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中央フリーウェイばかり聴いていたのは

高校一年の春休みだっけ

誰とも会わず 毎日ひとりで

雪どけの町の匂いを嗅ぎながら

CDをリピートさせてた


世界は清潔で何も存在しなかった

春休みがずっとつづけばいいと

僕はカレンダーばかり眺めていた


僕は何者にもなりたくなかった

いつでもない時間の中で

中央フリーウェイを聴いていればよかった


だが春休みはいつのまにか終わり

僕は中央フリーウェイを聴かなくなった

生きていくためにはもっと別の音楽が必要だった

強くあるための音楽

寒さに耐えるための音楽

それらは僕を僕でなくしていった


いつかまたあの春休みが来ることを

どこかで待ち望んでいた

中央フリーウェイばかり聴いていたあの時間

音楽と季節と僕はひとつになって

すっかり境目をなくしていた


しかし僕は春からも音楽からも拒絶され

しかもそれらを拒絶し

スケジュールばかり気にするようになった

誰かと過ごす時間がどんどん増え

僕は孤独を感じなくなった

そしてそれがより深い孤独であることに

どこかで気づいていた


夜中に目を覚ますことが増えた

僕はうまく眠れなくなり

眠ったふりをしながら

誰かと無益な交渉をくりかえした

なぜこんなことになったのか

他人事みたいに状況を伝え

その誰かの慈悲を待った

しかし僕が再び眠りに落ちることはなく

毎日疲れ切ったまま仕事に出かけた


なぜこんなことになったのか

それは考えなくてもわかってる

認めようとしないこと

見て見ぬふりで生きてきたこと

それがすべての原因であり

それがすべての結果でもある


中央フリーウェイは

滑走路に直結していたんだっけ?

制限速度を数百キロオーバーして

車は夜空に飛び立った

東京の街はみるみる小さくなる

まるで神経症の人が作った箱庭のよう


そんな風景を

僕はあの春休みに見ていたのだろうか?

ほとんど忘れてしまった

記憶の剥がれたところを後知恵と屁理屈で補修して

もはや原型をとどめていない

中央フリーウェイという曲のことを

僕はもうそれほど好きではないのだ


思い出す時間が多くなった

それなのに何ひとつ正確に思い出せない

手を伸ばせば

その手が風景を台無しにしてしまう


あのころ孤独は僕の友だちだった

また一緒に遊びたくて

僕は偽物の孤独をこしらえつづける

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