第115話 新スキル
宿に戻って来て早々に部屋のソファーへと倒れ込むナナセと、ほくほく顔のユウカ、心配そうにナナセを見るアヤカと、自分の装備を受け取ったティナ、そしてどうしたらいいのか分からないリミーナの姿がある。
原因は以前立ち寄った服飾店に、工房の帰りに寄った際、そこでユウカが。
「大人しく引っ込み思案なお兄を変えてやんよッ!!」
と、はっちゃけたのが大きかった。
アヤカ達もナナセに見繕おうとしていたが、散々ユウカの着せ替え人形にさせられている様子を見て止め、今に至るという訳だ。
一応力尽きる前に、自分で今着ている物と似た雰囲気の服を3着購入出来たが、それで精根尽きたらしい。
※衣服代 大銀貨1枚 銀貨2枚
「………疲れた……魔物と戦うより遥かに……」
「あれくらいでだらしないなぁ、そんなんじゃ女の子にモテないよ?」
「……別にいいです…」
(カズシがあそこまで疲弊するなんて)
(
(どうしましょう、今後の動きについても話したかったですのに、これでは…)
(大丈夫だと思うわ、カズシさんはその辺の事についてはしっかりしてるから)
大きいソファーで棒の様に横になったまま大きく一度伸びをした後、ナナセは体を起こす。
「とりあえず、アヤカ達はどんなスキルが追加されたんだ? 何も無しじゃオレの力を上回れないだろうから、スキルと見てるんだけど」
模擬戦での出来事に対してナナセが指摘をすると、アヤカは「はぁ」と一息つき、呆れ顔で答える。
どうやらナナセの推察通りスキルに関係しているらしい。
「どうしてそう直ぐに分かるんですか、ちょっとは悩んでもらわないとばらし甲斐が無いです」
「まぁ、レベル以外にステータスを上げる方法で言えばマジックアイテムか、スキルのどっちかって憶測なだけなんだけど」
「全くもう、これが今のステータスです」
【名前】 アヤカ ユキシロ
【レベル】 38
【生命力】1199 【魔法力】874 【力】981 【魔力】859
【俊敏性】841 【体力】528 【魔法抵抗力】639
【物理攻撃力】981+600 【魔法攻撃力】859
【防御】264+270 【魔法防御】320
【スキル・魔法】
・護身術 ・初級/下級/中級魔法(水)(風)
・ストレージ・スペース【ユニーク】 ・魔力干渉Ⅱ【ユニーク】
・エクスチェンジマジック
魔力干渉Ⅱ【ユニーク】:範囲事象破壊
魔力で起こる特定範囲に効果・影響をもたらす事象を破壊。
エクスチェンジマジック【レア】:自分の魔法力を力へと流し込み、一時的にステ
ータスを強化。流し込んだ魔法力は消費され戻
らない。
「成程、オレを力尽くで崩したのはこの【エクスチェンジマジック】で力を強化したからか」
「私の全魔法力の内、8割程使って何とかですけどね。それと魔力干渉がⅡに変わった事で単体魔法だけじゃなく、説明内容的に範囲魔法まで破壊が出来る様になりました」
「でもさ、レベル38って、フリージングウルフから魔物は倒してなかったのに上がり過ぎじゃない?」
「言われてみればそうだね。あの時のカズシだって、ブラッドオーガを倒して10も上がらなかったのに、アヤカさんは10以上上がってる」
本当にそこなんだよな、ブラッドオーガの時はオレの方が更にレベルは低かった、なのにレベルが上のアヤカが10以上上がっているのは何でだ?
グランシールからガルバドール到着まで何もなかったはず、あのスチールゴーレムの持ってる経験値が特別高かったって事なのか?
