エルハルト王国 ー鍛冶師の街 ガルバドールー
第99話 国境、そしてガルバドールへ
4頭の馬が引く馬車に乗っているのは、ナナセ達のパーティーの他に、3人組の冒険者パーティが1組と商人が1人、ただこの商人が結構裕福だったらしく、
そしてグランシールを出発して翌日の朝に、アルテニアとエルハルトの国境に差し掛かっていた。
「次の者! 御者よ、国境を超える理由はなんだ?」
「ただのグランシールとガルバドール間の乗り合い馬車です。お客が9人で私を合わせて10人、これが証明書になります」
「ふむ………、証明書に問題は無いな、乗ってる者達も降りよ!」
やっぱり国境なだけあって若干ピリピリした感じがあるな、まぁ国と国の境目だ、楽に構える兵士なんてまず無いよな。
陣頭指揮を執ってるのは老年の兵士か、割と顔がシワシワだけど眼光は鋭いな、中年の兵士が、ビクビクしながら動いてる所を見ると、メチャクチャ厳しい人なのか?
ウチの爺ちゃんも。
「お若いの、お主冒険者じゃな? ランクは?」
「……え?」
「お主のランクはなんじゃと聞いておる」
「えーっと………」
いつの間にかその老兵がオレの前に居て、冒険者ランクを聞いてくるんだが。
ドユコト?
「ちょっと、何なのこれ!? どうしてそんな事言わないといけないのさ!」
「黙れ! 貴様!! 早く答えんかッ!」
「お前達は黙っとれ!」
「は、はい! 申し訳ありませんでした!!」
ナナセを一喝した兵士が逆に老年の兵士に一喝される。
何なのよコレ……オレなんか悪い事した?
してないだろ……そりゃ日本に居た時は、自販機の釣り銭忘れを有難く頂いたりとかはしたけどさ、ここには関係無い話しじゃん。
「答えんか……ま、ええじゃろ、何も強制ではないしな」
「はぁ……」
そう言って踵を返して戻っていく。
一体何だったんだ? 突然目の前に来たと思ったらランクを言えって、しかも言った割りにすんなりと引き下がってく、正直訳が分からないぞ。
ナナセは頭の中で老兵の行動が何だったかを考える。
「……ふんッ!!」
「なっ!?」
突如老兵が剣を抜き、その歳からは考えられない程鋭い一撃をナナセに放つ。
当然ナナセもそれに対応して刀を抜くと、2つの武器がぶつかり合い、1つの大きな戟音を響かせる。
しかし全員の目に映るのは1つの武器だけ、ナナセはゆっくりと刀を鞘に納める、弾かれた老兵の剣は、少し離れた国境の壁に突き刺さっていた。
このじいさん……強い。
「ほっほっほ、こりゃたまげたわい、まさかワシの剣を弾き飛ばす程とはの」
「き………貴様ァァ! 自分が何をしたのか分かってるのかッ!! 国境警備の邪魔をしたとして即刻首を!」
「何度も言わすな! 黙れッ!」
「で、ですがこの男は…」
「いきなり剣を振るって来たのはそちらですよね? 何故私達がそんな事をされないといけないんですか!」
珍しくアヤカが声を荒げる。
いきなり攻撃をされて、弾いたと思えば、即刻首をなんて言われれば、その気持ちも当然と言える。
「この娘御の言う通りじゃ、最初に仕掛けたのはワシなのに何を言っとるか! 大体お前達が勝てる相手ではないわ。ワシの本気の剣を軽々と弾いたんじゃからな」
「そんなっ!?」
老兵の発言に今度は兵士達がざわめき出したが、その本人は特に気にする様子も無くナナセを見る。
そして先程までの鋭い眼光とは別の目を向けながら。
「お若いの、本当に申し訳ない。このジジイ、歳を食ったのに未だに強い者を見ると手合わせ願いたくなる性分でな。いや本当にご迷惑をお掛けした、この通りじゃ」
頭を深々と下げる老兵、正直やられた側としては言いたい事はあるが、これ以上ここで騒げば、後列の者にも迷惑が掛かると判断し、ナナセも大人の対応を取ることに。
ただし、後で問題視されない様に、念の為2人に釘は刺しておく。
「わかりました。ですが後々上への報告に偽りを上げないで下さいね、何かあればこちらも全力で対応しますから」
「勿論じゃ」
こうして訳も分からず国境の老兵に、半ば強制的な手合わせをさせられてから、更に3日掛けて目的地であるガルバドールへと到着した。
※国境通過料金 一人銀貨3枚
国境を超えてから3度魔物の襲撃が遭ったが、
ちなみに先の苛立ちもあり、客として乗っているナナセも手伝おうとしたが、ティナとリミーナに全力止められ、理由を聞けば、ティナからは雇われてる冒険者や御者、リミーナからは馬車所有者の信用問題になるとの事で、最悪、護衛冒険者と御者の仕事が無くなる可能性まであるそうだ。
ただし例外として、明らかに命の危険が迫っている場合はその限りではないとの事、中々腑に落ちない点もあるが、そういう決まりであればナナセも従うしかない。
正直何事も無く……ではないけど、国境を超えられてよかった、場合によっては、そこで引き留められるんじゃないかと思ってたからな。
なにせ粉う方なき一国の王女、
まぁ声を掛けられたのはオレで、しかも騒ぎにもなったけど。
ナナセがほっと一息付いていると後ろから話しかけられる。
「あの……国境では大変でしたわね」
「本当にね。下手したらあのまま適当な理由を付けられて、王都に逆戻りもありえたんだから」
「それは……その……しっかり、バレ…て……ました……から」
………はい?
