第60話 高2=16の春 第4話

ここは、1990年代半ばを少し過ぎた頃の自由の森。

管理棟の事務室に、2度にわたって警察署から電話がかかった。

かつてこの地にいた、宮木正男という青年。

彼がいわゆる「行き倒れ」になって保護されたという話。


彼の仲間をぶん殴った梶川指導員は、すでに退職している。

梶川指導員の幼馴染で別施設でも同僚だった山崎指導員が、

警察署からの電話を取った。

彼がたまたまとったわけでは、ない。

無論、事務職員が事情を聴いたうえで取り次いだ。物理的には。


ではなぜ、彼は山崎指導員にすがろうとしたのか。

それは他でもなく、宮木正男青年が覚えていた職員だったから。

とはいえ他にも、男性職員なら2名いた。

一人は尾沢指導員、もう一人は大槻園長。

彼らではなく、山崎指導員の名を挙げた。

警察官の要請は、彼の身元を引き受けてもらえないかということだった。

山崎指導員は、2度にわたって、その要請を謝絶した。


その後の宮木正男青年の行方は、誰も知らない。


とはいえ、宮木正男の少年時代を覚えている同級生は、少なからずいる。

小学校で喧嘩をしたことを覚えていた、同級生の女性。

京都大学から放送局勤務を経て映画監督になった小学校の同級生の男性。

中学校のプチ同窓会に集った同級生男女たち。

そして、自由の森にその頃居合わせた、今や作家となった人物。


彼・彼女らにとって、宮木正男は今も、彼らの心の中で生きているのだろうか?

いずれにせよ、宮木正男の行方は、もはや、誰も知らない。知りようも、ない。

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