第116話 初飛行
「ふぅ~~~~! たぁ~のしぃ~~~!!」
「だ…大丈夫だって言うのは理解出来るんですけど、やっぱ…慣れるまで怖いですね」
「飛ぶ…というのは不思議な感覚ですわね………手足に何も触れてない、動かしてもいないのに前後左右、それに高さまで自由に移動出来るなんて」
今居る場所は上空1000m程、そこで【初めて空を飛ぶ】という事に対して、ユウカは楽しさを、ティナは不安を、そしてリミーナは奇妙な感覚と感動を感じるといった、三者三様の様子を見せる。
この魔法の開発者であるアヤカは効果を全て知っているので、飛ぶも進むも一切迷いは見られない。
「ユウカ! 余り調子に乗って離れすぎるなよ! 何かあった時に直ぐに駆けつけられない!!」
「あーい!」
興奮し過ぎて聞いちゃいないな、まぁユウカは後で注意するとして。
これだけ高度があれば、下で気付いたとしても人が飛んでるとは思わないだろう、仮に人とわかったとしても、誰かまでは判別出来ない距離だろうけど。
「それで、ここからレーザックまでの距離はどれくらいになるんですか?」
「大体国境からガルバドールと同じ程度の距離ですわね」
「って事は、乗合馬車だと3~4日くらいでレーザックに到着かな?」
「そうですわね。ですが今はそれよりも速い速度で移動してますから、今日中、もしかすると明るい内に到着するかもしれませんわ」
国境からの距離か……グランシールからの馬車は速歩きくらいだったから、多分1時間当たり5~6km位の速度はあったはず、1日に数回休憩を挟んで暗くなれば野営だったから、1日の移動時間としては10時間位と仮定すると、多少前後したとして1日約50~60km移動か。
それを国境から3日って事は約150~180kmって所か、ユウカの飛翔魔法なら3時間位で着けば目測通りだな。
「お兄ってば難しい顔してまた考え事?」
「あっぶないな!!」
スマホで時間を確認するナナセに、ほぼ最高速度で接近して急停止するユウカ、その危険行為に思わず怒るナナセだが、当の本人は気にする様子はない、寧ろ驚かせてやったと、小悪魔的な表情を浮かべてすらいる。
「ユウカ、マジで人に接近する時は速度を落とせ。冗談抜きで危ない」
「大丈夫だって、これなら即急停止出来「速度を落とせ、い い な !」
「は…はい……」
全く、ステータスがあるせいで危険行為線引きが緩くなってるな、60km近い速度でぶつかったら痛いじゃ済まないだろ……。
先程「後で注意する」と思った事に対して甘い考えだったと、ユウカの行動に頭を悩ませるナナセに、ティナとリミーナが話しかけて来る
「ねぇカズシ、知ってたら教えて欲しいんだけどさ」
「ん? 物にもよるけど、どうした?」
「今の私達は相当な速さで移動していますわね?」
「そうだな」
「ならさ、どうして移動してるように見えないの?」
移動してるように見えない? どういう事だ?
現在進行形でかなり高速で移動しているんだが、一体何の事だ?
