第97話 騒動終着

 冒険者ギルドと【討ち滅ぼす者アナイアレイター】の話し合いから翌日、宣言通りにナナセ達は昼にギルドを訪ねていた。

 あの時に中で聞いていた冒険者から噂が広がったのか、ナナセ達を見るなり様々な視線が向けられるのと同時に、小声で何かを話しているが、全てティナに聞こえていた。


(あいつ等が例のか……)

(えぇ、あんな成りでもBランクパーティーって話よ)

(男に至ってはAAランクって話だぜ? 正直信じられっかよオイ)

(どっかのギルドが、自分の所で若くしてAAが出たって、売名行為に使われただけじゃねーのか?)

(弱い奴等に舐められたくないが、情報が錯綜しまくりだな。審議が分からん状態で挑発するのは揉め事の種だ。お前等もハッキリするまで手は出すよ)


(【討ち滅ぼす者アナイアレイター】……お前達聞いた事あるか?)

(俺はねッス、その辺の事情はからきしッスから)

(私も無いよ。一応コイツと違って、逐一情報は更新してるけど、初耳さ)

(なら新人ルーキーってこと!? それも情報が無い程の直近でなんて……あり得るの?)

(あり得たから高ランクに名を連ねてるんだろう、何があったかは想像もつかんがな)


(あの野郎がイチャモン付けたせいで俺達の癒しがッ!)

(頭にくるぜ! 多少腕が立つからって何しても良い訳じゃねぇってのによ!)

(大体流れの分際で、ギルドカードを掲示しねーのが悪いだろう!)

(全くだ、冒険者ギルドは何を見てやがるんだって話しだよな!)

(((そうだ!そうだ!)))


(やっぱりランクが分かっても信じない人や、特定の人は叩いて来るか……)


