第114話 新武器

『実戦形式の訓練とはよくやるぜ』


『でもこれで大体のレベルはわかったし、さっさと報告に行こ。早くこんな依頼終わらせて、羽伸ばしたいし』


『気を抜き過ぎるんじゃぁないよ、アンタあの中でやばい奴が2人居るって、分かってんのかい?」


『そんなの居た?』


『居ただろうが! あの男も中々だが、女を1人ずつ相手にして、あそこまで翻弄されてはな。警戒すべきは、剣士なのに魔法を使った女と、ソーサレスのガキだ』


『っぷ! どっちも私らから見れば雑魚じゃん、何? びびってんの?』


『この馬鹿! あのソーサレスは無詠唱で魔法を放ったんだよ! パーティーの回復役のアンタがそれに気付かないたぁどういう事だい!』


『雑魚に興味ないし、無詠唱って言っても下級を使える程度でしょ? 私らをどうこう出来るレベルじゃないじゃん』


『だからといって油断していい訳じゃない、あの2人がパーティーでの前衛後衛最強だ。報告に行くぞ』


 ナナセが警戒していた者達は、模擬戦が始まるまで通路の奥で様子を伺っていたのだ。

 そして始まった後で、入口の近くからナナセ達を見ていたが、決して訓練場の中には足を踏み入れず、遠目から各メンバーの能力を測っていた。

 この者達も模擬戦の為、ナナセ達が本気ではない事は見抜いていたが、測った能力については、誤認であるという点には気付いてはいなかった。


 ―――


「やったあぁぁぁ! お兄に勝ったぁぁぁ!」

「ほぼ辛勝と言ったところね」

「まさか一度で見破られる何て思わなかった」

「次はもう勝たせてもらえませんわね」


「まぁ具体的に何があったかは分からないけど、アヤカ、ユウカ、ティナの3人がレベル以外で強くなった事は理解した」


「うっわ、バチクソに負けず嫌いじゃん」


「男は大なり小なりそんなもんだよ。にしても2週間前とは動きが全然ちがうな、流石に疲れたよ」


「なら一度休憩を挟んで、それから再開しますか?」


 こっちを見ていた奴も気になるし、これである程度はオレ達の情報も集まっただろうから、そこに追加情報はしたくないしなぁ。

 その間違った情報を以て今後一切、絡んで来て欲しくないんだけど、絶対にあり得んよな……。


「いや、それよりもブロボッツさんの所に様子見ついでに、アレを届けに行こう。正直オレのが出来た時に渡すつもりだったのを、忘れてた。あと……」


「あと?」


「ブラッドオーガと今回のとで、3着ある服の内、2着ボロボロになったから、買わないと無い……すげぇ今更だけど」


「そういえばカズシの他の服はボロボロか、血だらけだもんね」


「あぁ、今着てるのがダメになったら着る物が無いからな、帰りにでも適当に見繕うよ」


 ナナセの自分の服がもう無いという事を話しつつ、ブロボッツの工房へと移動する為、ギルドの方へ戻ると、模擬戦前と違いこちらを見る様な視線や気配は一切無く、どうやらナナセの思った通り、ある程度情報が集まった事で退いたのだろうと、ひとまずは胸を撫で下ろしていた。


 その後は工房に向かいながら、自分達も服をどうするかという話から、ナナセがどんな服を買うのかに、内容がシフトしていったようだが、基本服にこだわりの無い本人としては、旅に必要な機能さえあれば十分で、それ以上どうこうというのは特にないにもかかわらず、アヤカ達の中でどんどんと話が進んで行く。


 やっぱこっちの世界でも女性はファッションには気をつかうのか、いやまぁそうか、リミーナと会った時だって綺麗なドレスを着てたもんな、こっちの世界でもって言い方は良くないな。


「ナナセ様はどの様な服を購入されるのですか?」


「ん? どの様なっていっても、オレが重視してるのは、動きやすさ、保温性、耐久性で、見た目なんかは、派手じゃなければ別に気にしないな」


「それって今着てるのと同じじゃん、違うのにしようよ」


 違うのって、冒険時にはその3機能は超が付く程重要だと思うんだが。


「無理強いしないの。ただでさえカズシさんは武器の関係上、服の動きやすさが戦いに直結するんだから」


「まぁその3つを兼ね備えた服が複数あれば、そこから選べばいいんだからさ」


 服を選ぶのはオレなんだが、もしかしてだが、オレってば全員の着せ替え人形にさせられたり……いや、まさかそんな事は。


 女性陣がそんな話題で盛り上がりつつ、一抹の不安を抱えながら、話しの間に到着したブロボッツの工房に入っていく。


「こんにちわー、ブロボッツさん居ますかー?」


「おぉナナセか、嬢ちゃんも一緒か」


 店と鍛冶場の入口を仕切る暖簾から顔を出したブロボッツがそう告げる。


「どうしたんです?」


「聞くより見た方が早い。ほれ、奥へ来い」


【嬢ちゃんも一緒】という事で、ほぼ確実に頼んでいた武器関係なのは間違いないが、何か問題でも発生したのか?


