第58話 高2=16の春 第2話
おい梶川、オメーダキャーゼッテーユルサンケーノー*!
とか何とか、かの少年は電話口で事務員相手にわめいたらしい。
1歳下の仲間は、その梶川指導員に捕まってぶん殴られた。
そして、二度と来るなと通告されている。
いくら乱暴者で窃盗犯だと言っても、つい2年も前は、
この自由の森で暮らす「入所児童」だったのに。
仲間の少年はともかく、かの少年は幼少期からその地にいた。
かねて職員らは、その地を「帰って来る家」だと思えと、
わかったようなことを子どもたちに述べていた。
そんなくだらん情緒論をホザくなと言えるくらいの作家氏はいい。
だがかの少年にとっては、それは「帰る家」を失ったに等しい通告。
幼少期から姉とともに「措置」されて過ごしてきた「家」だったのに、
彼は仲間とともに、その「家」から排除されたのである。
しかも、排除した職員は他施設から移籍してきた「よそ者」。
かの少年を、誰が救えるのであろうか。
それでも、救いはまったくないわけではなかった。
彼には、2歳上の姉がいた。
作家氏は、その姉とはほとんど接触はなかったが、
何かの行事の折、着物を着て堀江淳の「メモリーグラス」を歌っていた姿を、
おぼろげながら覚えている。確か、赤い振袖のような着物だったはずだと。
顔つきは確かに、姉と弟程度に似ていたかな。そんな程度。
彼はやがて、関東方面にいる姉を頼って東へと向かった。
その情報は、かの児童指導員の同僚の下には入っていた。
高2になってわずか数日間だけ直接担当しただけの職員。
もはやその児童指導員しか、頼れる人はいなかったのか。
なお、彼の仲間の少年は、20歳を迎えた頃、窃盗で逮捕されたという。
地元の新聞には出たらしい。
彼の仲間の元少年のその後の行方は、誰も知らない。
・・・・・・・ ・・・・・ ・
* 岡山弁で、おまえだけは絶対に許さないからな、という意味。
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