第236話 葬られた老教師

師範学校を出て、戦前戦中戦後、一教師として奉職された。

小学校の校長にまでなった後、養護施設と呼ばれる地に招聘された。

次期園長となる青年が成長するまでの「つなぎ」として。


老教師は、淡々と、その役を務めあげた。

前園長ほどの福祉のプロというわけでもないが、

教員時代の経験が生かせない場所というわけでもない。

それなりにやっていれば、その地は運営されていく。

ベテラン保母がいてくれるため、子どもらの世話は問題なし。

適当に子どもらを群れさせておけば、日々は過ぎゆく。

テキトーな頃になれば、わかった口を並べて世に出す。

まあ世間並程度にやれたら、それでよい。


そんな感覚を、次期園長となる若者は心底嫌った。

前任のジイサンは確かに恩人であるが、

この御仁は、ま、せいぜいつなぎの教員あがり。

息子世代のあのアンチャンみたいに教員くずれとまでは言わんけど、

下手すりゃ、そのレベルの仕事ぶりになりかねん。

それで一番被害を被るのは、この地の児童らではないか。


老教師はその職務を約10年務めあげた。

そして、福祉のプロたる若者にその職を引継いだ。

自由の森を支配していた、老教師のいた時代の停滞感は消え去った。

悪い意味での殺伐さも、その過渡期にはあった。

だが、それも時を追うにつれ雲散霧消してしまった。


老教師はそんな中、理事長に祭り上げられた。

そして、静かにこの世を去っていった。


かの老教師が園長として立ちはだかっていた頃、

入所児童として自由の森にいたあの少年。

青年園長とほぼ親子の年齢差のある彼は、

老教師らが提供していたものをすべて、かなぐり捨てた。

次期園長すらも舌を巻く彼の社会性は、それによって飛躍的に高められた。

彼は、自由の森から始めて大学に進学した児童となった。


無論、その功績が老教師にあるなどと、誰も思っていない。

老教師は、息子世代と孫世代の二人によって、葬られたのだ。

だが、それを知る者は、・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る