第61話 囚われの地

ここは、囚われの地。丘の上の番外地。

社会性をはぐくむことなど、絶望的に思えてならない。


少年の周囲の喧騒は、まだ止みそうもなかった。

新たな地に来たという熱狂。

退屈させまいと、理想に燃える若き男性職員は、

子どもたち、特に小学生の子らに、様々な取組を矢継ぎ早にしてみせた。


ケンドー、ヤローゼ!

ってか?


殆どの子どもたちが、週3回、集会室の彼の下に集い、

防具をつけ、竹刀を持って、剣道を試した。

もっとも、誰一人、剣道が身についた者はいなかった。


かの少年は、その稽古とやらに出向くことなく、

一人で、その時間を過ごした。

確かに、孤独な時間であった。

だが、その孤独は、形を変えて彼の身についた。


彼は何も、剣道そのものを否定しているわけではない。

しかし、かの人物に対しては今も批判の矛先を緩めていない。

残念だろうが難だろうが、それが、現実というものだ。


その剣道とやらに出向いた少年のひとりは、

後に、行き倒れとなってしまった。しかも、2度にわたって。

その少年のほうがはるかに子どもらしいと好感を持っていたであろう、

当時の自由の森の職員らの見立ては、しょせん、その程度であったのだ。


かの職員氏はすでに自由の森を退職し、福祉関係の仕事をしている。

彼は今も、当時の自らの対応を悔やんでいるという。


嗚呼覆水よ、かくも盆にぞ返ることまかりもならぬものなりし哉。

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