第14話 彼はいつか・・・

彼はいつか必ず、在園当時のことを告発的に表現してくる。

槍玉に挙げられるのは、誰だろう。

標的にされるのは、ひょっとすると自分かもしれない。


理想をもって、夢を描いて、彼らに説いてきた。

だが、あの青年にはまったく通用しなかった。

家庭の良さも、仲間のすばらしさも、

彼にとっては、犬猫のじゃれ合い程度でしかないのか。

確かに彼は、自らの進歩のためには何でもする男だ。

そんな人物に、職員として、否、一人の人間として、

自分がそこに出ていける余地はあるのだろうか。


感情を吐露して、彼の心に訴えようとした。

だが、ことごとく唾棄された。

クソの役にも立たぬとばかりに。

家制度をトレースして、家族の絆も説いてみた。

そんなもの、彼にとってゴミ以外の何物でもないらしい。

自分の出来なかったことを子どもに託すような説得など、

彼には通用する余地もなかった。

そんなものは、小賢しく姑息な方便の出来損ないに過ぎない、と。


彼はとことん個人主義を貫き、自らの社会性を高めている。

上司の園長も、彼の社会性には今や舌を巻いている。

彼にきちんと対応できなかったのは、

こちらの社会性があまりに欠落しているから。

ならば、それを彼以上に高めねばならない。


彼に告発よろしく何かで書かれても、それは仕方ない。

だが、これから先、彼以外の者から同じ目に遭わされてはかなわない。

園長はさらに、その対策を社会性の向上にかじを切っている。

もはや、感情を述べて郷愁に訴える手法は通用しない。

あの青年にも、園長にも。


自分の言動が全否定されるのは、あまりに寂しい。正直辛い。

だが、彼らはそんな言葉など、聞く耳を持つまい。


自分はとにかく、ここで生きていくしかない。

せめて、彼らの暴走を少しでも止めることができれば。

それしか自分の生きる道は、ない。

って、ことか・・・。

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