宇宙人
今日もあなたは宇宙人を探している。自転車乗って、小さな双眼鏡持って。
あなたの探索には誰もついてこない。あなたはどこでも孤立して、あなたの名前を誰も覚えようとしない。
たとえ宇宙人を見つけてもあなたはひとりだ。あなたは遠くから双眼鏡で見つめるだけで、声をかける勇気もない。
あなたの自転車はあなたを宇宙に連れて行ってくれない。あなたの小さな双眼鏡はあなたに宇宙を見せてくれない。あなたはこの町でひとり年をとり、この町でひとり死ぬ。
時々あなたは恋をする。相手と話したこともないくせに、結婚生活まで克明に想像する。あなたは失恋したことがない。最初から恋などしていないから。
あなたは覗きの常習犯だ。宇宙人探しの帰り、あなたは小さな双眼鏡で人々の姿を追い回す。あなたに見せるためでない、誰かに見せるための表情や仕草、下着姿をあなたは目に焼きつける。あなたのことは誰も見ようとしないのに。
あなたは自分の心を消してしまいたい。でも自ら死ぬ勇気はない。肉体は安全なままで、心だけ消えてしまえばと都合のいいことばかりあなたは考えている。心さえ無くなれば楽になれるとあなたは信じている。あなたに心があるなんて誰も信じていないのに。
あなたは宇宙人に誘拐されたい。解剖されて、ばらばらの手足と臓器になって、真空の宇宙に置き去りにしてもらいたい。
あなたはまだ宇宙人を見つけられない。「宇宙人」という概念だけがあなたの頭の中に棲みつき、やがてメタファーとなって境目を曖昧にしていく。メタファーは気ままな連想に任せてあらゆるものを指示していき、やがてあなたもメタファーに指示される。
あなたは宇宙人だ。
驚いたあなたは双眼鏡を逆さまに覗き込む。しかし宇宙人の姿は見えない。風景がけし粒のようになって、すべてがあなたから遠ざかる。
あなたはどこまでもひとりだ。あなたはひとりで生き、ひとりで死ぬ。そのことをあなたは、怖れたり、怖れなかったりする。
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