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寝不足だった
二時間しか眠っていなかった
死ぬほど眠たかった
それでも起きなければならなかった
もう朝なのだ
私の寝不足を気にもかけず
鳥たちは飛び回り
互いに互いを呼び合っていた
私は布団を敵のように跳ねのけ
味のしないパンにかじりつき
反吐を垂らしながら歯を磨き
スーツに着替えネクタイを締めた
まだ二時間しか寝てないのに
私は家を出た
見送る者は誰もいなかった
電車は今日も満員だった
人々に押しつぶされながら私は眠った
座ることも倒れることもできずに
直立したまま次第に体がせり上がっていった
まるで宙に浮いていくようだった
実際のところ足は床に着いていなかった
周りの人たちもみんな浮いていた
そして互いに押し潰し合いながら眠っていた
みんな二時間しか寝ていないのだ
七時間睡眠まであと五時間
それなのに電車は十分で駅に着き
私はまた目覚めなければならなかった
仕事は時計の針のように進んだ
あるいは時計の針そのものが仕事だった
一時間の会議を一時間半かけて終え
四十五分で書類を書き上げ
メールの返事に一時間かかり
コーヒーブレイクと称する打ち合わせで三十分潰れ
面会予定者とともに三十分を過ごし
面会が終わってもだらだらと十五分話した後
プレゼン資料を十分で手直しし
また一時間の会議が始まり
もちろんまた三十分伸びた
もし時計が無かったら
自分が何をしているのかもわからなかっただろう
二時間しか寝ていないということさえ
気づかずにいたはずだ
時計が無い種族の人々から見たら
私は何もしていないように見えるのではないか
獣も狩らず
麦も蒔かず
衣服を繕うことさえしない
なんという怠け者かと
呆れられるのではないか
しかし私は時計のある種族なのだ
それが無意味な労働であるとしても
他にやりようがあるわけではない
帰りの電車で私はまた眠った
今度は席に座れた
両隣の人を押しのけるようにして
お尻半分ほどのスペースに
お尻全部を詰め込んだ
そして一秒で眠りに落ちた
「一」
と数えたからそれは間違いない
もっとも正確を期すれば
それは一秒からコンマ数秒後のことだったろうが
人々に押しつぶされながら私は眠りに落ちる
この時間が何より幸せだ
文字通り人肌の
極上の布団に包まれて
体も心もぬくもっていく
もう時間を計らなくていい
時計を持たない種族のように
仲間たちと身を寄せ合う犬ころのように
私は見知らぬ人の体温の中で眠る
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