静物画

 休日を台無しにされ、また月曜がやってくる。いつになったら私は休めるのか。疲労で溺れそうになりながら、無様な犬かきでなんとかしのいでいる。


 誰とも約束せず、誰とも会わず、静物のように生きられたらいい。しゃべらない奴はいないのと同じだなどと言う人はいるが、この世界はむしろしゃべらない存在で満ちている。


 ずっとマラソンしているみたいだ。目が覚めたらもう走っている。ゴールはない。目的地は次々と追加され、最後の目的地を誰も教えてくれない。もうリタイアしよう。二度と私は走らない。自分より劣っていると思っていた人にさえ追い抜かれ、そのことにむしろほっとする。私は道の真ん中で寝転び星を見る。星のめぐりは私の体と同期する。私の呼吸、私の血潮。それらはあの星と同期する。星のまたたきに合わせ、私の体もまたたく。


 私は旅先でずっと眠り続けた。温泉にも入らず、何も見ず、ベットに倒れ込むと朝まで一度も目覚めなかった。目覚めた時には曜日を忘れていた。チェックアウトの時刻も知らず、何を待つでもなくただベッドに座っていた。私は静物だ。何もせず、何も感じず、時間の賑やかな移り行きから限りなく遠ざかっている。


 「死にたい」が私の口癖だった。静物には動かすべき口も、感じるべき心もない。生きている者も死んでいる者もみな静物として一枚の絵に収まる。自分もその一部である巨大な静物画を、私はいつまでも眺め続ける。私はもう死んでいるかもしれないし、まだ生きているかもしれない。

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