第2話 拗らせBSSってただの自業自得だと思うんですよ。


「えっ?あの、えっ?えっ??」


 金髪美少女ちゃんはすっかり混乱しているようなので、俺は構わず地面に散らばったおかずをひとつ手に取り、砂をさっと払って口に放り込む。美味い!テーレッテレー!……しっかりとした味付けは手間と時間をかけたからこそ。これは間違いなく恋する乙女の手料理の味、俺は詳しいんだ!!……ほう、やりますねぇ。


「あの!それ地面に落ちて―――」


 我に返った金髪ちゃんが慌てて俺に声をかけてきたので、サムズアップと共に答える。


「大丈夫だ、問題ない。―――地面に落ちても3秒以内ならノーカウントなんだぜ?3秒ルールってやつさ」


 そう言いつつ地面に落ちたおかずをリズミカルに拾いながら、砂やゴミを払ってひょいぱくひょいぱくと口に放り込んでいく。パクパクですわー!


「いえ、そうではなくてお腹を壊してしまいます!それに3秒なんてとっくにたって――――」


 俺を止めようとする金髪ちゃんに、懐から懐中時計を取り出し―――チョップして秒針を止めてから見せる。


「ほら、まだ3秒たってないからセーフ」


 ――――すまんな懐中時計、後で修復してやるから許してくれよな……!!


「大丈夫ですわ、グレイブ様は女の子の手料理を食べるためなら砂くらい気にしませんわ~♪あと、地面に落ちた食べ物を拾って食べる位で壊すほど繊細なお腹をしてはいないので問題ないですわ♡」


 そう言ってラヴェルが横から合いの手を入れてくる。―――フフフ、俺バカだから褒められているのか貶されているのかよくわからないけど多分褒められてる気がするからヨシッ!!

 

 ちらりと視界に入った地面に突き刺さったモブ男子君は意識を失ったのか、情けなくも足を左右に大きく開いている。湖面と地面は違うけど、そのポーズはなんだか犬神家のナントカっぽいなぁ。まぁ本人も咄嗟に防御魔法かけてダメージ軽減させてたみたいだし死なないだろう。回復魔法でもかければ怪我は治るだろうし気にする必要は全くないな!


「ラヴェル、俺はちょっとこの御馳走を食べるのに忙しいから、その間その犬神家野郎の股間でもわからせてやっててくれ」


「イヌガミケ野郎ってなんですの?……でも、了解ですわ~!ラヴェル臣拳(しんけん)奥義、ラヴェル百裂拳~あたたたたたたたたたたたたたたたあたーっ!」


 テーレッテーというBGMでも聞こえてきそうな雰囲気で、クワッと劇画調テイストの真剣な顔になったラヴェルが犬神家のポーズになっているモブ男子の股間を両手のパンチで滅多打ちし始める。その度にビクンビクンとモブ男子の全身が痙攣しているが、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。

 俺は地面にぶちまけられた料理をてきぱきと食べきり、手を合わせた。


「――――御馳走様でした」


「え、あの、お粗末様でした……?って、そうだバーン君……?!」


 金髪ちゃんがそう答えたところで、ラヴェルにちんちん殴られすぎて今はもう動かなくなったモブ男子の存在を思い出したようで駆け寄る。へぇ、その大股おっぴろげ軟弱野郎はバーン君というのね。


「とぉーっ、ラヴェル臣拳秘奥義、ラヴェルの極み!アーッ!ですわ~!」


 おっとぉっ、それ以上いけない!それやると多分バーン君の股間が粉砕されてしまう!……のでひとまず制止させる。


「そこまでにしておけよラヴェル」


「畏まりましたですの!」


 俺の言葉に即座に動きを止めるラヴェル、判断が早い!

