第104話 野心①

 ナナセ達が訓練をしている頃、ある国では雲行きが怪しい状況になっていた。

 そこはかつてナナセ達が呼び出された始まりの地であり、最初の別れの地でもある、ディルフィニール。

 その王宮、とある一室。


「大臣、異世界人達の様子はどうだ」


「っは、2人共ダンジョンから戻り、トモヤ カキザキは既に我が国のダンジョン下層であっても敵は無く、レベルは80を超え、純粋なステータスだけで、武装したAランク冒険者を圧倒出来る強さを持っており、走破も目前かと」


「ほお、流石異世界人の成長率は凄まじいな。たった3か月足らずでAランク冒険者を圧倒出来るとは」


「それもこれも、姫様のおかげでございます」


「セリアか、こちらの意図せず異世界人に近付いてくれたのは良かった。おかげで怪しまれず操る事が出来る」


「しかし姫様も今は大事な時期、近くにあのような虫が居ては、婚礼の際に些か問題になりませんか?」


「問題無い、外に漏れなければ無いも同然だ。分かるな?」


 要は逢瀬を噂する者、外部へと漏らそうとする者は消せという事、それも一切の例外も無く。

 王宮には多くの貴族の令息・令嬢が勤めているにも関わらず、躊躇なく言い放ち即断する姿は正に支配者と言えよう。


「本当によろしいのですか?」


「何故聞き返す必要がある? ここが誰の国かを考えれば当然あろう、私の国で、私に不利となる発言を広める者など必要か?」


 表情一つ変えず、当然の様に言い放つ。


「かしこまりました。これは少々小僧が不憫ですかな……フフ」


「それと、もう一人の異世界人はどうか」


「ケンゴ クスイは少々遅れておりますが、レベル60に到達したと報告を受けております」


「奴のスキルは特に強力だ、ここに留める為なら何をしても良い」


「はっ! 既に奴めには国中から美女を集め、宛がっております。更に秘密裏に魔法での縛りも結んでおりますので、ご安心下さい」


 大臣から発せられる不穏な一言、「魔法での縛り」これが何を意味するのかは縛られた本人にすら分からない。

 分かっているのはこれを用意したであろう者と、指示を出した大臣のみ。


「成程……それと、私の言葉に応じず出て行った3人はどうしている」


 先程までと違い、ナナセ達の事になった瞬間声色が明らかに下がる。

 あの当時は事を大きくさせまいと穏やかに認めはしたものの、やはり自分の意に反したと言う事が、王として矜持に触れたのだ。

 当然側近である大臣もその事は理解していた、だからこそ城を出た後、3人を密偵に追わせていたのだ。


「密偵から、現在あの3人はアルテニア王都内に居ると報告が上がっております。このまま行くと、恐らく東の国境を超えてエルハルト王国に入るのではないかと、また、我が国との関係性は誰にも話していないとの事です」


「ふむ…何が目的かは分からぬが、連中が国境を超えエルハルトに入った後は捨ておけ。その後はアルテニアに残っている密偵を使い、兼ねてより軍部から上がっていた通り、戦争の為に情報を集めさせよ!」


