第101話 製造依頼

 他人の店の前で騒いでいる鍛冶師と、それに気が引けてるナナセをそのままに、アヤカ達4人は近付いて行く。

 ある程度まで寄ると相手達も気付いたのか声を掛ける。


「どうした嬢ちゃんら、鍛治の依頼か? それなら俺様に任せときな、どんな武器だろうと最高の物を仕上げてやる! コイツを見な、冒険者から依頼を受けて、今日出来上がった剣だ、そこらの鍛治師にゃ作れねぇ逸品だぜ!」


 そういうと先程までブロボッツに見せていた剣を、アヤカ達の前に出してくる。

 派手な宝飾は施されてはいないが、ガードポンメル柄頭といった部分が無駄に作り込まれており、剣を持った時や振った時に邪魔になるのは間違いないだろう。


(こんな使い難そうな剣を見せられても……)

(明らかに作り手が満足する為だけに作られた可哀想な剣ですわね)

(ガードがあんなゴテゴテだと振り難いって分かんないのかな)

(ユウカ、剣自体はどうなの?)

(ちょっと待って、今鑑識眼視てみるから)


【カッツバルゲル】

 ショートソードの一種、製造に使われた鉄が粗悪な上、焼き入れが甘く、耐久力に難がある。魔物の攻撃や剣のぶつかり合いを数度繰り返すだけで、欠けやヒビが発生する可能性が高いナマクラ。


(………あれナマクラって判定でてるよ)

(文字通り、見た目だけって事ですわね)

(あれを買う冒険者の命が心配なんだけど……)

(それに関して私達は何も言えないわね。売り手と買い手が納得した上で作ってるんでしょうし、そこに横やりを入れれば、問題が起きる未来しか見えないわ)


「へへっ、余りの出来栄えに声も出ねぇよな。わかるぜぇ、俺様も自分の才能が怖えぇくらいだからな、それで嬢ちゃんらは俺様に何を作って欲しいんだい?」


「いえ、必要ありません。そちらの方がブロボッツさんでよろしかったでしょうか?」


「んなっ!?」


「あぁ、オレがブロボッツだが、お前さん達は?」


「こちらを読んで頂けますか」


 アヤカは用意していたランゼンの紹介状を差し出すと、ブロボッツはそれをぶっきらぼうに破き、中の手紙を読みだす。

 その間ナマクラを作った鍛冶師はイラついた様な雰囲気で両者を見ている。


「……お前さん達はランゼンの紹介でここに来たって訳か」


「はい、是非私達の武器を作って頂きたくて」


「オイオイ正気か!? こんな2流どころか3流鍛冶師に頼んだってまともな武器なんて出来ねぇぞ! 嬢ちゃん悪いこた言わねぇ、俺様に任せな!!」


 その自信は一体どこから来てるのか。

 いや、自分の腕前に自信を持つのは良い事か、慢心するのが悪いだけで。


「すみませんが私はブロボッツさんに話しているんです。それに他人を貶めて自分を上げる人に、良い物を作れるとは思えませんので」


「てっ! こっ!」


 アヤカもまた真っ直ぐぶつけたなぁ。


「テメェこの! 人が親切で教えてやってんのに何て物言いだ!! お前等ガキ共のツラぁ覚えたからな! 街で1・2を争う程の腕前を持つ、俺様の武器が欲しくなっても、死んでも作らんからな!!!」


