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どうせ人生を棒に振るのだからと

毎日を無駄に過ごしている私のもとに

佐藤さんがやって来て

すべてを台無しにしてしまうのです


どうせ私はタワシ頭で

女の人に相手にされないものですが

そうなってしまったのも

ぜんぶ佐藤さんのせいです

それは私の幼いときのことです


長くなるのでやめておきましょう


佐藤さんはきれいな髪をしています

シルクヘヤーというのでしょうか

タワシヘヤーとは大違いです


私は子どもたちにいじめられています

背の低いヤクザのような子どもに蹴られます

こんなことになったのも佐藤さんのせいです

私がまだ幼いときに


まあ

やめておきましょうか


私が何を始めようとしても

佐藤さんが台無しにしてしまいます

何を終わりにしようとしても

佐藤さんが台無しにしていきます


どうせ人生を棒に振るのだからと生きてきたのに

私は今

佐藤さんと役所にいます

佐藤さんに言われるがままに

たくさんハンコを押しました

このあとふたりで写真を撮って

帰りにご飯を食べるのです


また台無しです

人生を棒に振るつもりで生きてきたのに

気がついたら私の人生に

佐藤さんが棲みついていたのです

これでは棒に振れないではないですか


こうして佐藤さんは熊田さんになりました

私も熊田さんですから

どっちがどっちかわかりません

何もかも台無しです

佐藤さんには佐藤さんのままでいてほしかったのに


でもこう言うと

元佐藤さんの熊田さんはこう答えます


わたしもあなたに台無しにされたんだよ


なんのことを言っているのでしょうか

私ほど無害な人間はいないというのに

タワシヘヤーには到底理解できない話です


話の腰は折られっぱなし

台無しになった私の人生をどうしてくれるのか


さあ どうしようね

わたしたちの人生


そう言って

彼女は私にほほえむのです

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