「ははっ!」


 ナナセ達をこの世界へと呼んだ元凶によって、アルテニア王国に暗雲が立ち込め様としている。

 また、ディルフィニールの中心戦力となるであろう異世界人の2人は、今どれ程の実力となっているのか、能力次第では、この2人に多くの兵力を割かれる可能性が出てくる。

 そしてアルテニアの命運を左右する事態ではあるが、今のナナセ達にはそれを知る術は無い。


 ―――


 同時刻、ディルフィニール王宮の庭園では、とある2人の男女が逢瀬を重ねようとしていた。

 男は異世界人の1人である、トモヤ カキザキ。

 庭園中央に位置する建物にはテーブルが設置され、1人の女が侍女を連れてお茶を嗜んでいる。


「今戻ったよ!」


「まぁトモヤ様、よくぞご無事で。私はトモヤ様の身に何かあったらと、とても不安でしたのよ」


 トモヤの呼びかけに席を立ち、その胸へと飛び込む女性は、ディルフィニール王国の姫、セリア。

 いつも決まった時間にここでお茶をしている事から、トモヤもそれに合わせて顔を出す様になっていた。


「ごめんごめん! でも俺が強いのはセリアも知ってるだろ? 大丈夫、例えどんな奴が相手でも絶対に負けたりしないから」


「本当でございますね……絶対に、私を置いて居なくならないと……」


「勿論さ、約束する!」


 その言葉をトモヤから聞き、ようやく笑顔を向けるセリアには、先程までの不安は消えていた。

 そんなセリアを見ながらトモヤは心の中で誓う、「絶対に王様に認められて、セリアと結婚する」と。


「本日はどんな冒険を聞かせて頂けるのですか?」


 いつの間にか侍女は消え、セリアの対面には温かなお茶が入ったカップが一脚用意されていた。


「そうだな、今日の話しは……ダンジョンの11階層に居た階層支配者フロアマスターの話しをするよ。そいつは獅子の頭と前半身に、山羊の頭と後半身、そして蛇の尻尾を持った、キマイラってAAランクの魔物でさ、いやー凄かったよー」


「AAランクの魔物なんて……そんな恐ろしい魔物と戦われたのですか!?」


「あぁ、動きも速いしツメや炎まで吐いてくるから手こずったよ!」


「怪我は! お怪我はございませんか!!」


「大丈夫、どんな相手でも俺には全ての攻撃が無意味だから。それが俺の持つ最強のユニークスキル、【オートガード】だ」


「まぁ!」


 決まったぁぁぁ!! これでまたセリアの心を俺の方に近付ける事が出来た、くうぅぅぅ! 異世界サイッコォォォォ!!

 きっと俺はこの世界に来る為に生まれて来たんだ! 何の志も無くここを出ていったあの3人とは違う特別な存在! ここから始まる俺の英雄譚、ゆくゆくは自分の国を持って、長く語り継がれる伝説になるんだ!!


「俺は全ての攻撃を防ぎながらケンゴさんと協力して、確実に一撃を与え続けた。勿論その間も体当たりや、噛みつきなんかの攻撃でキマイラは襲ってくる、でも俺は退かなかった、こんな所で退けばセリアの隣に居る資格が無いと思って」


「トモヤ様」


「そして戦いは唐突に決着を迎える、俺の放った一撃が前足に当たってキマイラが倒れたんだ! 俺はトドメの一撃を入れる為に剣を構えて突撃した、その瞬間キマイラも最後の力を振り絞って蛇の尾で攻撃してきたんだ」


「あぁ……」


「でも俺は分かっていた、キマイラが最後に絶対攻撃を仕掛けて来るって、だからスキル【咆哮撃】で、今まで盾で防いだ攻撃の全てをその尾に向けて放つと、粉微塵になって吹き飛んだ、その隙に全力で急所に剣を突き立てたんだ、そうしてやっとキマイラを倒すことが出来たんだ」


【咆哮撃】

 効果:盾で受けた攻撃を衝撃として盾の前方に撃ち出す。攻撃を受ける程撃ち出す衝撃は強くなる。


「凄いですわトモヤ様!」


 語りに一喜一憂するセリアを見て、トモヤは次第に自分の掲げたサクセスストーリーに酔っていく、それが王様の狙いとも知らずに。

 相手は英雄になれるだけの成長補正を持ってるとは言えただの子供、それも異世界から呼び出し、力に酔った子供の扱い等、理解して呼び出した側としては簡単な事だろう、なにせ煽てるだけでいいのだから。


