第13話 ためを思って心配しても、無駄。

心配していると言えば、免罪符になる。

自由の森の職員稼業なんて、ボロい商売だ。

権利義務とか、児童の権利とか、

そんな固いこと言わなくたっていいではないか。

私たちも、できることはしてやりたいと思っているのだ。

でも、金がない。だから、この程度のことしかできない。


折角だから、飯でも食っていけば・・・。

よもやま話でもして帰ってくれれば・・・。

憎くて言っているのではない。ためを思って言っているのに。

心配しているのに・・・。


だが、そんな気持ちの吐露等、何の役にも立たない。

相手には、そんな言葉はせいぜい子どもだまし。

彼は今や天下の国立大学生。通用するわけもない。


金持ちには見せ金は通用しない。誠意を見せないといけない。

プロ野球のスカウト間で言われているらしいお話。

彼は確かに金持ちではない。だが、飛び抜けた能力がある。

学費となるまとまった金でも出せば許されるのか? 

でも、それは無理。

誠意を見せないといけない。

ならば・・・


飯でも食って帰ってくれれば、食費だって浮こうに。

よもやま話でもすれば、気もまぎれるだろうに。


だが、そんなものは気休めにさえもならない。

彼はその欺瞞を見抜き、歯牙にもかけなくなった。

最後には、黙って接触を拒否された。

接しても時間と労力の無駄。

前園長やベテラン保母のいた頃の手法なんか、

彼の前では、一切、通用しなかった。


ときが解決して、いつか彼があの時代を、

笑いながら話してくれる日が来ればいいのだが・・・。

そんな手法、彼には当然、通用しなかった。


園長でも新卒間なしの保母でもない。

自分こそが先頭に立って、この地をよくしていかねば。

そのことに気づくのが、いささか遅すぎた。

ってか?

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