第206話 見くびった代償

あの人物は、ワシを思いっきり見くびっておった。

目先の状況だけを見て。

だが、あの人物は心底恐れていた。

ワシの実力のほどを。


見くびりつつも、あの人物は機嫌伺を頻繁にしていた。

テメエの学歴を出汁にしながら。

どこかで、こいつが上手いこと大学に不合格になってくれたら。

そんな願いが、あの人物の心のどこかにあったのかもしれない。

ならば、こいつを出汁に施設経営に資すことができる。

金(きん)こそ生まぬがカネを生む卵みたいなものよ。

従順に言うことを聞いてくれたらもっといいのだが、

自分たちなど歯牙にもかけないほどの力を持て余すワシに。

あの人物の心底の本音を、少し分析してみるか。


テメエの大学の大学祭のタダ券など、歯牙にもかけなかった。

自らの力であの国立大学と接点を持ち、そこにコマを進めた。

いつかあの少年は、自分を完膚なきまでに叩きのめしに来る。

結婚式に呼ばれてスピーチなど、彼が求めてくるはずもない。

結果は、そのとおりだった。

半世紀も経たぬ間に、彼はそのファイナルアンサーを提示した。

それは、彼の電脳環境だけでなく、この県の県立図書館にも、

それどころか、国会図書館にさえも、刻まれている。


嗚呼、天下の国立大学の看板さえ、彼になければ・・・。

そんなことを願っても、もはや無駄な抵抗に過ぎない。

これ、冥途土産のサンドバック代わりというもの哉。

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