今なんて言った? バレてた? 間違いなくそう言ったよね?
え……じゃなんで普通に通して貰えたんだ?
一人パニックになっているナナセを見ながら、リミーナは続ける。
「国境の指揮を執っていた、老年の兵が居りましたわね?」
「あ…あぁ、不意打ち気味に攻撃してきた」
「あの方は……私と近衛騎士団長の師匠、ローレンですわ」
「………、はあぁぁぁぁぁぁ!?」
まさかのカミングアウトにナナセも驚きの声を上げる、当然周りに居るメンバーも何があったのか2人に尋ねて来る。
何せ普段は余り驚かないナナセが驚いているのだから、その関心は高い。
「ちょ! カズシってば一体どうしたの!?」
「い…いや、あの国境の老兵が……」
「あのお爺さんがどうかしたんですか?」
「………リミーナと近衛騎士団長の師匠って」
「「「えぇぇぇぇぇ!!」」」
これには3人も驚きである。
あれだけ兵士達相手に大立ち回りをしていた事が、無作為とは言え出来レースだったと言うのだ。
どういう事なのか、全員がリミーナの次の言葉を待つ
「まずは本当にごめんなさい。あんな事になるとは私も思いませんでしたの!」
「んじゃ、完全にあのお爺さんの独断ってこと?」
「それは……言い訳にしかなりませんが、あの時、私が一緒に行動している事について、問題は無いと師匠に合図は送っていたんですわ。そしたら……」
「奥で兵士に指示をしてたと思ったら、いつの間にかカズシの前に来てたよね」
「……はい。恐らく手合わせと言うのも間違いは無いのですが。師匠の考えとしては、多分……ナナセ様の実力を確認した上で、私が共に冒険をして大丈夫かを、見定めていたのではないかと……」
な る ほ ど……。
あの人は一兵士として、師匠として、そして大きな声じゃ言えないけど、祖父的なものとして、一国の王女を守れるかオレを試してたって事か。
確かに最初っからオレへの眼光凄かったもんな、でも。
「それを聞けば、あの人がオレにだけやたらと干渉してきた訳にも納得だ」
―――
「おい、ローレン隊長の件って聞いたか?」
「少し前に、冒険者に無理矢理手合わせさせた事だろ? 聞いたよ」
「驚いたよな。あの隊長が仕掛けて、たった一度剣を合わせただけで自分の負けを認めるなんてな」
「しかも相手に剣を弾き飛ばされたって話だろ? 相手も一体どんなバケモンだよって話だよな」
「何でも現場を見ていた連中からは、相当若い奴に負けたって話だぜ」
「マジかよ……末恐ろしい奴も居たもんだな……」
国境を警備している兵士達の間で、ナナセとローレンの一騎討ちの件は瞬く間に広がっていた。
しかも国の近衛騎士団長の師を負かしたとあって、現場を、それも目の前で見ていた兵士から相手の風貌等、詳細を尋ねる兵士は後を絶たなかった。
「貴様ら……任務中に随分と余裕じゃな、そんなに退屈なら警備の一環として、近くで見たと騒がれとる
「た、隊長!?」
「いや! 余裕じゃないです! 忙しいです!!」
話し込んでいるのをローレンに見付かり、慌てて取り繕う2人、相当魔物を相手にするのが嫌なのだろう、直ぐさま別の仕事をしている者を手伝いに駆けて行く。
そんな後ろ姿を見ながら、ローレンは先日ここを通って行った王女と、一緒に居た冒険者達を思い出す。
(身分を隠してクラレット様がいらっしゃるとは思いませんでしたな、何やら訳ありのご様子、問題無いとの事でしたが、このローレン、念の為に動かせて頂きました。何とも凄まじい使い手の若者でしたな……共に行動している娘御達も特殊な技持ちの様子、いやはや余計なお世話でしたな。旅のご無事をお祈りして居りますぞ、クラレット様)
―――
「本当に! 申し訳ありませんでしたわ!!」
あの時の老兵と同じ様に深々と頭を下げるリミーナもとい、クラレット。
流石にコレをリミーナが悪いとは言えないし、かと言ってあの老兵、ローレンが悪いとも言い切れない、難しいが不慮の事故として流さざるを得ないだろうが、リミーナがこの件で尾を引きそうだとナナセが感じ取る。
「ま…まぁ、そういう事だって理由も分かったし、オレももう気にして無いから、リミーナも気にするな!」
そう言い聞かせる様に頭を撫でるナナセ。
「あっ……」
「んじゃこの件は解決として、ガルバドールに来たんだし、直ぐに鍛冶屋さんとこに行く?」
「いんや、その前に酒場だな」
「酒場? でもこの中で飲めるって言ったらリミーナさんくらいじゃ……」
「ランゼンさんに言われてた物ですね?」
「ランゼンさんって、カズシが色々と作って貰ってた鍛冶師さんだっけ?」
「そうそうその人が、会いに行くなら強い酒を何本か見繕ってくれって言われてね、お金を払うと言っても、手ぶらで頼むのもちょっと気が引けるからさ。それに手土産が有った方が気持ち良く仕事してくれそうだろ?」
「まー確かに? 無いよりは有った方が気合の入り具合も変わるだろうし、そんならこのまま酒場に直行って感じ?」
「そうね。そこでお酒を幾つか買って行きましょう」
こうして国境で騒動があったものの無事にガルバドールに到着し、手土産と言う名の酒を求めて酒場へと向かう。
出来れば美味くて強い酒があればいいが、リミーナ以外は酒の味が分からないので、またどうなる事だろうか。
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