第203話 何が嫌で辞めるのか?

1985年。昭和60年の春。

倉敷市の児島から来ていた、自由の森の入所児童・K少年。

彼は中学を出て、すぐに働くことになった。

大串屋という、岡山市内にあった鰻料理店。

後に倒産して、今はない。

有限会社にしていたようだが、2016年に登記が閉鎖されている。


確かにK少年はその店で住込みで働き始めた。

しかし、数か月せぬ間に、その店を辞めたという。

児島に戻ったらしいが、その後の行方も状況も分からない。


自由の森ことよつ葉園は、当時飛行児童の受入も行っていた。

だが、それはあの地の雰囲気を良くも悪くも変えていた。

彼もまた、その手合いの少年だった。

彼らを担当していた梶川児童指導員(仮名)は、その話を聞いて一言。


 何が嫌で辞めるのか?


副園長格の彼にとっては、手に職をつけてそこで働いて、

そのうち店でも出して家族を養えればいいではないかと、

そんな程度のことを考えていたのであろう。

だが、それではもはやそんな話に致しようも到りようもない。


結局、あの地の 人間関係=人とのつながり なんて、そんなものだった。

同じ釜の飯を食った仲間などと、

世にも結構な美辞麗句は、ゴミ箱に捨てるよりない。

そんな場所だったのだよ。


その児童指導員は、その2年後、自ら自由の森を去っていった。

それで、おしまい。

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