていくのである。室内には窓があり、かすかに光が入ってきてるのか先程よりは少しだけ辺りが見える。
それでもまだ暗いので周囲をスマホのライトで照らしながら少年が周囲を確認していると突如として棚が倒れてくるも、すぐに左腕だけで倒れてきた棚を支えそのまま力づくでもとに戻す。
「中に物が入っていたら危なかったな……壁の方には近づかないほうが良いかな」
そんな独り言を呟いている少年に更にナイフ、フォーク、スプーン、そして高級感あふれるお皿とコップが飛んでくるが、人差し指と中指の間でナイフ、中指と薬指の間でフォーク、薬指と小指の間にスプーンという感じで右手だけで回避し、空いた左手でお皿をキャッチし、コップを華麗にお皿に乗せて神回避する。
そして、それらを丁寧に近くのテーブルに置く少年なのであった。
そんな少年の姿を見て、呪いの館の主は、物理ではだめだと悟るのであった。そして、物理ではダメなら・・・・・・そう、この館の名前の通り呪い殺すことを決めたのであった。
辺りの気温が更に下がり、異様な雰囲気が漂いだす。流石に少年も異変を感じ取ったかと思われたが、やはり無表情で無感情なのである。
幽世――――――まさにその言葉通り、ここは時が静止しこの世ではない空間が広がっている。なにかの気配を察知したのか、何かを感じ取ったのが、少年は、先程までテーブルの上に置いた食器たちを眺めていたのだが、部屋の奥の方に視線がゆっくりと向く。
そして、ゆっくりと奥に向かって歩き出す少年に向かって突如として突風が襲う。しかし、少年は意にも介さず歩みを止めない。そんな少年に対して、何度も突風が襲いかかるが、全く少年の歩みを止めることはできないのであった。
これに対して、驚く(無表情)館の主なのである。自分の呪いが全く効いていないことに焦りだすのである。
そして、ついに少年と呪いの館の主が対面するのであった。
少年が歩みを止め、スマホのライトで照らした館の主の姿は人形(ドール)なのであった。椅子の下まで伸びた真っ黒な長い髪に真っ赤な着物を着ており、両手両足はついていないようで、顔の左目には硝子でできた深紅の瞳が入っており、逆に右目には何も入っておらず、中は空洞――――――全てを飲み込むような深淵が見える。
そんな不気味な人形(ドール)がしっかり少年の方を見ている――――――否、睨んでいるのである。
一目見ればヤバさがわかる人形(ドール)を真赤な瞳でじっと見つめる少年なのである。人形(ドール)もまた、暗い深紅の瞳で少年をじっと見ている。
近づけば命はないと怒りの表情(無表情)で少年を威嚇する人形(ドール)に対し、少年は一歩一歩と更に人形(ドール)に近づいていく。長い髪が少年の足にまとわりつくが、一切気にしてない様子で、そのまま前に進む。そして、ついに人形(ドール)の目の前にたどり着いた少年はじっと、西洋椅子にちょこんと鎮座する不気味な人形(ドール)を見下ろす。
圧倒的な闇のオーラを放ち、この世のものとは思えない威圧感を放っている人形(ドール)を、少年はなんと両手で持ち上げてしまう。
自分の目線の高さまで持ち上げじっと人形(ドール)の顔を見つめる少年に対し、人形(ドール)も睨み(無表情)返すのである。
この館の主である人形(ドール)は警告する。これ以上無礼を働けば、ただではすまないと――――――しかし、人形(ドール)が放つこの世のものとは思えない殺気も少年には何の効果もないのである。
突如として少年は何を思ったのか人形(ドール)を胸に抱きかかえ、踵を返しこの場をあとにする。
そして、人形(ドール)も――――――勿論、少年もこの館から姿を消すのであった。
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