第107話 ゴーレム討伐①

「お昼食べ終わった後もお店巡りするんだよね?」


 結局何も買えて無いしな、時間だってまだまだあるし、宿に戻った所で何もやる事も無いからなぁ。


「そうだなー、皆が疲れて無ければ続けようと思う」


「私は全然平気ですよ」

「まだまだ余裕だよー」

「私も色々見て回りたいですわ」


「って事だ」


「んじゃさ、服飾店も入ってみない?」


「旅用の服を新しく買うのか? 全然いいぞ」


「違う違うそうじゃなく、リミーナさんが魔鋼を糸状に出来るって言ってたじゃん」


 んだね、魔法で糸状にって言ってたね、ちなみにその後店で高くて扱えないって話も聞いたけど。

 それにアレは服用に使う物じゃなく、どっちかっていうと、防具として使うみたいだから、服飾店だと取り扱いきつくないか?


「糸状にしたって言っても防具用としてだし、流石に無いんじゃ」


「一般的なお店ならそうかもだけどさ、ちょっとお高めな、それこそ身分の高い人が、馬車で長距離を移動する時用の防具としてありそうじゃない?」


 ユウカの言いたい事は理解出来る、あれだろ?

 身分の高い人なら、万が一賊に襲われた際の防具にも、ファッション的な気を遣うだろう、って言いたいんだろ?

 まさかそんな、マンガやアニメじゃないんだから―――。


「はい、お取り扱いしております」


 い や あ る ん か い ッ ! ! !

 ちょっとホントにあんの!?

 ぶっちゃけ特異過ぎて、無いと思ってたんだけど!


(ドヤァ)


 ユウカの奴、ドヤってんなぁ……まぁいいや、アレは放って置こう。


 ドヤムーブをしているユウカには触れず、店員の案内に付いて行った先には服や小物の他に、数は少ないものの鎧やマント、ブーツといった度に必要となる防具が並べられている。

 しかも鎧は所々に細工があり、それはマントやブーツも同じで、ユウカの察した通りの作りである。


「マント……にしては丈が短いな、なんだっけ……あの…」


「ケープですか?」


「それだ!」


「ただ私共の店では、プレートアーマーの様な本格的な物はございませんが、それでも材質に拘り、魔鋼や魔鋼糸を使った軽く、その上で防御力の高い物を追求した商品を取り扱っております」


 なるほど、だからさっきまでふざけてたユウカが、真剣な目で見て何も言わないのか、決して見た目だけじゃないく、しっかりとした防具に仕上がってるって訳ね。

 あとの問題は値段だよなぁ、見た感じ上流階級者御用達っぽいし、思った以上に値がしそうな予感が。


「あっ、この鎧なら動きやすそう」


「どうぞお持ちになって下さい、そちらは魔鋼糸を網目状に数回織り重ねた生地で作られており、重厚な金属鎧に比べ非常に軽く、並みの剣では斬る事は出来ません」


「本当だ、凄い軽い、これなら移動も攻撃にも支障は出ないはず」


「更に魔鋼糸と裏のレザー生地の間には衝撃を吸収する素材を挟んでおり、斬撃・衝撃にはとても強くなっております、同じ魔鋼糸で作られたケープローブと一緒であれば上半身全てを守る事が出来るかと」


 リングベスト:防御力+220 魔防+40

 表地は魔鋼糸を、裏地にはレザーを、その間には衝撃を吸収する素材をいれて作られた防具、鎧よりも軽く高い防御力と僅かだが魔法に対する防御もある。


 リングケープ:防御力+80 魔防+10

 魔鋼糸を編んで作られたケープ、ヒラヒラとした見た目によらず、高い防御力を持つ


 斬撃だけじゃなく、その時に発生する衝撃の事にまで着目してるか、凄いな。

 まさかこっちの世界で攻撃の際に発生する、運動エネルギーとその衝撃力の関係まで考えて防具を作ってるとは思わなかったな。


「こちらにある物は見本ですので、ご購入されて2週間程お時間を頂く事になりますが、体に合う物をご用意させて頂いております」


「ちなみに値段って―――」


 ティナも気に入った装備があったのかとんとん拍子で話しが進んでる、ユウカの方も【鑑識眼】を使い一人で見て回ってる様子、アヤカやリミーナも売られている服に興味があるのか2人で見ている。

 年頃の女の子なんだから、綺麗な服や可愛いアクセサリーに興味があって不思議じゃないよな。


 それに比べてオレは服なんて着れればいい位の認識だったからなぁ………ん? あれってギルド職員達だよな……あんな慌てて何かあったのか?


