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似合わないスーツだって
毎日着ているうちに似合ってくるよ
あの人はああいう人だってことになってさ
君が前みたいな服装で現れたら
かえってみんなびっくりする
周りの流れに合わせればいいんだよ
気にするな
こだわることなんかないんだ
そのうちそれが当たり前に思えてきて
流れに合わせない人に腹を立てるようにさえなる
そうして君は権威になる
しかし君が流れをつくっているわけではない
君がどんなに偉くなっても
流れに合わせているだけなんだから
前にスーパーのパートの募集広告で
「ご飯を四角く詰められるようになりました」って
女性がお弁当を差し出してる写真を見たよ
誇らしげな笑顔で
ご飯を四角く詰められたってどうでもいいことだ
でもみんながそうしてるから私もそうする
私も流れに合わせられるようになってよかった
そういう広告だったのだろう
ユダヤ人をガス室で殺すのだって
職人技というものがあるんだろうねえ
先輩たちはすごいなあ
全員が死ぬのとぴったりにガスを止めることができるんだ
ガスの不足も無駄もまったくない
私もいつかあの人のようにならなくっちゃ
それが流れに合わせるということさ
スーツを着て
ご飯を四角く詰めて
ガス室でユダヤ人を殺す
流れに合わせればみんなが喜んでくれる
友だちだってたくさんできる
流れの一部になるという幸福
それが君にはわからないのかい?
何にこだわっているのか
思考を手放すことの何がいけないのか
どうせみんな思考なんかしてないんだ
余計なことは考えないで流れに身を任せよう
だからそんな仏頂面するなよ
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