 やや不安に思いながらも足早に奥へと進むと、目に入って来たのは、台に乗せられた2振りの剣。

 内1本には多少の細工は在るものの、豪華な細工等は施されていない剣で、それは黒い刀身に白い鞘、金色のガードに、グリップ握り部分は濃い目の青色といった、西洋式のロングソードタイプであった為、アヤカの物だろう。

 そしてもう1本は短い日本刀、ナナセが今使用している物と刃の色と、緑色の柄巻以外瓜二つの外見を持つ脇差だ。


「まだ約束の1週間くらい前なのに、もう完成していたんですね。それで、何か問題があったんですか?」


 アヤカもどうやらナナセと同じ事を考えていたらしい。


「確かに完成はしておる……剣の能力を引き出せればの話だが」


「剣の能力って、アヤカさんが剣に魔力を通して、変形させられるかって話ですか?」


「そうなんじゃが、コイツは在る理由から中々気難しい性格になってしまってな」


 そこまで話すと、リミーナがある事に気付いたのか剣を注視しだす。

 じっとポイント切先から見だし、ゆっくりと視線をポンメル柄頭まで移動させる、剣全体をひとしきり見終わったあと、ある物が無いことを指摘する。

 それは本来、この剣に付いているべき物で、逆に言えば、この剣にだけは絶対に無くてはならない存在。


「あの、2つの魔石はどこに付いていますの?」


「あっ!」

「そういえば見当たりませんね」

「カズシの剣と同じ様に、粉にして混ぜたとか?」


「いや、前に整えたって言ってたからそれは無いだろう」


「ガッハッハ! 見当たらんくて当然だわい。何せ魔石はグリップの内側となる、剣に直接装着しておるからな」


 笑いながら柄の留め具を外すと、そこには6角形に整えられた魔石が2つ剣に装着されており、しかも内部で外れない様に装飾で魔石を挟み込むようにしてある。


「厳重に装着されてますね。でもどうして内側に? 外側に付けた方が楽だったんじゃ」


「確かにその方が楽だが、良からぬ輩が寄りかねんぞ」


「良からぬ輩?」


「Aランクの魔石となればどんな奴のでも金貨数枚、物によっちゃ10枚は行く。それを剣に付けて歩いたら間違いなく付け狙われるし、何よりこの魔石は剣の核だ、傷程度ならいいが、万が一攻撃が当たって砕けたら剣を伸ばせなくなるぞ」


「つまり、2重の意味で狙われなくする為ってこと?」


「うむ、少し手を加えるだけで破損や危険を避けられるのであれば、その方がよかろうて。だがここからが問題でな」


 今の説明を聞いて、防犯や破損に対して問題になる様な所は無いと思うが、製作者としては何か気になる点があるって事か。


「一体何が問題なんですか?」


「それがな、グリップの内側に魔石を仕込んだ事で壁となり、かなりの魔力を込めんと変形せんようになってしまってな。実際ワシの魔力ではビクともせん、剣士である嬢ちゃんでは同じ様に動かんのではないかと思ってな」


 成程そう言うことか、確かに普通の剣士なら魔力不足で反応しないかもしれないが、オレが覚えてる限りでは、ユウカの魔力は600を超えてたはずだ。

 下手な魔法職より遥かに高いから、問題無いだろう。


「単に魔力が多く必要ってだけなら、アヤカさんには何の問題も無いと思いますよ?」


「ま…魔力が必要なだけならって」


「持ってみてもいいですか?」


「あぁ、念の為に外に出て試してみてくれ」


 台に置かれている剣を持ち全員で鍛冶場から庭に出る、するとそこには一本の井戸が、恐らくここから鍛治に使う水を汲んでいるのだろう。

 アヤカはその井戸にぶつからない位置に立つと剣を構える、そしてゆっくりと魔力を込めていく。


「話しの通り、今使っている剣よりも大分魔力を使いますね。ですがこの程度だったら」


 更に強く魔力を込めると、漆黒の刀身が分かれ鞭の様に別れ、別の形態へと変化した為、アヤカは自分の念じた通りに動くのか、射程距離がどれ程なのかを調べる様に剣を操作する。

