第57話 高2=16の春 第1話

16歳の春は存外、あの地のターニングポイントになるところでした。

今はそうでないことを祈る。あの頃はまだ、こんな感じでした。


何とか高校には行かせようとする養護施設・自由の森。

猫も杓子も大学というが、こちらも負けず、猫も杓子も高校。

そのくらいはしないと、ね。

現に、中卒で働ける口なんて激減していたからさ。

昔のように、手に職とか何とかわかった口でどうにかなることは、

もうなくなっていたからね。


とりあえず、マジとりあえず、高校に行くことができました。

それも、公立高校に。

とりあえずおめでとう。

とりあえず、何だよね、これ。

1年は持った。トップクラスになれずとも、進級は問題なし。

まずはおめでとう。


だが、2年目を迎えるとともに、その地を去る少年が存外いたのね。

そのうちの一人に、かの作家の同級生がいた。

その少年のことを、かの作家をよく知る現映画監督もしっかり覚えていた。


少年は、散髪屋で住込みをすると言って、自由の森を去った。

しかしそれは、口実に過ぎなかったのかもしれない。

程なく、その店をやめて退去したらしい。どこへ行くのやら。

彼は、中学卒業と同時に自由の森を去った1学年下の少年とともに、

丘の上の裏山から忍び込んでは、施設内の金品を盗んでいた。


度重なる少年犯罪


彼らをかつて担当していた男性児童指導員は、同僚の男性職員と協力し、

彼らが窃盗に入り込んだところを現認し、一人を現行犯で「私人逮捕」した。

ただし、警察には突き出さなかった。そのときは。

ぶん殴って、二度と来るなと通告して敷地外に放り出して終わらせた。

しかしそれは1学年下の仲間。

彼のほうは、逃げおおせた。


仲間を殴られた彼は、程なく自由の森に電話ですごんだという。

あの男は許さんぞ、と。

だが、その後彼が自由の森に来ることは、なかった。


彼の誕生日は、1969年11月。

まだ17歳になる前の、16の春のかの少年の姿。

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