第111話 ゴーレム討伐⑤ 終幕

 ゴーレムを討伐した後、集まっていた鉱石の回収なんかの事後処理は、全て入口に退避していた冒険者達に任せて、宿に戻ろうとしていたナナセ達だったが、待ったが掛かる。

 スターク曰く、領主への報告もあるので、今日中に詳細を聞かせて欲しいとの事だったので、一度冒険者ギルドへ行く事に。


「まさかクソったれ領主の所から戻ってみれば、全部終わってるとはな。いや、本当に助かった。俺は冒険者ギルドここを任されてるオズウィンだ、よろしく頼む」


 クソッたれ領主って、ここを納める貴族の事だよな?

 聞いてないとは言えそんな発言していいんだろうか……。


「【討ち滅ぼす者アナイアレイター】のナナセです。オレ達も相当手こずりましたけど、何とかなりました」


「スタークの話だと、スチールゴーレムの範囲攻撃を1人で受けたそうだな。奴のあの攻撃は、防具を着てるAAですら食らえば死ぬレベルだぞ、よく無事だったな」


「いえ、無事じゃないですよ、代わりに武器と腰に付けてたポーションが砕けましたし」


 マジか……防具有りの同ランク冒険者ですら、食らえば死ぬって攻撃だったのかよアレ、よく五体満足で生きてられたなオレ。

 というか防具かぁ、割とその辺の事も考えないとダメかなぁ。


(成程、って事は、そのポーションが攻撃途中で砕けたおかげで、ダメージを幾らか回復出来たから助かったみたいなもんだな。並みのステータスじゃ出来ない芸当だ)


「まぁ、一応報告って事で、幾つか聞かせて貰うんだが。鉱山内やゴーレムに対して魔法は使ってないって事で間違いないな?」


初級魔法ライティングもダメだって言われたら引っ掛かるんだけど」


「その程度であれば問題無い。要は攻撃魔法を、鉱山内とゴーレムに対して使ってないかってだけだからな」


「それであれば使ってないね」


 というかそもそも攻撃魔法禁止にすんなって話しだよな、ギルドマスターもその事で領主の屋敷に行ってたみたいだし。

 ……あぁそうか、だからギルドマスターはって言ってたのか、その事を考えると相当に苦労してそうだな。


「了解した。後は今回討伐したスチールゴーレムの買取に関してだが……」


 魔石は無かったけど、AAランクの魔物で高純度の鉱石の塊と、魔力の籠った核だ、結構いい値になるだろう。

 討伐報酬も合わさればかなりの額に。


「アレは………領主が接収する事になると思う」


 ギルドマスターの言葉にナナセ達の動きが止まる。

 何せ死にかけながらも倒した魔物を、何もしてないどころか、邪魔しかしていない領主が取り上げると言うのだ、無理もないだろう。


「えっと………私達の聞き間違いですか? 今、領主様が接収するって聞こえたんですけど……」


「本当にすまない。正式に通達が来た訳では無いが、間違いなくあの強欲領主なら、適当な理由を作って言ってくるだろう。攻撃魔法の禁止も、自分の利益の為に課している様な奴だ」


「適当な理由って、そもそも狩った魔物の所有権は倒した冒険者にありますよね?」


 ティナの言う通りだ、魔物が土地に出た場合、例えそこがどんな場所であっても、誰の土地であっても、その魔物の所有権は倒した者にある、今回であればオレ達にあるのに、一体何故?


