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電気ガス水道の話をしよう
正義の話をするのもいいが
私は電気ガス水道の話がしたいのだ
電気ガス水道の手続きは面倒だ
何度も電話しなければならず
手続きがうまくいったかどうかは
使ってみるまでわからない
できることなら避けたい問題だ
電気ガス水道のことなんて誰も考えたくないだろう
すべてうまくいった
もう電話する必要はない
そう思っていたらはがきが届く
手続きはまだ終わっていなかったのだ
殺したと思った敵がよみがえり
怨霊として人生の前に立ちはだかる
これが電気ガス水道のやり口なのだ
電気ガス水道の話をしよう
正義の話よりもよほど重要なことだ
生まれたときからその関わりは始まり
死ぬ瞬間まで我らにつきまとう電気ガス水道
弱音を吐いてはいけない
真っ向から電気ガス水道に立ち向かって
言いたいことを言わなければならぬ
君は電気ガス水道に何と言うつもりなのか?
奴らには耳も無ければ慈悲も無い
肉体を持たず形も持たない非生物
怨霊よりもたちが悪い
これは我らの運命なのだ
電気ガス水道のように生きられたらいい
このみじめな肉体を捨て去り
我らも電気体や気体や液体になろうではないか
それは栄光の日々だろう
悩まされる側から悩ませる側に転回すること
傍若無人な支配者になること
電気ガス水道が人間に仕えるのではない
人間が電気ガス水道に仕えるのだ
この肉体を捨て去らぬ限り
電気ガス水道に悩まされるしかない
そう言いながら人間はすき焼きを食う
電気のついた居間で
ガスコンロの上のすき焼き鍋をみんなで囲み
水道水をときどき注ぎ足して
牛肉を箸でつつく
電気ガス水道がなければ
今ごろ我らは暗い囲炉裏で
冷たいお粥をすすっていただろう
電気ガス水道の話をしよう
悪いことは言わない
我らは電気ガス水道の話をする時なのだ
正義の話をするのはそれからだ
すき焼きでもつつきながら
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