第4話 いい月曜日だった
どの映画を観るのか尋ねたところ、アニメの恋愛映画だった。なんだかタイトルに聞き覚えがある。確かWeb小説が原作だったはず。どんな話かは知らないが、書籍として販売されて話題になったことは知っている。
俺にとっては、こういう機会がないとあまり観ることのないジャンルだ。
「日向さんはWeb小説も読むの?」
「読みますよ。スキマ時間に読めてちょうどいいし、面白い作品がたくさんありますからね」
「実は俺も読むんだよ。当たり前だけど作者さんごとに作風が違って、自分好みの作品を見つけられるから」
「ですよね!」
「俺は読む専門なんだけど、日向さんは投稿してたりする? ……なんてね」
俺は日向さんからの返事を待った。でも日向さんは何も答えない。
(あれ? 「なんてね」がダメだったか?)
「日向さん?」
「えっ……! 私ですか?」
「ここには俺と日向さんしかいないんだけど……」
「そ、そうですよね! 私も読むの好きですよ! 小説、面白いですもんね!」
——もしかすると、本当に小説を投稿しているのではないだろうか。せっかくの機会だ、遠慮せずに聞いてみよう。
「もしかして、本当に小説を投稿してる?」
俺がそう聞くと、日向さんは
「凄いじゃないか。何も恥ずかしいことなんてないと思うよ」
「実は大学生の頃から投稿しているんです。誰かに読んでもらえたらいいなって」
「俺も読みたいな」
「それはダメです!」
「ええっ!? なんで?」
「だって……そう! まだ完成していないんです! きちんと完結まで書けたら教えますね」
「うん、楽しみにしてるよ」
日向さんがそう言うのなら仕方ない。これ以上はしつこくなってしまう。せめてどんなジャンルなのかだけでも知りたかったな。
館内に入り席に着く。俺も日向さんも真ん中辺りに座る派だった。さすがに月曜日の遅い時間ということもあり、狙い通りの位置に座ることができた。
映画の料金も俺が支払うつもりだったが、日向さんが「それはダメです!」と鉄の意思だったので、各自で支払いということになった。
映画の内容は、若い社会人カップルの軌跡を描いたもので、彼女は重い病気にかかってしまっており、病院のベッドで一日の大半を過ごす。そして彼氏が毎日献身的に看病をするというもの。
最後には彼女が天に召されてしまい、彼氏が走馬灯のように彼女との思い出を振り返る。と、俺は予想していた。
ところが彼氏が交通事故に遭い、彼氏の方が先にいなくなってしまったのだ。
当然、彼女は泣き崩れる。でも、それならば彼氏の分まで生きなきゃと、彼氏との思い出と共に病気を克服して前向きに生きる決意を固める。という話。
『でもそれってフィクションなんでしょ?』とか『嘘くせー』と言われたらそれまでだが、物語とはそういうものだ。(俺基準)
声優の演技・実に絶妙なタイミングで流れる音楽・思い出の見せ方といった要素がうまく調和しており、感動と呼べるものになっていた。
上映中に日向さんを少しだけ見ると、泣いているようだった。
上映が終わり、俺達は映画館の外へ出た。本当ならこのまま感想を語る会を開催したいが、さすがに時間が遅すぎるので断念した。
「先輩、私、あの映画観て……よかったです」
涙目で日向さんが言う。本当に感情を素直に表現する子なんだな。
駅に到着する頃には終電の時刻が迫っていた。
「先輩、今日はありがとうございました!」
「こちらこそ楽しかったよ。どこ方面の電車なの?」
「ちょうど次に来る電車に乗りますよ」
「俺も同じだ」
「私、テレポートで帰りたいなー」
確かにこういう時のためにテレポートを使うべきだ。俺だってそうしたい。しかし残念なことに、
「それがさ、俺が行ったことがあってイメージできる場所じゃないと使えないんだよ。それに二人同時にできるかは分からない」
「本当にゲームみたいですね!」
そして同じ電車に乗り、同じ駅で降りた。それから、日向さんが「すぐそこなので、ここまでで大丈夫です」と言った所まで一緒に歩いた。
家バレはしたくないだろうから、部屋に到着したら連絡してもらうことにした。
業務連絡用として、有名なコミュニケーションアプリでの連絡先なら教えてもらっていたのだ。
ほどなくして『部屋に着きました!』というメッセージが届いたので、俺は返信してから帰ることにした。だがこことは全くの逆方向である。
乗った電車がすでに逆方向だったが俺一人なら、それこそテレポートで帰ればいいだけの話だ。
目を閉じ、「テレポート」とつぶやいた。
まるでジェットコースターに乗っているかのようだ。顔に風がぶつかる感じがする。今だけ髪型がオールバックになっていることだろう。俺も絶叫マシンが苦手なのだ。
部屋に着いたが、ぐったりだ。
MPが存在するのかは分からないが、ゲームと同じなら一晩寝れば回復するだろう。
今日は本当にいい月曜日だった。
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