 ナナセ含め、メンバーの腑に落ちない表情を察して、ギルドマスターは、この街を治める領主がどんな人間かを説明する。


「お前達がゴーレムの所有権を主張すれば、恐らく通るだろう。だが、さっきも言った通り、この街の領主は強欲だ、ゴーレムの持つ鉱石を得られなければ、報復にどんな事をして来るか分からん」


「……つまり私達に対して、法に触れる事を仕掛けてくる可能性がある、という事ですの?」


「先代であればそんな事は絶対に無かったんだが、当代の領主であれば、間違いなく仕掛けてくる。それどころか、ゴーレムを問題無く倒した事すら不服として、何かし兼ねない」


 先代が出来た人だからとか、そんな話しはどうでもいい、平民が貴族に対してここまで言うって事は相当だろう。

 いや、逆に考えればギルドマスターは、これだけの言葉を言わせる様な事を、領主からされたんだろう。

 オレ達としても、波風を立てて旅がしにくくなるのは勘弁して欲しいが、気になる所はそこじゃない。


「領主様相手にこんな事を言っていいのか分かりませんが、討伐対象を倒したのに不服って、一体どうゆう事なんですか? 意味が分かりませんよ」


「姉さんの言う通りだよ。そんな事言うなら自分の所に居る兵士なり、子飼いの冒険者とか使って、自分で収めて欲しいんだけど!」


「第一、あれ程強力な魔物を相手に、攻撃魔法を使わせないとか正気じゃないですよ!」


「領主と言えど、独立組織である冒険者ギルドに、そこまで我を通す事自体おかしな話なのですが、どうしてそれを許しているんですの?」


【問題無く倒した事すら不服として】、という言葉を切っ掛けに各々が爆発する。

 当然それを一手にぶつけられるギルドマスターは、「申し訳ない! 本当に申し訳ない」と謝り倒しているが、本来冒険者ギルドのトップであり、絶対のギルドマスターが何度も謝る等、他の冒険者が見れば確実に驚く事だろう。


「とりあえず落ち着きなさいっての。ただオレもリミーナが言ってた事は気になるんですけど、ここまでギルドに意見出来るって、何か理由があるんですか?」


 ナナセから指摘をされた瞬間、今までの話の中で一番言い辛そうな渋い顔をする、恐らく十中八九あると見て間違いないだろう。

 しばらく考え込んだ後、ギルドマスターはゆっくりと口を開く。


「これは絶対に口外しないでくれ、特にこの街に住む住民達には」


「約束します」


 そこで聞いた話は、領主はこの街の税を盾に冒険者ギルドへ圧を掛けているという事、自分に従わなければ税を引き上げる。

 実際以前に断った際には、次の徴収時に2割程税を引き上げたと。


 冒険者ギルドとしては聞く必要の無い話しだが、税は街に居る者全てに直撃する物、高くなればそれだけ依頼を出せなくなり、依頼が来なければ冒険者ギルドの運営は成り立たず、最悪街からの撤退も考えなければならない。

 そうなれば万が一の時、街の住民を守る為の冒険者も居なくなり、非常に危険な状態となる、それを分かっているから今の領主は付け入るのだという。


「それって法的に問題にならないんですか? 完全に住民を人質にした圧政じゃないですか」


「まさにその通りなんだが、残念なことに現行法では重税にはならない為、違法には当たらない」


「最低ね」

「クズじゃん」

「酷過ぎる」

「貴族としてあるまじき行為ですわ」


 オレ達がここで騒ぎ立てれば、報いはここの人達も受けるって事か、いや、オレ達にも何かしら報復がくるのか。

 とんでもない貴族も居たもんだな。


「とりあえず討伐の件は分かった。討伐報酬である金貨70枚を用意するから、明日以降であれば、いつでもいいから来てくれ。あとくれぐれも領主には気を付けろよ、絶対に何かしらで接触を図るだろう」


 再三にわたり領主への警戒を怠らない事を念押しされながら、ギルドを出てブロボッツの店へと向かうナナセ達、その顔は腑に落ちないといった表情だ。

 特にナナセからしてみれば、文字通り命懸けで倒したにも拘わらず、恨まれる可能性があるなど、思ってもいなかっただろう。


「念の為リミーナに聞きたいんだけど、貴族として、オレ達を法的な手段で追い詰める事は可能なのか?」


「本来であればその様な事はさせないのが、司法の役割ですが、正直、やろうと思えば出来てしまうのが現状ですわ」


「そうなった場合、対応策として有効な方法ってあるんですか?」


「かなり難しいですわね。証拠を押さえようにも、その手の場合は即隠滅されるでしょうし、外堀から埋められたら印象も操作されて、最悪、事が起こった時には既に手遅れという事も」


