第106話 訓練開始15日目 使用不可
訓練開始から15日目の朝、いつも通り受付で訓練場の使用許可を貰おうとギルドに来ると、少々慌ただしい事になっている、聞けば横にある鉱山の未採掘場の奥からゴーレムが現れたのだという。
とはいっても、ここの鉱石は魔力が大量に含まれている事もあり、昔からこの手の騒ぎはよくあるらしく、今も討伐隊を編成して向かう所で、ギルド職員で前線に出る元冒険者が現役達を奮起させている。
「今回もどうせCランクのストーンゴーレム1体だ、連中は動きが鈍い、殴打系の武器で思いっきり殴り付けりゃ簡単に核が露出するだろう、とっとと片付けるぞ!!」
「「「「うおぉぉぉぉ!!」」」」
んん?
ゴーレムが出たのはわかったけど、その種類までもう特定さてれるのか?
……今日騒ぎになったって話しなのに早くね?
まぁよくある事みたいだし、対応がマニュアル化されてるのかもだけど……気になるな、別の職員に聞いてみるか。
「あのー、騒ぎになってるゴーレムって、ストーンゴーレムで確定なんですか?」
「いえ、まだ詳細は何も。ただ魔力を持った鉱物が核となってゴーレムが出来る関係上、その核よりも上の硬度を持つ物は集まらないので。殆どの場合が石や岩石が集まったストーンゴーレムになるんです」
「なるほど……」
いや理屈は分かったけど、それが可能性としてそれが高いってだけだろ?
だから職員も「殆ど」って言葉を使ったんだろうし、現時点でストーンゴーレムと決めつけるのは早過ぎだろ。
鉱山である以上、色んな鉱石が採れるんだから、ゴーレム=ストーンは危険だと思うが………。
「皆はどう思う?」
自分の考え方がズレてるかもしれないと思ったナナセは、アヤカ達にも今回の事をどう思うのかを聞いてみた。
「自分で確認した訳でも、ましてや正確な情報も無い中での決め付けは危険だわ」
「だよねぇ、勝手にストーンゴーレムだ! って言って違ったら命に関わるじゃん」
「そもそも討伐隊を編成するなら尚更魔物を特定しないと、互いに命が掛かってる訳だし」
「完全な愚策……としか言いようがありませんわね」
やっぱそうだよなぁ。
コルセアでの一件だって時間が無い中で、それでも魔物の特定をして、更には上位種が居る可能性まで示唆されてた。
今回のこれはギルド職員や、冒険者側の慣れによる怠慢の様な感じがする………大事に至らなければいいんだが……。
そんな一抹の不安をナナセ達が感じている間に、討伐隊は出発していく。
まぁオレ達には声を掛けられていないし、参加メンバーでもない連中が横から口を出せば、もめる原因にもなりかねないし、何より考え過ぎって線も十分ありえる。
ここは大人しく経過観察しといた方が身の為か。
「考えても仕方ない、オレ達はオレ達の事をしよう」
「って事は昨日と同じ様に訓練場で稽古?」
「そう「あのぉ~」
ん?
横を見るとさっき状況を聞いたギルド職員が、申し訳なさそうにナナセ達を見ている、何やら話がありそうな予感。
「どうかしました?」
「訓練場なんですが、その……連日の皆さんの訓練で、地面等が大変な事になっていまして……ですね、整地の為、数日は使用不可とさせて頂いております」
マジか……いや、考えなくても当たり前の話だよな。
稽古後に地面を慣らしたりしてるけど、あくまで素人が形を整えてるだけ、ちゃんとした整地をしてないから荒れまくってるって事か。
これはギルドとギルド職員、そして他の利用者に迷惑を掛けたなぁ。
「す、すみません!」
「申し訳ありません!」
「ごめんなさい…」
「すみませんでした!」
「ご迷惑をお掛けしましたわ」
全員で頭を下げる。
「いえ! 頭を上げて下さい。そもそもこれが訓練場としての本来の使い方なんですから! 訓練場が整い次第掲示板にて告知しますので、よろしくお願いします」
こうして完全に手持ち無沙汰になる一行。
正直稽古以外に何も考えていなかったので、何をするかという事を今から考えないといけない訳なのだが。
「どうしましょう…」
「いや…私に聞かれても困るって」
んんー訓練場は使えないか、どうするかな。
何だかんだと2週間も連日稽古つけてたし、一度ここで少し息抜きでもするか……そうだ! それなら防具を見て回るはどうだ?