「言ってる意味が良く分からないんだが、今かなりの速度で移動中だぞ?」
2人の問いに、ナナセは首を傾げながら答えるが、両者共に腑に落ちないといった表情をしてる以上、納得出来てない様子。
その時視界の端に地上の様子が目に入り、ある事に気付く。
「なぁ、もしかしてだけど2人共、ここから地上を見た時に、景色が余り移動しない事でそう思ってたりするか?」
両者同時に頷く。
どうやらナナセが考えた通りの事らしく、ティナもリミーナも答えを知っていると察したのか、じっと回答を待っている。
ナナセはそっと音喰をティナとリミーナの目の前数cmの所に掲げる。
「これを今いる所から一歩も動かず、端から端まで見るにはどうする?」
「どうするって、首を動かすしか」
「そうですわね、それ以外方法が見当たりませんわ」
「んじゃ、そのまま動かないで居てくれ」
するとナナセはゆっくりと2人から3m程距離を取る。
「これならどうだ?」
「そこまで離れましたら、刀の全体像が見えますわよ」
「了解、これが答えでもあるんだけども」
「答えでもある?」
「そっ、ここから地上までは1000m近く離れてる。それだけ離れてれば、少し移動した位じゃ、目標となる物との距離が有り過ぎて、移動した様には見えないって事」
「目標との距離が有り過ぎて」
「移動した様には見えない……」
そこまで言うと2人はハッとした顔でナナセと地上を見比べる、どうやらナナセが言った事の意味が理解出来た様だ。
普段は木や雑草等の植物が常に目の前にある状況な為、実際空を飛ばない限りは、周りに何も無いといった環境にはならないので、気付けなくて当然だろう。
「分かった所でオレに捕まってくれ、アヤカとユウカが先で待ってるみたいだから、少し急ぎたい」
レーザック方面の空をナナセが指差すと、大分離れてしまったが、先の方で黒い点が2つ浮いている、恐らくそれがアヤカ達だろう。
「わかったけど、捕まるって……こうでいいの?」
「失礼致しますわ」
2人は左右からナナセを挟む様にし、首に手を回して捕まる。
「オレも支えるから振り落としたりはしないと思うけど、しっかり捕まっててくれ。それじゃ……行くぞ!」
「しっかり捕まっててくれ」、この言葉で首に回された手に力が籠る、同様にナナセもしっかりと2人を抱え、アヤカ達の元まで全力で飛行移動をする。
その際ナナセが出したスピードは、アヤカの飛翔魔法の優に倍以上は出ており、初速から最高速度の衝撃がティナとリミーナを驚かせた。
「うぅ!」
「っく!」
恐らく話し込んでいた時間は5分程度、アヤカ達が最高速度で移動していれば、約5kmにギリギリ達しない程の距離移動していたのだが、ナナセはそれを1分30秒程度で縮める。
「待たせてごめん」
「それはいいんですけど、凄い速さで飛んできましたね。3人で話してるみたいでしたけど………何があったんですか?」
「あぁそれは、上空から地上を見ると移動してない様に見えるって言われて、それの説明を」
「あ~ま確かにそう見えるよね」
既に止まっているにもかかわらず、首に回した手の力を緩めない2人、それ所か目を強く瞑って少し震えてすらいる。
ナナセが支えていた部分を軽くポンと叩いて合図を送ってやると、ようやく止まっている事に気付く、そしてアヤカとユウカに、ナナセにしっかりしがみ付いている所を見られ、急いで離れる。
「ちがっ! これはカズシが捕まれって言うから!!」
「そうですわ! アヤカさん達と離れてしまったので、その距離を縮める為に!」
「分かってますよ。離れてしまうと魔法を掛け直せませんからね」
盛大に慌ててるな、高速移動する為に捕まってただけだから、慌てる必要も無いと思うんだが……まぁ女の子には色々と複雑なものがあるんだろう。
男のオレには分からない事だが、後は単純に、震えてるのを見られたってのが、恥ずかしいだけかもしれんし。
「ねぇねぇお兄」
「ん? どうした?」
「両手に花の感想は?」
「……お前は本当に」
ユウカの発言に対して、ナナセは眉間に手を当てて考える、どうすればこのお調子者な性格を矯正出来るのかと。
そして即座にある事に辿り着く、自分に出来る事であれば既にアヤカがやっているはずだと、ナナセはユウカの顔を見ると深く溜息をしながら顔を逸らす。
「え? なになに、私の顔なんか見ちゃってどうしたの?」
「いや…何でもない。それよりもレーザックに急ごう、何だかんだと立ち止まってる時間が多い」
この一言でティナとリミーナはいつもの調子を取り戻し、移動を再開するが、飛びながらアヤカの説教を受けてるユウカ以外はいつも通りと言えるだろう。
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