 それって貴族の言ったもん勝ちじゃないのか、一般人が嵌められたら絶対に勝てないだろそれ。

 下手したら裁判すらまともに受けさせて貰えない事もあり得る、でもまぁ、そうなったらそうなったで、こっちも大人しくしてるつもりも無い。


「了解だ。領主がやばい貴族で、力尽く、もしくは虚偽の法的手段なりでちょっかい掛けてきたら、徹底的にぶちのめす。居なくなって悲しむ人も居ないだろうし」


「あ…あの、幾ら私でも他国の事となると、出来る事にかなり制限が出ますわよ」


「んー多分大丈夫だと思うよ?」

「そうだね」

「寧ろやり過ぎないかが心配ね」


 先程まで他国の貴族絡みという事で、少々不安げなリミーナだったが。

 他のメンバーは誰一人慌てず、逆にナナセが、やり返し過ぎないかという事を心配している姿に、目を見開く程驚かされる。

 リミーナからすれば、今まさに対処法が無いと告げたにも拘わらず、この落ち着き様なのだから無理もない。


「それにしてもお兄の新武器凄かったね」


「だなぁ。折れず曲がらず欠けずって話しだったんだけど、それに斬れ味も付いてくるとは」


「あれは恐ろしい斬れ味でしたね」


「まさか斬った音がしないとは思わなかった」


「オレもアレには驚いた、「信じて振れ」って言われたからその通りにしたけど、斬れ味の鋭さにびびったわ」


「でも依頼者としては、嬉しい誤算ですわね」


 嬉しい誤算かぁ、リミーナの言う通りなんだけど、斬れ過ぎるのも一長一短なんだよなぁ。

 特に乱撃中だと、相手の武器を斬り裂いて、それがオレに飛んで来たりとかもあり得るだろうから、贅沢な話しだけど、こっちが斬りたい時に斬れて欲しいって言うのが本音だよなぁ。


 今後厄介事になりそうな領主の対策や、新武器の感想なんかを話していると、工房街にあるブロボッツの店が見えてくると同時に、職人と冒険者らしき者が言い合いをしている様な姿が見える。

 近付いて行くとその職人は、以前ブロボッツを散々に言っていた、自称街で1・2を争う腕前の職人である、そして言い合いの内容を聞くと、この冒険者があの剣を注文したのだろう。


「金貨10枚も使って出来た剣が、2週間足らずで折れるってどういう事だ! てめぇ言ってたよな! オレはこの街で1・2を争う凄腕だってよ!! このナマクラのせいで俺は死にかけたんだぞ!!」


「るせぇ!! 俺の武器はどれも最高の出来だ! それを折る様な使い方をするお前が3流なんだよ! どんな武器でもな、3流が使えば等しくナマクラにされるんだ、覚えとけ!!」


「ふざけんじゃねーぞ!! 金返しやがれこの詐欺師が!!」


「んだとコラ! 誰が詐欺師だ馬鹿野郎め!!」


(いや、少なくとも剣は最初っからナマクラだったし)

(しっ! 触らぬ神に祟りなしだ、とっとと行こう)