最近は高ランクの魔物と戦う場面も多くなってきたし、安全面を考えて防具を新調しておくのも手だ。
「なぁ皆、念の為聞きたいんだけど、これから何か予定とかってあるか?」
「無いですねー、もう稽古の事ばっかりでしたし」
「同じくですわ、折角これからという段階でしたのに」
サーセン、どっからどう考えても、原因はオレとユウカが地面に向けて闘気弾やら、魔法やらをぶっ放していたせいです。
「それなら防具を見に行かないか?」
「防具か~」
「っそ、リミーナの防具は十分強力な物だけど、今のオレ達の防具じゃ、高ランクの魔物の一撃でも危ないだろうし、どうだ?」
「確かに、私なんてレザーアーマーとレザーブーツだけだし」
「それ言ったらお兄なんて防具無しだからねー」
オレの場合はしゃーないのよ、マジで鎧って嵩張って動き辛いから。
そりゃ動きの妨げにならない、ローブ系とかならまだ装備出来るかもしれないけどさ。
「2人に取っては良いんじゃないかしら、お金に余裕も出来たから、私もカズシさんも武器を新調してるし、2人も防具を新調してみたら?」
「姉さんがそこまで言うなら」
「使うべき所にお金を掛けないと、って事だね」
相談の結果、全員で鎧を探しに武具店の集中している地区に向かう。
流石に2週間も居れば主要な通りや、店が密集している所くらいは分かってくる、というよりも、分からなくても大体騒がしい方に向かえば、この世界では何かしらの店があるのだ。
冒険者ギルドから歩いて10数分、飲食店、道具屋、武器防具と様々な店が広がっり、そしてそれらのアイテムを物色する冒険者の姿が目に入る。
「防具の良し悪しはユウカが見てくれるから、安心して下さいね」
「はーい」
「使うとしたら、ティナはどんな鎧にするんだ?」
「んーやっぱ金属鎧だと重いし、レザー系がいいかなぁ、ハードレザーとかで結構軽いのがあると助かる」
ま、そうなるよな、ティナは確実にスピード重視の戦闘スタイルだし、重い金属鎧は自分の枷にしかならんよな。
あとは上腕や前腕、脛なんかも守れる物があるといいな。
「ユウカはどんなのにする予定だ?」
「私はやっぱ魔法使いらしくローブ系かな。正直鉱山の街だから、そういった物は難しいかもしれないけど」
「あら、そんな事はありませんわよ? ここでは魔鉱石を精錬して魔鋼にした後、更に魔法で糸状に加工も出来ますから、きっとローブ系も扱ってるはずですわ」
「それじゃ後の問題は値段か~」
オーダーメイドの武器が金貨60枚なんだし、十分購入できる分はあるはず、無駄遣いさえしてなければ。
「とりあえず時間はたっぷりあるんだ、色々と見て回ろう」
鍛冶師の街の名に恥じぬ武具店の多さだが、数日はフリーな時間がある一行、まずは適当な店に入ってみる事に。
「レザー系? すまんな、ウチには金属のしかねぇんだわ」
「魔鋼糸を使った防具だって? 悪いな嬢ちゃん達、流石に俺んとこじゃ扱えねぇわ、高過ぎらぁな」
「すまねぇな、その手の防具は扱ってないんだ。―――他に有りそうな所? 心当たりはねぇな、なんせここは鉱山の麓だ、有ったとしても極少数だろうさ」
「申し訳ない―――」
「―――」
―――
「扱ってる店が無いぃぃ!!」
「落ち着きなさい」
流石良質な鉱石が集まるだけある、どの店も殆ど金属鎧ばかりだ、一応無かった訳じゃないが、あくまで冒険者に成り立ての者用に作られたレザー装備一式、今のオレ達には意味が無い。
「結構探し回ったけど、そういう時に限って欲しい物は見つからないよね」
それな。
「とわ言えまだまだお店はありますし、根気よく探すしかありませんわ」
「その前に昼にしよう。夢中になって探してたから気付かなかったけど、もうお昼だ」
「そうだねー、ひとまずお昼を食べてからまた探そっか」
こうしてナナセ達が昼を取ろうとしていた頃、冒険者ギルドには朝に出たはずの討伐隊が戻って来ていた。
それも全員の武器防具がボロボロになって。
中に居た冒険者は騒めき、職員達は一体何があったのかと事情を聴きながら、ギルドに常備されているポーションをかき集めて治療を始める。
「い…一体どうしたんですか!? 皆さんこんなに疲弊して!」
「まいったぜ……こりゃ完全に読み違えた」
「何があったのか簡潔に説明して貰えますか? スタークさん」
「あぁ。俺達はここを出て、情報にあった未採掘場所まで真っ直ぐ行ったんだ、そして目標のゴーレムを見つけたんだが………ありゃストーンゴーレムじゃねぇ」
「ストーンゴーレムじゃない? それはどういった判断で出されたんですか?」
「簡単な話しさ、俺達の武器でぶっ叩いた。結果相手は傷一つ付かず、俺達はボロボロ、これでストーンゴーレムじゃない事は確定。最低でもア
「アイアンゴーレム!?」
「最低でもな。こっちの殴打系の武器も鉄だってのに、大した傷も付きやがらねぇとこを見るとス
「そんな……」
「急いでギルドマスターに伝えてくれ」
討伐隊が戻って来たのは討伐したからでは無かった、寧ろ現場に駆け付けた事で不明な点が明らかとなり状況は一変、ストーンゴーレムではなくその上、アイアンゴーレムか、更に上のスチールゴーレムの可能性があるという事に、報告を受けた職員が愕然とする。
急ぎこの事がギルドマスターに伝えられ、人里と目と鼻の先という事もあり、再度緊急のクエストが出されるが、現状アイアンゴーレム以上となると倒す術が無い。
何せアイアン以上のゴーレムとなると、言い換えればデカい製錬された金属の塊、剣や斧、槍といった斬撃や突系の武器と非常に相性が悪いせいで、殆どの攻撃が通らない。
加えて鎚等の殴打系の武器で高ランクの者となると数が少なく、ガルバドールに居る冒険者の中で、Bランク以上、且つ、鎚を使う者は居なかったのだ、この事実により街の状況はとてつもなくひっ迫していた。
当然、その場に居ないナナセ達がこの事態を知る由もなく、今の自分達の現状ではギルドに戻る事も無いだろう。
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