第9話 新人がやってきた
俺が所属するチームの席の並び方は対向式レイアウトで、俺から見て左右と正面、そしてその左右にデスクがある。
対向式のため正面の人達と向かい合わせになるが、30センチほどのパーテーションで仕切られているため、それほど周りを気にすることはない。
日向さんの席は俺の右隣だ。主任の席はそれとは別で少し離れた場所にあり、俺達全員が視界に入るようになっている。
同じフロアには俺達の他にもいくつかのチームがあるため、常にフロアが静まり返っているということはない。
主任は30歳で、男の俺から見てもイケメンだと思う。でも独身で彼女もいないそうだ。人間性も尊敬できるしモテると思うんだけど、タイミングとか本人の考え方とかいろんな理由があるんだろう。
「来週に新人が配属されるから仕事を教えてあげてくれないか」
「俺ですか? 今は日向さんを担当しているんですけど、二人とも俺が、ということでしょうか」
「日向さんは入社して3ヶ月経ったから、そろそろ教えることが少なくなってきた頃だろう」
「そうですね、確かにあまり教えることが無くなってきたかなとは思っていました」
「なのでこれからは新人をメインに仕事を教えてあげてくれ」
主任にそう言われた時なんだか日向さんとの接点が無くなるような気がして、俺はなんだか焦ってしまった。
「分かりました。それでどんな人が配属されるんですか?」
「女性だ。ちょうど左隣の席が空いているよな? そこで仕事をしてもらおうかと考えている」
俺の席の右隣は日向さんの席だが、左隣は長い間空席だった。ということは、両隣が女性ということに。
「それと一つ聞きたいんだが」
「なんでしょうか?」
「日向さんと付き合ってるのか?」
まるで不意をつかれたような感覚だった。
「いえ、そんなことはないですけど、どうしてですか?」
「さっき偶然見かけたんだが、休憩スペースで日向さんの弁当食べてなかったか?」
「作りすぎたとかで食べるのを手伝ってほしいと頼まれただけですよ」
そうだ。よくよく考えてみると昼休みに手作り弁当を食べるだなんて、周りから見るとカップルじゃないか。
「そうか。まあ日向さんは見た目もかわいいけど性格もかわいくて人気があるからな」
主任は他にも何か言いたげだったが、それ以上聞いてくることはなかった。
それから主任は新人が配属されることを俺達のチーム全員に伝えた。
週明けの月曜日。今日は新人が配属される日だ。女性ということしか聞いていないから、どんな人が来るのかは全く分からない。
俺より年上だったらどうしよう。年上の後輩との接し方なんて分からないぞ。お互いにずっと敬語になりそうな気がする。
できれば年齢くらいは知りたいが、年齢だって個人情報だから勝手に他人に教えるわけにはいかないのだろう。
今日もテレポートを使わず電車で出勤した俺はいつも通り「おはようございます」と言いながら席に着く。チーム全員からあいさつが返ってきた後、日向さんが話しかけてきた。
「先輩、どんな人が来るんでしょうね」
「俺も女性ということしか聞いてないんだよ」
「先輩の隣の席になるんですよね」
「そうだね。まあそこしか空いてないからだろうな」
「それなら先輩がその人に仕事を教えるようになるんですか?」
「主任からそうするように言われたよ」
「そうなんですね」
日向さんが小声でそう漏らした。
「新人をメインにってだけだから、今まで通り分からないことがあれば聞いてもらっていいからね」
「はい、わかりました」
日向さんはいたって普通の声量なんだけどいつも元気いっぱいだからなのか、かえって元気が無いように聞こえた。
フロアにいる全員が一箇所に集まっている。数十人はいるだろうか。同じフロアとはいえ見かけたことがある程度で全く話したことが無い人もいる。
そんな中、一人の女性が紹介されてあいさつをするように促された。今日入社する人で間違い無さそうだ。
おそらく20代だろう。茶色がかった髪を耳よりも少し高い位置で結んでいるふわっとしたポニーテールで、少しつり目で
もしもここが学校なら、クラスの男子達が歓喜の声を上げるんじゃないかというほどだ。でもここは会社なので、そんな声を上げる人はいない。内心ではガッツポーズをしている人はいるかもしれないけど。
「——即戦力となれるように頑張りますので、ご指導ご
拍手と共にその女性があいさつを済ませると、この場は解散となりそれぞれが持ち場へと戻っていった。
そして俺も自分の席に着いた。今まで空席だった左隣にその女性が座り俺の方を見ている。主任からは「じゃあ任せたぞ」と声をかけられた。
如月(きさらぎ)と名乗った彼女に仕事を教えることが、今日からの俺の仕事に加わった。
かわいい女の子に仕事を教える。男なら喜ぶシチュエーションかもしれないが、俺の感想が自然と口から漏れていた。
「えぇ……」
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