 言い合う2人を余所にナナセ達は店の奥へと入っていくと、呆れた顔のブロボッツが刀の柄の最終調整をしている、どうやら外の言い合いが聞こえている模様。


「中々大変な隣人が居ますね」


「おぉ来たか、こっちの士気にも影響するから本当に厄介だぜ。とりあえずもう終わるから適当な所に腰掛けてくれ」


 そう言うと手早く柄の調整を終わらせて刀を持って来る。


「これが代金の金貨60枚になります。確認を」


「うむ………………確かに! それでこいつの説明なんだが、既に使ってるから分かると思うが、斬れ味は十分にある」


「えぇ、あれには驚かされました」

「スチールゴーレムを音もなく斬りましたものね」


「そうじゃろそうじゃろ! その理由はワシが刻んだ印章にある」


「インショウですか?」


「うむ、印章っちゅうのは、概念を形にして物に章すしるす事で効果を発揮するんだが、コイツには、強化・強靭・修復の3つが付いとる。普通は1つでも苦労する物な上、複数刻む場合の難度は、1つの時とは桁外れに高くなるからな」


 ゲームに出てくるルーン文字による強化みたいな物か、あれも確か武具とかに刻む事で特性を強化したり、魔法に付け加える事で威力や効果を上げたり出来てたな。


「強靭はコイツの耐久性を増す為、修復は万が一曲がったり、欠けた場合の修理の為、そして強化はその2つの印章効果を増す為だったんだが、どうやら別の意味合いも含んだ様だわい」


「別の意味って何ですか?」


「恐らくこの強化の印章には、2つの印章の強化の他に、使用者の魔力を物理攻撃力にしているんじゃないかと思っとる」


(お兄の魔力って超やばくなかったっけ?)

(確か500を超えてるはずよ)

(闘気で強化された所にそれが乗るって…)

(想像していたよりも、とんでもない代物ですわよソレ)


「まぁ剣士の魔力なんて大した無いがな! それもこれも、嬢ちゃんの剣に使う魔石を整えた際に出た削り残りを、粉にして混ぜ込んだ結果だろうな!! ガッハッハッ!」


((((全然笑い事じゃない……))))


 4人の冷たい視線がブロボッツに刺さるが、本人は一切気付く気配は無い。


「っとそうだ忘れる所だった。この鞘も魔鋼製なんじゃが、こっちから修復に必要な魔鋼を取る形になっとるから無くすなよ? まぁワシに言えばまた作ってやるがな」


「本当にありがとうございます」


「なに、これがワシの仕事だ。それと、お前さんが使ってたあの刀を貸してみろ」


「直せるんですかですか!?」


「不可能だな、形こそ戻せるが折れた部分は酷く脆いから使い物にならん。だが、刀身の長さは十分あったからな、あれに手を加えて短めのを一本作れるだろうさ」


 本当に、まだ一緒に戦えるのか!

 そうであれば是非頼みたい!


「加工に掛かる費用は幾らですか?」


「そうさの……ほぼ手間だけだろうし、金貨1枚で仕上げてやる」


「お願いします!」


「おっし任せろ! あとそうだ、剣に名前を付けてやるといい。嬢ちゃんの方は決めてあるんだが、お前さんのはしっくり来るのが無くて付けてなかった」


「刀の名前…ですか……」


 名前……名前か、魔法がある世界だ、言葉自体が力を持つ可能性もあるか、て言っても名前かぁ、厨二的なのにするとアヤカに突かれそうだしな。

 んん…………特徴としては、黒・漆黒・刃・魔鋼・刀かぁ~………。


「………音喰おとばみ


「その意味は何ですか?」


「単純かもしれないけど、スチールゴーレムを音すら喰い切った出さずに斬ったから」


「捻り無さ過ぎ~」


「捻る様な物じゃないんだよ、こういうのは!」


 黒刀・音喰おとばみ【HR】:攻撃力+750 高純度の魔鋼から作られた刀、柄と柄巻以外全てが真っ黒で、刻むのが超高難度となる3つの印章により、折れず曲がらず欠けずを実現。また、Aランクの魔物の魔石2種を粉状にして混ぜ込んだ事で一部印章の効果が上がり、使用者の魔力を物理攻撃力にする力がある、使用者の意志によって操作可能。


新武器代

黒刀・音喰おとばみ 金貨60枚

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