22 エストニア紀行 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦(梨木香歩)

 エストニア紀行 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦/梨木香歩/新潮文庫、212ページ



 紀行文、とひとくちにくくるのもなんだか少し違うような。

 少し不思議なエッセイです。


 梨木香歩の著作といえば、「西の魔女が死んだ」が有名ですね。そちらも読んだことがあり、とても面白くて良かったのですが、エッセイも好みにあいました。


 まず圧倒的な風景描写力が特に心に残ります。

 表題にあるエストニアという国は、ハンザ都市としてスタートし、デンマーク、ドイツ騎士団、スウェーデン、モスクワ大公国、ロシア帝国などの支配を経て、ソ連に加えられ、その後ナチス下のドイツに占領され、再びソ連に戻り独立……というなかなか複雑な経緯をたどった国だそうです。

 このエストニアという難しい位置にある国の歴史と、そこに生きる人々と、自然を見つめ綴る筆致が見事でした。


 嫌味を感じない文章で、私にはとても読みやすい本でした。

 あと、旅程の途中のホテルで出会ってしまった怪奇現象的な話も、ちょっと意表をつかれて面白かったです。


 梨木香歩の小説も良いものですが、エッセイもまたクリアな文章の雰囲気が興味深く、心地良いものだと思います。

 同作者の「不思議な羅針盤」というエッセイ、こちらはまさに「善き魔女」という感じがして面白かったです。よろしければ併せてどうぞ。

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