「どうかしたのか?」


「大丈夫、なんでもないから」


「そうか? なら良いんだけど」


「ナナセさん!」


 突如名前を呼ばれた方を向くと、そこには【鉄の衛兵アイアンガード】のギアード達が、心配そうにナナセ達を見ていた。

 どうやら向こうも一部状況を知ってるらしく、それゆえに声を掛けてきた様子。


「ギルド…ってよりは、受付嬢とひと騒動あったと噂で聞きましたけど、何があったんですか?」


 んー、どこまで話したものかな。

 全部詳細に話すのは方々に迷惑が掛かるし、かと言ってこっちが悪い話でも無いし、何て説明すべきか。


「受付嬢の方に達成の報告をしようとしたら、勝手な決め付けで、「出来もしないのに受けるな」と、半ば強制的に依頼を取り消されそうになったんです」


「何だそりゃ!?」

「事情を知らないにしても酷い…」

「もしかして、態度の悪い受付嬢の4人だったりするさね?」


 どうやら【鉄の衛兵アイアンガード】にも心当たりがある様子。

 オレ達以外にも被害者は居るか、いや、当然と言えば当然か、常にあんな態度なら寧ろ居ない方がおかしい。


「いやいやナナセさん、あれが可愛いんッスよ!」

「そうですよ! ここは広い心で」


 2人がそこまで言った瞬間。


「馬鹿野郎! 何が広い心で、だ! 他のパーティーの方針に余所から口出しするな!!」


「で…てもリーダー」


「そもそもの話、どんな理由があろうと失礼な態度を取るのが悪いだろうが!」


「本当さね。冒険者とギルド、どっちが上って事は無いけど、あの4人は酷過ぎさね」


「女性冒険者には徹底して悪かったですからね」


「うっ…」

「それは…」


 何も返せずに押し黙る2人と、その2人を叱るギアード達と、そしてそれを見聞きする冒険者達、しかも女性冒険者の多くは頷いてすらいる。


 あの受付嬢達、女性職員や、女性冒険者に相当敵を作ってたんだな、じゃないとこんな状況にならないぞ。


「とりあえず今からギルトマスターとの話し合いに行ってきます」


「そうでしたか、急ぎの所すみませんでした」


 無理矢理切り上げた感があるけど仕方ない。

 何せ呼びに来たであろう職員が、目の端にちょこちょこと映っている、話し込めばそれだけ彼女に迷惑にもなるし、オレ達が話せばそれだけで吹聴になる。

 それにオレ達はギルドの評価を落としたい訳でもないからな。


「あ…あのぉ……」


「すみません。案内をお願いします」


「は、はい!」


 ナナセの言葉に緊張した面持ちで奥へと案内をする職員、ギルド内でのやり取りだけを知っている者からすれば、正直恐怖でしかないだろう。


 さて、昨日の回答からどう変わったか。


「ギルドマスター、【討ち滅ぼす者アナイアレイター】の皆様をお連れしました」


「ご苦労、入って貰ってくれ」


「皆様、どうぞ」


「失礼します」


 案内をしてくれた職員が扉を開き、オレ達は中へと入る、そこに居たのはギルドマスターのバグマイヤーを筆頭に、シャルロットと件の4人。

 特に4人の顔色は今にも倒れるんじゃないかと思う程に青い。


「まずは再度昨日の謝罪から、あんな時間に訪れたにもかかわらず、納得される決定を伝えられず、申し訳ない」


「本当に申し訳ありませんでした」


「了解しました、昨日宿に訪れた事の謝罪は受け取ります。ですが言った通り、2人とギルドに悪い印象は持ってないですから」


「ありがとうございます。どうぞ、お掛けになって下さい」


 バグマイヤーに促されソファーに掛ける。


「それでギルドマスター。昨日用意されてた仮の決定案から、どう変わったのか教えて頂けますか?」


 間髪入れずにアヤカが詰める、その声と同時に4人がビクついた事をナナセ達は見逃さなかった。

 恐らく想定以上の何かを、既に言い渡されたのだろう。


「私も気になりますね。1と2の案は無いとしても、3の案からどう変わったのか」


「かしこまりました、それでは私からご回答させて頂きます。まずこの4人は受付業務から外す事を決定致しました」


 ここまでは一緒だな、昨日はこの後に裏方に回すって話だったが。


「そして4人を完全に私直属の部下として扱い、徹底して接客態度や事務を叩き込みます。ただし直属と言っても職員としての扱いは新人よりも下、ギルド内で最も下の立場として周知させ、やり直しをさせます」


 新人よりも下の立場として扱うとは、また随分と思い切った方針を取ったな。

 それに徹底の度合いにもよるが、シャルロットさんが付きっ切りと仮定すると、相当負担が掛かるんじゃないのか?


「でもそれってシャルロットさん超大変じゃないの? 4人に指導しながら自分の仕事や周りの指示出しもって、下手すると倒れるんじゃ」


 本当にそれな、控えめに言ってもオーバーワークだ。


「そうかもしれませんね。ですがこれは、自分の間違った行いに対する罰として、私がギルドマスターに申し出た事です」


「俺も責任を取る為、彼女の持つ仕事を幾つか受け持ち、尚且つ、職員達が言い辛い意見を伝える為の意見箱を設置するつもりです。これには名前を伏せて投稿が可能で、後日役員会議で取り上げる形となります」


 昨日までと違い、その目からは強い意志が感じられる、恐らくその身に降りかかる全ての事情を理解した上で、2人なりの意志表明なのだろう。

 その証拠に、昨日までの怯えた態度は無く、とても堂々としている。


「お二方の決意は分かりましたが、問題は彼女達がそれを受け入れるのかどうかですわ。その点に関してはどうなのですか?」


「それに関しては事前に話してあります。これは強制ではなく、続けるか辞めるかを自分達で選べと、但し、辞めたとして次の働き口がこの街にはほぼ無いと言う事も」


 幾らギルドマスターと言っても、それはやり過ぎじゃないか?

 そこまで言ってしまえばただの脅しに。


「勿論これは昨日から今日の昼前まで、各店舗に調査をして、確認を取った上での発言になります。結果、全ての店舗に確認を取れた訳ではありませんが、7割以上の店舗から、雇いたくないと回答を頂いております」


 サラッとシャルロットが凄い事を言う。


 脅しじゃなくガチで調査してからの言葉だったか、てか、もしかしたら2人共昨日から寝てないんじゃないのか?