 剣の制作者であるブロボッツも、この様子には目を見開き、口を開けて驚いている、剣士であるアヤカが、そこまで高い魔力を持っているとは思わなかったのだろう。


「の……のう、剣の変化に…苦労はせんのか?」


「特に意識的に魔力を込めたり、それが大変だという感じは無いですね」


「いやこりゃ驚いたわい、まさか難なく使いこなすとはな! ガッハッハ!」


 良い意味での予想外に、井戸に腰掛けながら自分の太ももを叩いて笑うブロボッツ、きっと自分の作った武器を、素直に使いこなしてくれると言うのが、鍛冶師として嬉しいのだろう。


「射程も凄いですね、今の剣の倍以上はありますよ」


「喜んで貰えた様で何よりだわい。その剣、スラッシャーテイルにも印章の強化・強靭・延長を刻んであるからの、握った感じはどうだ?」


「剣を構えた時も、振った時も違和感はありません、寧ろ振り易いとすら感じます」


「結構結構! 変形も握りも問題が無ければ完成じゃからな、ナナセの武器も手直しが終わっとるから、両方とも持っていけ」


「本当に助かります。ありがとうございます」


「これが代金になります。確認して下さい」


 アヤカは自分のサイフから金貨を10枚の束にし、剣の置いてあった台に6組積み上げていく、ナナセも同様に金貨1枚を台に置く。

 しかしブロボッツはそれを数える気配は無い。


「あの…確認を」


「ガッハッハ! 数えんくてもきちんとある事は分かっとる、それに、お前さん等が騙す様な真似をする人間じゃない事もな。それよりも…だ」


 あっ………。


「あの酒をくれ! もう貰った分が無くなってから飲みたくて飲みたくて仕方ないんじゃ!!」


 職人の目から呑兵衛の目へと一瞬で変わるブロボッツ、きっと飲み干してから相当我慢していたのだろう。

 ナナセに頼み込む姿はまさに必死の一言である。


 デスヨネー。

 ブランデーの度数が30後半から50度近いって話だけど、あれをコップに入れて、水の様に飲める人からしたら、3本なんて直ぐ無くなるよな。

 地球でやったら急性アルコール中毒になりかねないけど。


「了解です。大樽で持って来てるのでどこに置きますか?」


「お…大樽!? 大樽って、あの瓶数百本分はある、あの大樽か!?」


「そうですわね。相当に大きいですわ」


「おーし! ならこっちに来てくれ!」


 そう言って、鍛冶場と併設している自宅のキッチンと思われる所に案内される、窓から日光は入ってくるが、風通りが良いせいか湿気は少ない。

 また室温に関しては、冷蔵庫や冷凍庫が無いこの世界では、調整が出来ないので諦めざるを得ない。


「ではこの日陰に樽を置きますね」


「あぁ頼む!」


 アヤカがストレージ・スペース床に設定し、そこに大樽を出現させる、その瞬間。


「よーしっ、よしよしよし! これで何時でもあれが飲めるぞい!!」


「こんな大量渡しておいて何ですけど、酒も飲み物なんで痛む前に飲んでしまって下さい」


「おうさ任せろ! この量なら一月も掛からんぜ! あぁ後、武器の事で何かあればワシを頼れ、出来る限り力になってやるからの」


「分かりました。よろしくお願いします」


 こうしてナナセとアヤカ2人共新しく強力な武器を手に入れ、工房を後にする。

 ある意味ではナナセはここからが気を引き締める所だろう、何せ女性陣による服選び玩具遊びで、胃と精神に多大な負担をかける事になるのだから。


 スラッシャーテイル【HR】:攻撃力+600 高純度の魔鋼から作られた剣、刀身は黒く、強化・強靭・延長の3つ印章が付与されている。そしてグリップの内側に2つ魔石を仕込んだ事で魔力を遮る壁となり、相当な魔力を持つ物しか使いこなす事が出来ない。変形時の射程は30m、使用者の魔力を物理攻撃力にする力がある、使用者の意志によって操作可能。


 脇差:攻撃力+350 ナナセが元々使っていた刀が折れて修繕したもの。


新武器代

スラッシャーテイル 金貨60枚

脇差 金貨1枚

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