 女性陣から離れて窓の近くに居たナナセの目に映ったのは膝に手を置き、明らかに肩で息をしているギルド職員、相当に走り回ったのだろう、それなりに距離が有るにもかかわらず、ナナセにまで息遣いが聞こえるんじゃないかと思う程に疲労しているようだ。


 あっ、またどっかに走ってったな。

 ギルド職員があんなになるまで走り回る事って……あっ! 今日の朝にゴーレムの一件があったか!

 あんなに走り回ってる理由って、もしかして不測の事態が発生したとかか?

 簡単に思いつく所で、大量にゴーレムが発生した? それとも、似た理由だけど魔物の巣にぶち当たった? 大穴で、もっとやばいゴーレムだった……とか?

 流石に考え過ぎかな、そう頻繁に悪い方で事が起こる訳も無いか。


「お兄終わったよー」


 どうやら女性陣の方も終わったみたいだな。


「お疲れ。何にしたんだ?」


「私は買わなかったけど、ティナが店員さんと話してたみたいだよ」


「はい、最初に見た鎧とケープマントを注文しました。軽いし動きの邪魔にならないし、何より手元を隠せるので動きを読ませ辛いですからね。出来上がったら宿まで持って来てくれるそうです」


 ※リングベスト 金貨6枚

 ※リングケープ 金貨2枚 大銀貨5枚


 確かにあれなら人との戦闘になった際、上半身が隠されているというだけで、相手は簡単に攻められないだろうな。

 何せケープの中にどんな物を仕込んでいるか分からない、迂闊に手を出せば手痛いカウンターを受けると、心理的なプレッシャーを与えられる、ティナも考えたな。


「なるほど、アヤカとリミーナは何か買ったのか?」


「私は何も買いませんでした、剣の費用でだいぶ使ってしまったので」

「私も纏めて保管して貰っているので、何も買いませんでしたわ」


「了解。それでなんだけどさ、今さっき窓から―――」


 店を出てからナナセは全員に買物中に見たものと、それについての仮定を説明する。

 言うまでも無く、全員がそんな状態になってるギルド職員達を不思議に思う、通常ではまず有り得ない光景だ。


「職員達が走り回ってるって事なら、絶対に何か起こったのは間違いないと思う」


「それも悪い意味の方で、ね」


「仮にゴーレムが大量に出たって話しだったら、お兄倒せる?」


 ぶっちゃけそのゴーレムがどんな素材で構成されて、どれくらいのサイズなのか見ない事には何とも言えんからなぁ。

 下手に倒せるなんて言って無理だったら、皆を危険に晒す事になるし。


「どうだろうな、ただでさえ斬撃ってもの自体が硬い物との相性が悪いし、そこに幅も長さもあるとなると結構キツイと思う」


「でも前に剣とか斬ってなかったっけ?」


((剣を斬る!?))


「あれは幅も無かったし、何より剣の弱点である腹への攻撃だったからな」


「それじゃ今回の様なゴーレム相手だと難しいと言うことですか?」


「難しいかどうかはハッキリ言えないけど、剣で斬りかかれば刃毀れか、最悪折れる。とにかく何かあったのは間違いなさそうだし、ギルドに行ってみよう」


(剣での攻撃より魔法の方が良いかもしれないな、ただ坑内での魔法、特に炎や地属性に関しては、余波や効力で崩落を引き起こす可能性もある、使うとすれば外でだ)


 こうして朝に手持ち無沙汰となったナナセ達だったが、急ぎ冒険者ギルドに駆け戻ると、倉庫にストックしてると思われるポーションを出す女性職員や、それを運ぶ準備をしている男性職員だけ。

 そう、職員だけで、冒険者の姿が無いのだ、どのランクの者も、誰一人。

 そんな光景を目の当たりにしながら、ナナセ達が入口で驚いて立ち止まっていると、気付いた女性職員が駆け寄って来る。


「【討ち滅ぼす者アナイアレイター】の皆さん、どうしてここに!?」


「どうしてって言われても、ってか冒険者はどこに?」


「Cランク以上の方は再度鉱山に向かいました! Dランク以下の冒険者の方はポーションを運んだり、万が一の為に鉱山側の入口で待機しています!」


(やっぱり何かあったみたいですね)

(あぁ、しかも冒険者総動員ってなるとかなりだぞ)

(カズシの言ってた事が現実に起こってるみたいね)


「職員から説明は受けられましたよね!? 急いで―」


「その事ですが、私達は駆け回ってるギルド職員を見かけたから、ここに来たんですわ。説明どころか、今何が起こってるのかすら知りませんわよ」


 全く知らないって訳じゃないけど、リミーナが軽く先手を打ってくれたな。

 これでこっちは、「駆け回るギルド職員を見かけて、善意でギルドを訪ねた」、って話になったな。


「え!? それじゃストーンゴーレムじゃなく、アイアンゴーレムかスチールゴーレムの可能性があるって聞いては………」


「ないねー、朝に職員さんと話して以降会ってないし」


「も、申し訳ありませんでした! 実は朝に出た討伐隊が戻って来て、ストーンゴーレムでは無いと判明し、対抗できる鎚系の武器を持った高ランク冒険者が居らず、冒険者総出での対処に出たんです」


