第32話 女子高生と会社員 IN遊園地
服装は如月がTシャツ一枚にハーフパンツと露出が多く、結瑠璃ちゃんもスキニーパンツにTシャツはゆったりめだが、斜めがけしたショルダーバッグにより、『デカい』部分が強調された結果けしからんことになっている。
でも遊園地って何する所だっけ? 久しぶりすぎて楽しみ方を忘れている。
「さあ、行きましょう!」
「さあ、行くわよ!」
開始早々テンションMAXのけしからん美人姉妹は、我先にと入場ゲートへと駆けて行く。
ああ、小さな子供と一緒に来たらこんな感じなんだろうなあ。
入場ゲートを通ると、目に飛び込んでくる人の群れ。今は夏休み期間中でしかも日曜日だ。こんな日は家から一歩も出ないに限る。
「どこから回るんだ?」
「そんなの決まってるわ!」
如月に促されてたどり着いた場所は、ジェットコースター乗り場だった。いきなりか。
俺は絶叫マシンが苦手だ。実はテレポートした時の感覚に似ている。ジェットコースターの最高地点から急降下したような感覚だ。
まだ開園したばかりなのに、そこそこの行列ができていた。俺と如月はその行列の中にいる。結瑠璃ちゃんは「私、苦手ですー」と言って、近くのベンチに座っている。
「ジェットコースターか。なんだかアンタのテレポートを思い出すわね」
異世界にいた時は、俺のテレポートは如月にタクシー代わりにされたり、しょうもない理由で呼び出す方法に使われていた。異世界では俺に触れていれば、一緒にテレポートできていたからだ。
でも今もテレポートが使えることは、如月には言っていない。
「テレポートをタクシー代わりに使う奴は如月くらいのもんだ」
「前から言ってるでしょ。私は魔法はガンガン使うのよ」
「テレポートは俺の魔法だろ。それに呼び出した理由が『高い棚の上の本を取って』とか『外出するから留守番して』とか、しょうもないことばっかりだったじゃないか」
「その代わり毎回きちんとお茶をごちそうしたじゃない」
如月に呼び出された後は、決まって如月とティータイムを過ごしていた。まあ確かにその時間は楽しかったんだけど。
「毎回呼び出す理由を考えるのも大変だったんだから」
「理由って考えるものじゃないだろう」
「察しなさいよ、バカね……」
その後も如月と話しているうちに、いつの間にか乗る順番がやってきていた。そんなにも話し込んでいたんだな。話し相手が如月だからなのか?
先頭に乗ることになった俺と如月は、安全バーを下ろして出発を待つ。
「うぅー! 楽しみね!」
隣の如月は無邪気に笑う。如月は自分に正直なんだ。だから周りに流されず、常に自分であろうとする。それでいて人への気遣いは忘れない。
今になって考えれば、異世界で常に最前線に出ていたのは、自分には人を守る力があると、分かっていたからなのだろう。俺はここでようやく気がついた。
そこからは俺にとっては地獄の時間だった。まだテレポートの方がマシだ。この浮遊感だけは慣れることは無いだろう。
「あぁー! 楽しかったぁ!」
如月は本当に嬉しそうだ。一方の俺は帰りたい方向に気持ちが傾いたが、美人姉妹とデートなんて、もう二度と無いかもしれない。自分から終わらせてどうする。
「結瑠璃ちゃん、お待たせ」
「もういいんですか?」
「もう十分だよ」
「どうでしたか?」
「如月は楽しそうだったよ」
「違います。お姉ちゃん、かわいいでしょ?」
「うん、かわいいな」
本音が漏れ出ていた。
「ゆっ、結瑠璃もジェットコースター好きよね? なんで乗らないの?」
「結瑠璃ちゃん、そうなの?」
「私、遊園地苦手なんですー」
「さすがにそれは無理があるよね!」
なぜそれが通ると思ったのか。
「俺としては結瑠璃ちゃんにも楽しんでほしいんだけど」
「お姉ちゃんの魅力が伝わるのなら、私は楽しいですよ?」
「いや、そういうことじゃなくてね」
女子高生にお膳立てしてもらうなんて、社会人の男としてどうなんだろうか。
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