第3話 魔法の話をする二人
俺が『テレポート』の魔法が使えることを話すと、「いいなー。私、先輩と一緒がよかったなー」と
どういうつもりで言ったのかは分からない。気さくな日向さんなので何気なく出てきた言葉なだけで、そういう意味ではないことも十分に考えられる。
少なくとも嫌われてはいないことは分かるが、同じ職場でしかも俺が教育係なのだ。あまり短絡的に考えるのはよくない。
「もしかして俺のこと好きなんじゃね?」なんて調子に乗って失敗すれば、仕事が地獄と化すだろう。それでも俺が今まで通りにしていれば問題無いんだろうけど、日向さんに余計な気を使わせてしまう。
それに今のところ俺にとっては『かわいい後輩』である。
ただ、その言葉を聞いて黙っているのは良くないと考えた俺は「そうだったなら俺も楽しかっただろうなぁ」と返したのだった。
「先輩、テレポートって使うとどんな感じなんですか?」
「テレポートって聞くと気が付けば一瞬で移動してるみたいなイメージがあると思うけど、実際は例えるならジェットコースターの最高地点から急降下しているような感覚がするんだよ」
「そうなんですか! 私、ジェットコースター苦手なので使えても使わないかも」
「実は今日の午前中に休憩で席から離れた時に、テレポートで家まで忘れ物を取りに帰ったんだよね」
「あの時の魔法、使っていたのは先輩だったんですね! だったらその前のも先輩ですか?」
「今日は遅刻しそうだったのでテレポートで出勤したから、その時のものかな。俺からも質問していい?」
「どうぞ!」
「魔法の察知って、実際どうやるの?」
「気配というか、マンガみたいに言うと『ピキーン! 』って感じです。言葉にするのは無理かも」
「凄く分かりやすい表現!」
「先輩なら分かってくれると思いました!」
「でも俺が最初に覚えた魔法は『手に持った物の温度を変えられる魔法』だったよ」
「覚えたい魔法が違ったからでしょうか? 私、マンガやゲームでもサポートをするキャラクターが好きなので、サポート魔法を希望したんです」
「俺なんて希望した魔法がテレポートだったから1ヶ月もかかったよ」
「えぇー、十分うらやましいですよー! それに物の温度を変えられる魔法だって、今日みたいに使い道があるじゃないですか。だから今は7月なので先輩に毎日私の水筒を持っててもらおうかな」
「俺、冷蔵庫じゃないからね」
「冗談です! ずっと持ってもらわなくても、必要な時だけお願いすればいいんですよね」
そう言った日向さんはいつもみたいに笑顔だった。その表情を見ると、楽しんでもらえてるのかなと俺は安心した。
それからも話していると、そろそろ帰ろうか考える時間になった。今日は月曜日なので、土日の休みまでは程遠い。それに遅い時間になると日向さんが心配だ。
さすがに入社3ヶ月の後輩に支払いをさせるわけにはいかないので、全額俺が支払った。
日向さんは「私が誘ったんですから私が支払います!」と言ってくれたけど、俺は「面白い話を聞かせてくれたお礼だから」と断った。
「ありがとうございます! 次は私がごちそうしますね」
(次? 次があるのか? いや、次を作るか)
俺がどう返事しようかと考える間もなく、意外な言葉が聞こえてきた。
「先輩、まだお時間ありますか? 私、観たい映画があるんです。一緒に行きましょう!」
確かにまだ間に合うだろうけど、そうなるとかなり遅い時間になってしまう。日向さんも電車通勤だということは知っている。でも俺は日向さんの住所を知らないから終電に間に合うかどうかは分からない。
「お時間ありますか?」という問いに対しては「山ほどあります」と堂々と答えよう。
「俺はいいけど、日向さんは大丈夫? 時間なら山ほどあります」
「フフッ、山ほどですか。それならお時間いただいちゃいますね。私なら大丈夫ですよ。ちゃんと帰れますから」
そんなわけで今から映画を観ることが決まった。日向さんはどんな映画を観るんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます