第113話 模擬戦(2度目)
アヤカの飛翔魔法のお披露目から2日後、ようやく訓練場が開かれたので利用しようとした所、受付嬢からギルドマスターが呼んでいるという事で、何かあったのかと執務室を訪ねてみると。
「お前等、呼ばんと報酬取りに来ないって……」
報酬を取りに来なさ過ぎというお叱りを受けた。
「いえ、別に訓練場使う関係で何時でも受け取れるし、後でもいいかなって」
「いいかなって……普通こんな大金、即取りに来るぞ」
「大してお金に困ってないしねー」
「現役時代は一度も言えなかったぜそんな言葉……」
でも実際オレとアヤカ以外は大きな買物して無いから十分余ってるしなぁ、それにオレ達の目的上、どこかに拠点を立てて行動するのも………不可能じゃないか。
昨日一昨日と、アヤカが飛翔魔法に手直しを加えて完成度を上げたから、大抵の国なら数日あれば横断可能だからなぁ
「それじゃオレ達はこれで。訓練場借りますね」
「おうよ、今度は派手に散らかしてくれるなよ」
「了解です」
※スチールゴーレムの討伐報酬 金貨70枚
直近でやらかしている為、軽めとは言え釘を刺された一行、特にその原因となった可能性の高いナナセは、スキルの使用に関して細心の注意を心掛けながら受付へと向かう。
冒険者の話し声が騒がしく聞こえてくる中、受付で利用名簿に記帳していると、背後からやたらと視線を感じたナナセが振り返る、だがその瞬間視線が途切れるのを感じる。
(誰かが見てる? 冒険者か? それともギルドマスターが言ってた領主の関係者? どっちにしろ、オレが振り返る瞬間に合わせて視線を切れる…か)
「どしたのカズシ? 早く行こう」
「…そうだな」
向けられた視線に若干後ろ髪を引かれつつも、全員の記帳が終わり、訓練場内に移動をするナナセ達だったが、それを目の端で追う一組の冒険者パーティーがあった。
『あれが例の連中か、まだガキ共じゃねぇか』
『ガキだけど、まさかこの雑多な中でアタシ等の視線に気付くたぁね、多少は腕に覚えがあるってとこかい』
『でもま、所詮はBランクでしょ? 私達の敵じゃないって、いっその事やっちゃう?』
『指示があればな、今は情報を集めろとの依頼だ。仕掛けずに、注意を払って連中を見張るぞ』
男2人、女2人で不穏な話をするパーティーは、訓練場に移動していくナナセ達を追わず、落ち着いて目的の確認をするあたり相当な手練れだろう、が、戦った事も、ましてやステータスを確認した訳でも無いのに、自分達が下な訳が無いと思ってる辺り、詰めが甘い。
本当に実力がある者ならどんな相手だろうと、決して対象を下に見る様な真似はしないだろう。
(視線も追ってくる気配もない所をみると、簡単に付いて来る様なヘマはしないらしい、どうやら相手は自分達の情報は出したくないみたいだな。となるとやっぱり怪しいのは領主関係か、気に食わないだけならイチャモン付ければいいだけだしな)
訓練場に付くと地面は補修され、以前よりも硬めに均されていた。
流石に魔法や闘気が当たれば荒れはするだろうが、それでも以前ほど土を巻き上げたり、地面に穴が空いたりといった事は少なくなるだろう。
「それで前と同じで稽古を付けますの?」
「そうね、久々の稽古ですし……もう一度1対4で戦ってみるっていうのはどうですか?」
「いいよー」
「問題無し!」
「それで構いませんわ」
多少稽古をしたとは言え、2週間で再度模擬戦か、いきなりこんな事を言うってなると……スチールゴーレムを倒した時に、レベルアップ以外で何かあったか?
そしてそれをオレ相手に使って驚かせたい……とか?
「了解。そしたら前と同じで、準備が出来たら合図をしてくれ」
―――
「さて、姉さんが模擬戦を申し込んだ事は意外だったけど、お兄を驚かせる何かがあるから挑んだんでしょ?」
「勿論よ、後で皆にも見せるけど、多分……いいえ、確実にカズシさんを驚かせられるわ。だから先陣は私一人がまず行くわ、カズシさんの体勢が崩れたらティナさん、リミーナさんで一気に攻め込んで」
「任せて、私だっていつまでも守られてばかりじゃないって、教えてやるんだから」
「了解ですわ」
「それじゃ私が合図したらお兄から離れて、絶対に魔法を当ててみせるから」
「その後は一気に、ですわね?」
「仮にそれで仕留め損なったら、私達の負けになるわ。多分同じ手は警戒されるだろうし、何より戦闘ではそんなに甘い人じゃないわ」
アヤカの言葉に全員が頷く。
「一応念の為なんだけどさ―――」
―――
ナナセは4人から距離を取って地面に座る。
どういう作戦を立てて攻めて来るのか、ナナセ的にも興味はあるが、それよりもさっき視線を向けて来た主の事が気になっていた。
……入口付近には来てる様子はない、訓練場に続く通路奥で見られてたら気付けないが、その場合は相手からもこっちはほぼ見えない、現状オレ達がまだ動いていないと踏んで様子見でもしてるのか?
もしそうだとしたらかなり強かな奴だ、元々全力を出しての模擬戦はしないつもりだし、相手に誤報を伝えられると考えれば、ある意味都合はいいか。
出来れば、この街で見かけた事の無いオレ達の情報収集だけであって欲しいんだけど。
色々とナナセが考えを巡らせてる中で合図を送ってくる、どうやら向こうの作戦も決まったのだろう、アヤカが1人先頭に立って剣を抜いている。
「準備は出来たって事でいいかー」
「いつでもいいですよー!」
アヤカのその言葉を合図に、ナナセは即刀を抜ける構えで駆けた瞬間、目に映ったのは
当然アヤカもこれが当たるとは思っておらず、ナナセ同様に踏み込み、剣を振り下ろすと、ギィィン!という音を響かせながら刀で弾く。
「初手に水魔法は舐め過ぎじゃないか? あれだけ距離がある上、目視出来る物なら避けられるぞ」
「別に舐めてはいませんよ。訓練場が整地されたばかりなので、風魔法だと色々と問題になると思っただけです」
共に剣を振るい、お互いの攻撃を弾き、流す2人、幾度かの剣撃の後、最初に動いたのはアヤカだった。
ナナセの音喰に押し付ける様に自分の剣を合わせ、鍔迫り合いの状態に持ち込む。
「どういうつもりだ? 鍔迫り合いなんてアヤカが圧倒的不利だぞ、何せ力のステータスはオレの方が圧倒的に上なんだからな」
「えぇ、そんなのは分かってます………よっ!!」
「なっ!?」
次の瞬間、ナナセの体勢が前に崩されることになる、何をされたのか分からず、一瞬思考をアヤカから、どうして崩されたのかに持ってかれるものの、分かる訳も無い。
唯一判明している事は、アヤカが力尽くでナナセの体勢を崩したと言う事。
そしてそのまま背後から何者かが襲い掛かってくる気配を感じ、右足に力を込めて何とか耐え、左の裏拳を払う様に繰り出す。
「このっ!!」
視界に入ったのは、真っ直ぐと向かってくるティナの姿。
拳は吸い込まれる形でティナへと向かい、当たるとナナセが確信を得た……はずだった。
「甘いよッ!!」
しかしティナは
本来のステータスであればアヤカはナナセを崩せず、ティナは攻撃を避けられるはずが無かった、にもかかわらず、完全にナナセは手玉に取られていた。
「くっそ!!」
アヤカに続いて、ティナまでこっちの予想を上回って来た!?
スチールゴーレムの件でアヤカはレベルアップしてるからだとして、ティナもこれ程とは! 一体前の模擬戦から何があったんだ!!
「驚くのはまだ早いんだけどね!」
喜々として連撃を繰り出すティナに、防いでこそいるが、不得意な間合いで戦う事を強制されるナナセ、当然このまま攻勢を許す訳もなく、連撃の一つを選んで弾き、直ぐさま自分の間合いへと戻ろうとする。
だが、明らかに届かないという不自然な距離からティナは短剣を振るう、一瞬踏み込んで来ると見越しての一撃かと思ったが、戦闘中にだろうで攻撃をすれば、自分の命が危険に晒される。
つまり何かがあると考え、ナナセは回避を選択する。
「うそ!?」
その声と同時に地面の土が線上に巻き上がる。
「……まさか風刃か!?」
「何でわかったの!? 初手なら絶対分かんないと思ったのに!!」
「一体いつの間に…この!」
「させませんわ!!」
ティナにとって不利な間合いとなった途端、リミーナが側面の死角から現れる、恐らくあの移動スキルで踏み込んできたのだろう。
「ッツ!」
刀を頭から下ろす形で構え、更に峰を左腕で押さえる事で攻撃は止めたものの、完全にティナには距離を取られ、リミーナに集中せざるを得ない。
今の所、殆どが向こうの立てた作戦通りに進んでいると言っていいだろう。
「ティナさん交代ですわ!」
「ありがとう!」
入れ替わり立ち代わりで、今度はリミーナか!
確か剣がマジックアイテムで風魔法を使えるんだったな……って事は向こう全員遠距離持ちかよ! 面倒な事この上ないな!
しかし遠距離もあると考えていたナナセを裏切る様に、リミーナは剣の間合いで戦い始める、しかもどことなく、裏をかいてやったと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべて。
「私が接近戦で来るか、それとも皆さんと共に、遠距離攻撃で攻めて来るかを考えてましたわね!」
「そりゃ色んな可能性を考えて戦わないと足元をすくわれるからね!」
リミーナが横払いや振り下ろしの攻撃を繰り出す中、ナナセは冷静に溜めの動作に注目する。
彼女の攻撃の中で一番警戒すべきは、その溜めの後に来る風魔法、知らなくても避けられるとすれば、それは戦闘経験豊富なグリフィスレベルの実力者だけだろう。
ナナセ自身の戦闘経験はこの世界に来てからの3ヵ月程度、ランクこそ同じでも戦闘経験は雲泥の差である。
「……使ってくる様子も無いし、そろそろオレからも攻めさせてもらうぞ!」
(私よりもレベルが半分以下なのに、剣を交えれば否でもステータスの差を思い知らされますわね! 普通同じ剣士であれば、レベルの低い者にステータスが負けるといった事は、無いですのに!)
「っく!」
「いくよ!!」
「!!」
掛け声の主はユウカで、その声と同時にリミーナは自身のスキル【迅疾】の連続使用でナナセから離れる、周りを見ればアヤカとティナも同様に距離を取っている。
それに気付いた瞬間ナナセはユウカの方へと駆けだす、ユウカもユウカで魔法を撃つ体勢が整っている。
全員が距離を取るって事は、さっき考えてた通り遠距離で攻めるつもりか!
そっちがその気なら、こっちは遠距離最強のユウカを早々に落とす、正直、いつユウカの魔法が飛んで来るかも分からないのが一番キツイ!
既に撃てる準備が整ってるって事は、単体にせよ、範囲にせよ、魔法の攻撃ポイントは設定済みで、後はそこに撃つだけって話しだ。
単体なら避ければいいだけ、範囲であれば、魔法効果が表れる前にそこを出てしまえば意味は無い!
「態々撃つ前に声を出すとか、相手にも知らせてるって事だぞユウカ!」
「そんなのこっちだって知ってるっての!!」(
ユウカの言葉の後、ナナセは体に痛みが走ると同時に、一切動けない事に気付くが、正直自分の身に何が起こったのかを理解していない。
何せ間違いなくユウカの攻撃魔法の範囲からは出ていたのにこれである。
「あ……がっ!…い……一体…何……が!」
無論前衛組がその隙、というよりも無防備な状態を見逃す筈もなく、全員がナナセに接近し武器を向けるのだった。
ナナセの完全な負けである。
「参った。降参だ」
このナナセの敗北宣言により、模擬戦は終了。
2度目の模擬戦は1度目と違い、アヤカ達のチームの作戦勝利で幕を閉じたのであった。
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