 ほらブチ切れた、正論のド直球を投げられると、あの手のタイプはキレるって分かってるのに。


 言い返された鍛冶師は怒りの形相したまま、大股でナナセの方に歩いてくる。


「どけっ!!」


 おっかねぇ……。

 それでブロボッツさんは。


「あいつが作れなかった武器か……よっぽど特殊なブツなのか?」


 全く気にしてない、あの鍛冶師の存在自体を無いものとして見てるんじゃないかってくらい、気にしてない。


「余り見ない武器だとは思います」


 アヤカは自分の剣に魔力を流して見せる。


「……成程、剣に魔力を流す事で分離、魔力刃を形成して伸びる機構か」


「それに私の意志で剣の操作も出来ます」


「ふむ……、となるとそれを制御する核が必要になるな。外で話すのも何だ、工房に来るといい、そこに居る奴さんも仲間なんだろ?」


「はい…」


 ―――


 工房の中へと通されたナナセ達は刀とチェーンブレイドを渡し、自分達の事、各街で同じ物が作れるかを尋ね、ランゼンが紹介してくれた事等を説明した。

 その話を聞きながらブロボッツは2つの武器を手に取り、鍛治師として隅々を確認していく。


「お前さん達の言いたい事は分かった。ワシに刀とチェーンブレイドこの特殊な得物を作れって事か……」


「ランゼンさんから、以前作った所を見た事があると聞いたので、どうしても作って頂きたく」


「ブロボッツさん、お願いします!」


「なんか勘違いしてるみてぇだが、作るのは構わねぇんだ、ただなぁ……」


「ただ、どうかしたんですの?」


 見ればブロボッツは、職人として気合や魂といった、概念的な物が抜け落ちた様な顔をしている。

 5人は次のブロボッツの言葉を待った。


「正直今は武器を作れる様な状態じゃねぇんだ」


「なんか病気にでも掛かったんですか?」


「病気、病気かぁ……確かにそうかもな。最近ワシが旨いと思うような強い酒が無くてなぁ、おかげでこんな有り様さ、これじゃいい仕事なんて出来やしねぇ」


 その言葉を聞いた瞬間オレはアヤカを見る。

 アヤカの方も来ると分かっていたのか、直ぐにさっきの瓶を1本手渡してくれる。


「もしよかったらコイツを飲んでみて下さい」


「こいつは?」


コルクを開ければわかるかと」


 瓶を前に怪訝な顔をするブロボッツだったが、ナナセに言われてコルクを開けると表情が一変する。

 突如瓶から甘く芳醇な香りが立ち、ブロボッツは頭を思い切り殴られた様な衝撃を覚える。


「こ、こいつは一体!! 本当に飲んじまっていいのか!?」


「どうぞ」


 ナナセが言い終わると同時に酒を呷る、一口、二口と喉を鳴らしながら飲んで行くと、先程までの生気を失ってた顔が徐々に回復し、飲み終わる頃には真逆の顔がそこにはあった。


「くはぁぁぁぁ!! これは効くなぁぁ! 今まで飲んだ酒で一番強くて旨いぞ!!」


「作れそうですかね?」


 そういいながら残りの3本を差し出す。


「おうよ任せな! 武器の構成はさっき持った時に分かった、形はさっきのでいいんだろ? 後は何か条件はないか?」


「オレは常に最前線で戦うので、折れず曲がらず欠けずという事が出来れば最高ですね」


「私も頑丈なのと今の射程が10メートルなので、それよりももっと伸ばす事が出来れば」


「成程、お前さんのはとにかく頑丈、それも極力欠けすら無い程に。嬢ちゃんは頑丈なのと射程か、制御の核になる様な宝玉か、E~Dランクの魔石なんかがあれば十分なんだが」


「これでもいいですか?」


 アヤカは昔倒したレッドファング(Aランクの魔物)と、フリージングウルフ(Aランクの魔物)の2つの魔石を出す。

 当然そんな上物が出て来るとは思っていなかったブロボッツは再度驚く事に。


「お、お前さん…こいつはAランクの魔物の魔石じゃねぇか!!」


「前に倒した魔物のですが、使えますか?」


(いんやぁ…驚いた、まさかAランクを倒せるとは……人は見掛けによらんなぁ)

