第69話 敷居の高い静かな寓居から

今、ふと、思い出した。喧噪の中の、静けさを。


移転先のあの地は、ひたすら騒がしかった。

タテ割りにされた寮は、ひたすら喧噪にあふれ、

男女の声が飛び交っていた。

若干、女の声が大きかったかな。大体、職員のほとんどが女性だった。

数年間ヨコ割りにして男ばかりの寮にしたこともあるが、

それはまあ、そんなものという感じで時が流れていただけ。


ついに、男の声が響き渡った。

移転2年後の初春。

高1修了と同時に中退してこの地を去った少年。

彼は、新園長への不満を散々まくし立て、そして、去った。

その後の彼の行方は分からないが、元気に生きている模様。


彼はいっとき、とあるSNSをやっていた。

無論、彼とそれで何らかの連絡など取っていない。

また、その必要もない。とるべきいわれも義理も筋合いもない。


あれは、一時の喧騒だった。人世(ひとよ)の、ほんの一時の。

そして、私にとって、人生のほんの一時の喧騒に過ぎなかった。


今日も私は、寓居にて静かに文章の構想を練っている。

この静けさは、しかし、勝ち取って得たものである。

労働者が長年の闘争の末に勝ち取った権利のように。


一人暮らしは寂しいのヘチマのとほざいていた盆暗どもには、

この私の居場所くらい、敷居の高い場所もないだろうな。

ってか?

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