 一方で地面に突き刺さりビクンビクン痙攣しているバーン君を前に金髪ちゃんがオロオロとしていたので、しょ~~~~がねぇな~~~と立ち上がってからバーン君の片足を掴んで引っこ抜く。

 ズボォッと勢いよく引き抜いてから地面にリリースしてやると、窒息していたのか土気色になっていたバーン君の顔色も徐々によくなり、屈辱と怒りに震えた目で俺を睨んできた。

 お、メンチバトルやんのかい?と睨み返すと即座に怯えた目で視線をずらして今度は金髪ちゃんを睨みつけはじめた。こいつ自分より強い相手からは目を逸らして女子にはイキるとかダメすぎじゃない?


「クソッ、クソッ、どいつもこいつを俺を馬鹿にして……!

 ラキシスゥ、お前もさぁ、綺麗になったらちやほやされてさぁ、俺の気持ちも知らないで……!!どの面さげて今更幼馴染ヅラしやがるんだよこのクソ女ァ!!嫌がらせかよぉ!!」


「違ッ、私そんなつもりじゃ……!!」


「五月蠅い黙れっ!!可愛くなったって言われるようになってさぁ、クラスの皆と仲良くしてさぁ!俺の事なんてもうどうでもいいんだろうがよ!!」


 バーン君、もしかしてもこいつ駄目な奴じゃないの??え、何?逆恨み?BSSかな??


「違う、違うよバーン君。私―――」


「うるさいんだよボケがよぉ、お前の言葉なんか信じられるかよぉ!もうクラスの奴らと皆で出かけたり仲良くするなよ!!」


 ふむ、なんとなくだけど状況が理解できて来たぞ。この2人は幼馴染で、S級金髪美少女のラキシスちゃんは可愛くなってから友達の輪が広がったのかな。

 それに対してこのモブ男子もといバーン君はそれを妬んで、僻んで、被害者面してるのだろうか……いや、逆恨みする前に自分を磨いたら??


「ヘイヘイヘーイ!はいそこまで。バーン君さぁ、何我儘放題言ってんの?この子が誰とどんな交友関係持とうと関係ないんじゃない?」


 見ていられないので口を挟むと、顔を真っ赤にしたバーン君が今度は俺に視線を向けて来た。


「なんだお前は!いきなり俺に暴力を振るいやがって」


「誰だ?って聞きたそうな顔してるから自己紹介するけど、俺は通りすがりのお節介焼きだ!女の子が傷つけられてたから見てられないので首突っ込んでみた!」


 茶化すように言うと顔真っ赤にしてグギギ……と歯を食いしばるバーン君。煽り耐性低すぎんか??


「何をゴチャゴチャと、お前には関係ない!!この女は俺の幼馴染なんだ!!俺には文句を言う権利があるんだよ!!」


「―――いや、幼馴染だからって自分の所有物みたいに扱って良い訳ないし、見て見ぬふりもできないだろ。あと、女の子が作ってきてくれたお弁当叩き落すような奴がモテるわけないじゃん」


 あまりに身勝手な言い分に思わずツッコむと、バーン君はぐうっと唸り、答えに窮したのか立ち上がると叫びながら向かってきた。


「黙れぇーっ!!お前何様だーっ!!」


 まるで駄々っ子のガキだなぁと呆れながら、突き出された拳を掴みながら身体を捩じり捻りあげる。後ろ手に拳を捻りあげられたことで、前傾姿勢で無様にもがくことしかできないバーン君。これぞ伝家の宝刀、准将固め。


「やめてよね。本気でやってバーン君が俺に敵う訳ないだろ」


 そう言ってから突き飛ばすように手を放すと、情けなく尻もちをついた。バーン君は悔しそうな顔をしてこちらを見た後、泣きながら走り去っていた、と思ったら立ち止まって振り返った。


「くそっ、くそがっ!!おまえみたいなバカ女、ざまぁされろ!!!!!!おまえみたいなのはなぁ、無様に惨めにざまぁされるように出来てるんだよこのクソビッチがぁっ!!」


 こちらから充分に距離を取ると、大声でそんな捨て台詞を叫んでから再び逃げていく。負け犬の遠吠えなんてするやつ初めて見たわ。うわぁ……うわぁ……。あの少年の親御さんは一体どんな教育をされたんだろうか。思わず遠い目をしながら空を見上げてしまった。

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