「それにキマイラを倒した事でレベルも上がったんだ、見てよ」


【名前】 トモヤ カキザキ

【レベル】 83

【生命力】1576 【魔法力】247 【力】1302 【魔力】253 【俊敏性】670 

【体力】1054 【魔法抵抗力】364 【物理攻撃力】1302 【魔法攻撃力】253 

【防御力】527 【魔防】182

【スキル・魔法】

 ・オートガード【ユニーク】

 効果:自分に向けられた攻撃を察知してる、してないに関わらず盾・剣で防ぐ/弾く/受け流すことが出来る、ただし武具の耐久や受ける本人がその衝撃に耐えられるかは別。


 ・咆哮撃

 効果:盾で受けた攻撃を衝撃として盾の前方に撃ち出す。攻撃を受ける程撃ち出す衝撃は強くなる。


 ・地裂撃

 効果:自身の前方に地を裂く衝撃波を撃ち出して攻撃する。


「とてもお強いのですね」


「俺、絶対王様に認めて貰える様にがんばるからさ、待ってて欲しい」


「はい……セリアは、何時までもトモヤ様をお慕い申し上げます」


 トモヤの顔がセリアに近付き、重なろうとした瞬間。


「失礼致します姫様。そろそろ公務のお時間かと」


「もうそんな時間ですか……楽しい時間は一瞬で過ぎてしまいますね。申し訳ございませんトモヤ様」


「い…いや、いいんだ! セリアも色々忙しい中ごめんな、また話そう!」


「是非、それでは失礼致しますね」


 スカートの裾をつまみ、軽く持ち上げてお辞儀をすると、侍女と共に庭園を去っていく。

 その後ろ姿を見送りながらトモヤは小さく呟いた。


「未来の英雄が話してんだろ、侍女如きが空気を読めよな……」


 侍女に対して怒りを露わにし、2人が見えなくなるのを確認してから、トモヤもまた庭園から立ち去る。


 一方でクスイも、王宮内にある自分専用の離宮に戻って来ていた。

 そこは主であるクスイの趣味趣向で満たされた場所、離宮内はクスイ以外の男の立ち入りは厳禁で、連絡等の雑事や、身の回りの世話全て女性が行う。

 またその女性達も、誰が見ても美女と言えるだけの美貌を持った、若い女性数十人で構成されており、この世界とも、元の世界とも違う、別の新たな世界を離宮の中に作り出していた。


「つっかれたぜぇ~、まさか11階層のボスがキマイラとはな。トモヤが居なけりゃやばかったな」


 首をコキコキと鳴らし、クスイが離宮の入口に立つと自動で扉が開かれる。

 そこに居たのは見渡す限り全て美女、その美女達が膝を付きクスイを出迎えていたのだった。

 普通であればこれだけでも十分に異常だが、ここではそれすらも些細な事に感じる明確な異常が一つある。

 この離宮内に居る女性は全員、何時、如何なる時も、クスイの求めに応じられる様に、一糸纏わぬ姿か、薄過ぎて身に着けても素肌が見える様な物しか着用していないのだ。

 それもこれも、ここの神とも言うべきクスイが、女性全員に衣服の着用を禁止した為であり、唯一着用を許されているのは、着る事で欲情を煽る様な物のみ。

 まさに色と欲に塗れた、異世界のソドムとゴモラとも言える様な空間である。


「お帰りなさいませ、ケンゴ様」


「あぁ、皆楽にしていいぞー」


 この一言で全員が立ち上がり、数人がクスイのローブ等の装備を外す為に近付き、素早くそして丁寧に脱がして行く。

 そして先程クスイが戻って来た時、真っ先に挨拶をした女は、目新しい報告をしていく。


「本日、また新たな女がこの離宮に入りました」


「へぇ~何歳?」


「19だそうです」


 その言葉を聞いて一部が大きくなると同時に、スボンを脱がそうとしていた女が呟く。


「ケンゴ様、このままご奉仕させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「すげぇ魅力的な提案だが……無しだ」


「そんなぁ~」


「まずはその娘をここに慣れさせてやらないだろ? そんな残念そうな顔するなって、お前もたっぷり可愛がってやるからさ」


「本当ですね! ありがとうございます!!」


女は恍惚の表情を浮かべて感謝の意を伝える。


(19か……へへっ、処女であれば徹底的に調教して、別に男が居るのに、無理矢理ここへ入れられたってなら………その男の話しをさせながら犯しまくる。ここに入った以上、俺が絶対って事を体に教え込んでやる)


いやらしい笑みを浮かべながら、今日入ったという女の事を考えるクスイ。


「んじゃ俺は汗を流してくるから、装備はいつも通りでな。あぁそうだ、付き人は要らねぇ、この後の準備を怠るなよ」


「ケンゴさまぁ、私達はケンゴ様の匂いを強く感じられる今のままでも問題ありませんわ。寧ろそちらの方が雄々しくて素敵です」


「そうかもしれんが、俺にキマイラの野郎の臭いが付いてるのが勘弁ならねんだ。安心しろよ、全員平等に可愛がってやるからさ」


 そう言い残し一人浴場へと入っていく。

 中に広がるのは、壁や床に至るまで大理石の様な石で作られ、趣向が凝らされた室内に、その先には一段一段は然程段差がある訳ではないが、幅2メートル程に作られた3段の階段と、美しい細工が施された浴槽と給湯口。