全員がアヤカに起こった現象を考えるが皆目見当もつかない、それはこの世界の出身者であるティナとリミーナも同様だった。
単純にナナセが考えた通り、経験値が高かっただけなのかもしれないが、ギルドや他の冒険者からも、そんな話を聞いた事がないと、誰もが思っていたその時。
「あの、一つだけ原因に心当たりがあるんですけど」
「心当たり? 一体どんな?」
「私がスチールゴーレムを倒した時って、4つに切断された核を攻撃しましたよね? もしかしたら切断された核がそれぞれ1体って判定なんじゃ。というよりもそれしか考えられません」
フリージングウルフ以降アヤカが倒したのはアレだけだし、やっぱりそれしかないよな。
しっかしゲームみたいに
「了解、レベルアップの件はそれで納得出来たとして、後はユウカとティナだ」
「ん? 私達?」
「私達って事は、新スキルの件?」
「そうそう、レベルも上がってないのに新しいのが増えてたからさ」
「って言っても私達本人でも分かんないよ? だっていきなりステータスに表示されてたスキルだし」
「そうだね、気付いたらあったって状態だったから」
「マジか」
いきなりって話しなら、フリージングウルフ討伐から模擬戦までの間に何かがあったって事だよな、でも本人達はその辺に心当たりはなさそうだけど……。
だがレベルアップ以外の理由でスキルの取得が出来るのは間違いない。
「何か明らかに変わったなって瞬間とかはなかった?」
「変わったなって言われても………あっ」
「あった?」
「それかどうかは判断つかないけどさ、お兄が倒れた時に
「言われてみれば、私もカズシさんが倒れた直後に攻撃力が増した様な気がします」
「あの時はカズシも倒れて、本当に危なかったし、何より自分の力の無さが悔しかった」
「私も、あの時ほど何も考えない無力な自分を呪った事は無いわ」
話を聞いたところ、感情の高ぶりで新たなスキルが取得が可能って事か?
いや、それだったら色んな冒険者に広まっててもおかしくないだろう、冒険者ギルドでもそんな話しは聞いた事が無いしな。
「あくまで感情を含めて幾つかの要因が重なった結果、新たなスキルが発生するって考えた方がしっくりくるな。多分他にも取得や習得方法はあるんだろうけど、今の所オレ達には分からないな」
「ちなみに私が取得したのはコレ」
エンハンスマジック【レア】:魔法の使用に必要な魔法力を増加させ、その効果や
範囲、威力を増大させる。
「単純だけど強力なスキルだな」
「でしょ」
「私のはこれになりますね」
風刃Ⅰ:離れている相手に剣圧の刃を当てる
危機感知【レア】:自分やパーティーメンバーへ降りかかる危機を、頭の中に直接
知らせる様な形で事前に察知。
「頭の中に直接って、何かふわっとした説明だけど、どんな感じに来るの?」
「そうだなぁ、具体的に言うと……起こるであろう場面が頭の中に流れる……見たいな感じかな」
「もしかして模擬戦でオレの
「勿論コレのおかげです。じゃないと避けられる訳無いじゃないですか」
すっげぇ、オレとティナのステータス差って相当にあるはずだけど、それをスキル1個であそこまで戦えるようになるのか。
物によってはひっくり返される様な事態にもなるかも知れないな、今分かってよかったわホントに。
「皆さん互いに新しい力について理解を深めた所で、今後はどう動きますの? 正直ここの領主には不信感しかありませんわよ」
「あぁそうだな、それに関してなんだが、模擬戦に入る前、受付でこちらを見る視線を感じた」
「視線って、お兄ってばどうして黙ってたの!? それって領主の差し金って事じゃん!」
「すまない、どの道防ぎ様が無いし。状況的に考えれば、それが一番可能性として高い」
「という事は私達の情報も領主に届いて……」
「ええ、それで懐柔に出るか、貴族としての権力で威圧してくるかは分かりませんわ」
もし傘下に入ろうものなら……絶対に碌な事にならないな。
無理難題を言い渡された上に、いい様に使われてゴミの様に捨てられるだろう、そんなのは絶対にお断りだし、もし本当に威圧してきたら高高度からの攻撃で屋敷でも破壊してやるか。
「その事も踏まえて相談なのだけど、ここでの目的も果たしたし、宿泊日数は残ってるけど、明日にでも次の街に向かうのはどうかしら? 幸い飛翔魔法も完成してるし」
本格的に巻き込まれる前に別の街へ移動か……いい考えだな、ろくでなしからは距離が取れるし、追うにしても移動力の差は圧倒的にオレ達の方に分がある。
まぁこの世界の貴族がどこまで、何を出来るかまでは分からないけど、確実に相手の一枚上を行く。
「オレは良いと思う。悪意が来ると分かってて行動しないなんて、危険極まりないしな」
「だねぇ、どうせこっちの話なんて聞かずに「俺様の言う事を聞け! 貴族だぞ!」、とか言ってくる輩だろうし」
「同感、ギルドマスターの話しを聞く限り、碌な人じゃないのは間違いない」
「異論はありませんわ。本当であれば証拠を掴み、エルハルト王に突き出してやりたい所ですけどね」
こうして宿代が一部無駄になるものの、強欲な領主から何か具体的なアクションがある前に去る為、ナナセ達は次の街への移動を決定した。
そして地図に書かれている街の名前はレーザック、連絡が取れなくなったアサの夫である、タクマ シノノメの居るパーティー、【灰の猟犬】が向かった街である。
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