君にことずっと探していた。でも遅かったみたいだ。君はもう君でなくなり、僕の声も届かない。


 君は変わり果ててしまった。そう言ったら、そうかもしれない、と君は笑った。話はそれ以上続かなかった。


 続きがあると信じていた。会えばまたあの話ができると思っていた。君はあのとき何を言いたかったのか。僕は君が次に言う言葉を恐れ、何も言わずに黙っていた。今なら君の言葉を恐れない。それが僕に対する憎しみに満ちた言葉だろうと。でも、君は黙ったままだ。昔も、今も。


 君は黙って笑っている。君は逃げ水のように、つかもうとしても届かない。君から手を伸ばしてくれないか? でも君の手はひらひらと愛想笑いばかりして、決して僕に触ろうとしない。


 かつて僕たちは愛し合い、そして憎しみ合った。ひとつになりたいと願ったのに、ひとつになれなかったから。ばらばらでいいとなぜ思えなかったのか。僕は君の存在を許せなかったし、君は僕の存在を打ち消そうとした。少しの違いも認めることができず、すべて同じでなければ我慢できなかった。僕たちはあまりに幼く、お互いの悪口ばかり言っていた。君の服の趣味は最悪だ。あなたの言葉遣いにうんざりする。君はもっと本を読んだ方がいい。本当は、一緒にいたいだけだったのに。


 今なら君を許せる。君との噛み合わない会話を楽しみたい。君の低い背丈を愛おしみたい。君の生意気な意見を受け入れたい。でも君は黙ったままだ。


 僕もまた黙っていた。十年ぶりに会ったというのに。お互いを思いやる沈黙ではなく、社交上の沈黙だった。僕らはただ笑い、無闇にお辞儀をし、そして別れた。そのときはまだ続きがあると思っていた。でもそれが最後のチャンスだった。


 君が亡くなったと聞いて、それでも続きがある気がしていた。無宗教のくせに天国を思い浮かべ、君との再会を何度もなぞった。天国の君は優しく、僕の言い訳をすべて黙って受け入れた。反論はしてくれなかった。


 君は天国にはいない。この空虚だけが君の唯一の痕跡だ。僕は空虚を引っ掻き続け、君がいないことを確かめる。

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