 おいおい、ある程度は覚悟していたけど、これは考えられる物の中でも相当にマズイ奴だぞ。

 冒険者は居るのに、対抗武器の使い手が居ないってなると、やっぱり外まで誘導して魔法を叩き込むしか無いな。


「では外まで誘き寄せて、魔法で倒すしかありませんわね、ゴーレムは一部を除いて多くが地属性、ユウカさんが使える炎魔法が弱点ですわ」


「それがダメなんです!」


「え、何で!? だって対抗出来る武器を持った冒険者が居ないんでしょ? そしたらもう魔法しかないじゃん!」


 そのとおりだ、一体何がダメっていうんだ。

 武器が無い以上魔法で倒すのが一番安全で確実な方法だろ、それとも別の街から冒険者を派遣して貰ってるから、それを待つって言うのか?


「りょ、領主様からの命令で、魔法を使うと…鉱石が変質したり、粉々になって……値が下がるから……らしいです」


「だから外に誘き寄せて」


「ゴーレムも……その、貴重な鉱石……しかも純度の高い……」


 女性職員が申し訳なさげに領主からの命令を語る。


 はぁぁぁぁぁ!?

 くっだらねぇ! こんな時に自分のサイフ、しかもゴーレムが持ってる鉱石の心配か!! 住民や冒険者を何だと思ってやがんだよ!

 そこで働く人や、街の住民が居るから領主自分達の生活が成り立ってるのに、居なくなったらどうなるかとか考えねぇのか!


 全員がナナセと同様の事を思ったのは間違いないだろう、何せその証拠と言わんばかりに、怒りの表情で絶句しているのだから。

 しかし領主が居ないここで、それを口にした所で意味は無い、そう最初に気付いたリミーナが反応する。


「色々と言いたい事はありますが、やるべき事をしましょう」


「あぁ、鉱山に向かおう」


 ナナセ達はギルドを飛び出し急いで鉱山へと向かう、道中街の様子といえば、かけっこをしている子供達や、その周りで集まり話しをする母親と思しき者達、パン屋からは焼きたてのパンの香りが漂ってくる。


 普段と全く変わらない様子をみると、住民には事は伏せられているのか、それとも、昔からこの手の騒ぎはあり、住民にとっては驚く程の事でもないのかは不明だ。

 仮に慣れからの落ち着きだとしても、今回の件はギルドも慌てる程である以上、昔から起こる事件とは比較にならない程危険度が高い。


 最悪鉱山からゴーレムが出てから強制的に避難させるのか、それとも別の考えがあるのかはナナセには知る由もない。


 そうこうしている内に鉱山側の入口に到着すると、そこで待機している冒険者や、警備隊に説明して門を開けて貰い、尚も山道を駆け上がる。


「でもどうするんですか? 剣もダメ、魔法もダメとなると私達も打つ手が無いですよ?」


「お兄が殴り壊せる物だって限度があるでしょ?」


「まぁな」


「正直現状で無策のまま対峙するのは、危険過ぎると思う」


「リーダーとしての意見を聞かせて欲しいですわ」


 リーダーとしての意見か……単純に選択肢は2つ、いや3つか。

 1つめは、領主の言う通りに戦う、ただ今の戦力で勝てる見込みは無し。

 2つめは、住民の命を優先して全力で戦う、これなら勝機はあるかもしれない。

 3つめは愚策も愚策だけど一応の選択肢として、やってられないから街を出る。

 この中から自分達の命も加味して選ぶとすれば………。


「なぁリミーナ、仮にオレが領主の反感を買って何かしらの罪に問われた場合、この国を出てもその罪は適用されるか?」


「それは場合にもよりますわ。仮にナナセ様が殺人罪や国家転覆罪等に問われた場合は、国から国への協力要請で適用されます」


「オレが人命を優先した結果、領主の命令に背いて、領主が本来得るはずだった金銭が得られなくなった場合は?」


「適用外ですね。ましてや多くの人命を優先する為の致し方のない行動として、どの国でも不問とされるでしょう。そもそも、現国王がそのような罪状を許すとは思えませんわ」


 なるほど、最悪二度とこの国には足を踏み入れられなくなるけど、道はあるか。

 そんなら当然取る道は一つだな。


「カズシさん」

「お兄」

「カズシ」


 全員の視線がナナセに集まる中、答えを出す。


「責任はオレが負う、全力でゴーレムを破壊する!」


 不安げな表情をしていたアヤカ達だったが、ナナセのこの一言で迷いが晴れたと同時に覚悟を決める。

 もし本当に領主から罪を負わされたら、自分達もそれを負うと。

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