「寧ろ十分過ぎるわい、2つとも使ってもいいのか?」


「大丈夫なんでお願いします。ちなみに武器の材質は何を使うんですか?」


 問題はここだよなぁ、使う材料によって値段が変わってくる、今後の旅も考えて手持ちで足りればいいんだけど。

 でも安物買いの銭失いはしたくないからな、掛ける所にはしっかり掛けるべきか。


「うむ、お前さん達の要望を叶えるなら……魔鋼鉄しか無いな。それも魔鉱石から厳選して作った特別製のが、恐らく全部ひっくるめて1人金貨50いや、金貨60枚はするだろうが、どうする」


「「お願いします」」


(一瞬たりとも考えないか。冒険者として自分の相棒武器が何を意味するのかちゃんと分かってるな)

「出来上がるまでそうじゃな……半端な物は作れんから3週間、いや1か月くれ! それで最高の一振りを完成させて見せる! 金もその時でいい!」


「わかりました。それとさっきのお酒、もう少し何とかなるので良かったら用意しましょうか?」


「本当か!? いよっしゃぁぁぁぁ! 俄然やる気が溢れるわい!! 出来上がりを期待しといてくれ!」


「お願いします。大体はギルドに居ると思いますけど、もし居なければ伝言を残して貰えると助かります。その費用も後で一緒に払いますから」


「わかったぞい!!」


 こうして2人の武器を発注して工房を後にするナナセ達、その後は宿を取る為に街の中心に戻り、取った足でそのままギルドへと向かう。

 その道中に先程のやり取りがティナから上がる。


「なんであの時樽ごと渡さなかったの?」


「だねぇ、丸ごと全部渡してあげたら良かったんじゃない?」


「言いたい事は分かる。でも一気に渡すと、それはそれで後は減ってくだけだからねー」


「まぁお酒は飲むと減りますわね」


「多分そういう意味じゃないと思うわ」


「っそ、アヤカの言う通りで、期待値って言ったらいいのかな。全部渡すとその期待値はそれ以降上がる事は無いけど、目の前に無いけどまだ用意出来るって、確定で言われたら、皆は期待しない?」


「「「「あぁ~なるほど~」」」」


 期待値なんてあやふやな言葉を使ったけど、理解してくれてよかった。

 正直こんな言葉はオンゲのレアドロップとか、ガチャでしか使う事が無いと思ってたからなぁ。


「確かにカズシってばあの時、「用意しましょうか?」って、まだあるように言ってたもんね」


「は~お兄ってば色々小狡い事考えるね~」


「人聞きが悪いなおい! 交渉術って言ってくれよ」


「でも実際その手の言い回しは、国家間の交渉の場でも、駆け引きとして十分重宝される技術ですわ。出来れば私と共に」


「こんな平民に無茶言わないでくれ、ただでさえ臆病な人間なんだから」


((((……誰が?))))


 女性陣全員が一瞬だけ冷ややかな目をナナセに向ける。


「それよりも街の中心に向かうという事は、宿を取るんですよね?」


「そう、その後に冒険者ギルドに行こうと思ってる」


「姉さんもお兄もメッチャお金使ったからね、しっかり稼がないと」


「いや? 当分仕事は受けないよ?」


「仕事は受けないって……それじゃ何をしに行くの?」


 4人共ナナセの言ってる事が分からなかった。

 冒険者ギルドには行くが仕事は受けない、元々ギルドには仕事を求めて行く物なのにナナセは依頼を受ける気が無いという。

 4人の頭には今?マークが浮かんでいる事だろう。


「前々から考えてはいたんだよね」


「えっと……何を…です?」


「………オレを仮想敵とした、4人の戦闘技術向上を目的とした戦闘訓練、それもかなり実戦方式の」


 ナナセは笑顔で言い放つが、それを向けられた本人達は堪ったものでは無いだろう。

 何せ全員ナナセがどれくらいの強さを持っているか知っているので、その言葉がどれ程やばい物なのかを瞬時に理解出来た。

 そして実際、この後にギルドの訓練場では、とんでもない戦闘が巻き起こる事になる。


宿代30日分 金貨9枚(各自 金貨1枚 大銀貨8枚)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る