 天井には魔石を使った照明が浴室内全てを明るく照らしていた。

 そして浴槽の周りには、3人は余裕を持って腰掛けられるソファーとテーブルのセットが4台に、床のタイルと同じ物で作られたシェルフが同数。

 そのシェルフ上段には石鹸やタオルの入ったバスケット、砕いた魔石を練り込み、何時でも冷たい水が飲める様に作られたキャニスターとグラス。

 下段にはバスタオルとバスローブが完備さており、ここだけでも相当贅の限りが尽くされている。


 クスイは真っ直ぐ進みその身を湯に浸ける。


「ふぅ……今回のダンジョンで俺のレベルは60か……」


【名前】 ケンゴ クスイ

【レベル】 60

【生命力】 1247 【魔法力】498 【力】693 【魔力】475 【俊敏性】497 

【体力】 647 【魔法抵抗力】511 【物理攻撃力】693 【魔法攻撃力】475 

【防御力】324 【魔防】256

【スキル・魔法】

 ・守護者創造【ユニーク】

 効果:自分の意のままに操れるガーディアンを作り出せる、強さは術者のレベル/魔力/消費魔法力によって変化する

 創造物:・砂人形サンドドール ・土人形ゴーレム ・石像兵ガーゴイル


 ・創造物憑依【ユニーク】

 効果:自分の作り出したガーディアンに、全神経を乗り移らせる事で自分がガーディアンとして行動が出来る。但しその間は本体は無防備となる。


「魔法力は498で魔力が475か、まだまだだな……現状単体に全コストを使えばCランクの魔物は楽に倒せても、Bランクは厳しい。より強力なガーディアンを作るならどっちも1000は欲しいもんだな」


 今のダンジョン攻略はクスイがガーディアンを10体作り出し、その内5体に食料等の必需品を持たせ、残りの5体に戦わせてトドメをクスイが刺す、といった戦法を取っていた為、ガーディアンの強さも相まってレベルアップに時間が掛かっていた。

 更に純粋に前衛特化タイプのトモヤと比べると、クスイのステータス上昇は全能力がバランス良く上がるタイプだった事もあり、そこでも差がつきやすかった。


「もっと……もっとだ、もっとレベルを上げて強くなれば、このユニークスキル、【守護者創造】は最強で無敵になる」


 全身の力を抜き、お湯に浮かびながらクスイは考える。


(なにせこのスキルの隠し要素がとんでもねぇ効果だったからな、この【守護者創造】は、一度作れば破壊されるか、俺が命じない限りは永久に残る! この効果があれば時間こそ掛かるが、俺がこの国を……いや、この世界の神になる事も夢じゃねぇ!)


 元々親が大企業の重役をしてる裕福な家庭で、自由に大切に育てられた事もあり、それを鼻に掛けて女癖が悪く、親の金で好き勝手な大学生活を送っていた為、素行が悪いクスイではあったが、自分がこの世界に来て特別な力を持った事で、更にそれが加速した。

 英雄や王などでは無く、己自身が神となる、元居た世界でこんな事を言えば確実に大笑いされる事だろう、しかもそれを言っているのが22歳のいい大人が、だ。

 しかしクスイは真面目にこの考えを実行するつもりなのである。


(脳筋のトモヤはどうとでもなる、邪魔になりそうなのは……ナナセの野郎だ……あいつは、俺に恥をかかせたあいつだけは絶対に俺の手で殺してやる!! ユキシロ姉妹は…そうだな、どっちが先に俺の子を孕むか競争させて、負けた方は何かのオモチャにでもするか)


「全く、この世界は楽しい事だらけだぜ! クックック、ハーハッハッハ!」


 その恥をかく事になった出来事が、自分がユキシロ姉妹への強姦未遂であるという事なのだが、クスイには関係なかった。

 結果として恥をかかされたという事が重要なのであって、悪い事、自分の思い通りに進まない事は、全て誰かが悪いという思考なのである。

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