 というか2人だけじゃ回りきれないだろう、多分朝にギルド職員が来てから、大急ぎで使いを出したりしてそうだな。


「成程、だから最初入った時、彼女達の表情が青ざめてた訳ですか」


「はい。どの店舗からも雇われないという事であれば、ここを辞めれば実質街を出ざるを得ませんから」


 まぁ確かに、問題事を持ち込むような人を雇いたいって店主は、早々居ないだろう、どんなトラブルを招くかも分からないからな。


「それと、お前達! 何か言うべき事は無いのか?」


 バグマイヤーの声に肩を震わせておずおずと話し出す4人、その言葉は。


〔《『「本当に申し訳ありませんでした」』》〕


 ふむ、謝罪仕方がなってないな、言葉言われた所で意味が無い、一体どこまで自分達の行いを理解して、その上で何が間違ってたか試してやるか。


「何が?」


「えっ?」


「その「本当に申し訳ありませんでした」って言うのは、何に対しての言葉なのか分からないんだが、単に謝罪の言葉だけを言われても前後関係が不明瞭過ぎる」


(その通りですね。私もギルドマスターも敢えて伝えませんでしたが、これは彼女達が反省しているのであれば、自分で分かって当然の事。自分達の言葉でナナセ様達に謝罪してみなさい)


「あの……昨日の事を……です」


「昨日の事? 確かに色々あったが、その内の何?」


『だから…馬鹿にして』


「つまり馬鹿にした事に対してだけの謝罪という事でいいんだな?」


《ちがっ、そうじゃなく……勝手に取り消ししようとして》


「まぁ、当然だな。それで?」


「え?」

(ほ……他に何があるの!? それ全部ひっくるめて謝ってるんだけど……)


〔他の冒険者に同調して煽ったり〕


「それらを全部纏めて、分かりやすく話して貰えるか? 現状君等の謝罪は謝罪になってない」


「昨日、無礼な態度を取ってしまい大変申し訳ありませんでした」

『失礼な対応をしてしまい、本当にすみませんでした』

《勝手な判断から数々の非礼、大変申し訳ありませんでした》

〔受付嬢にあるまじき行為の数々、本当に申し訳ありませんでした〕


 60点かな、やった事を理解はした見たいだけど、まだ彼女達からどう改善していくのか聞けてない。

 さっき聞いたのはギルドマスターと、シャルロットさん視点での改善策であって、彼女達のではない、そこを間違えてるな。


「それで、君等はこれからどうするんだ? 誰か代表して答えてくれ」


 まさかそこまで詰められると思って無かったのか、途端に4人で慌てだす。

 しかしその様子を見ても、バグマイヤーとシャルロットは一切助けを出さなかった、ナナセが何を聞こうとしているかを理解出来たから。


「こ……今後は、あの様な対応をする事なく、……シャルロット主任の指示の下で、考えを…改めるよう努力してまいります……」


 ………80点、かな。

 シャルロットさんだけじゃなく、周りの職員からも、その仕事ぶりやマナーを学んで欲しかったんだが………及第点として今後の意識改革に期待するか。


「その言葉に嘘偽りは無いな?」


〔《『「は、はい!」』》〕


「……了解した。今述べた言葉を持って謝罪を受け取ろう」


〔《『「ありがとうございます!!」』》〕


 やっと表情が明るくなる4人だったが、また直ぐに緊張が走る。


「オレ達に謝罪して終わりだと思うな! あんな馬鹿な真似をしたお前達を、決して見捨てなかったギルドマスターと、シャルロットさんに感謝しろ! 特にお前達の被害を受けた職員達には、しっかりと謝罪の言葉を述べろ! わかったな!!」


 そう指摘され、ようやく2人に謝罪を始める4人、この後も当分は謝罪行脚がされるのだろう。

 こうして4人の受付嬢が引き起こした騒動は終わった。


 そして4人が部屋を出ていった後。


「こちらは、昨日お預かりした違約金となります」


「……まだ、フリージングウルフをここに卸すと決めた訳ではありませんが?」


「分かっております、それを含めて私達の罰です。違約金を負うべきは、至らなかった私達2人だけです」


「ギルドマスターや主任でも、金貨10枚となれば相当な額ですよ?」


「問題ありません」


 アヤカとティナの返答にも躊躇なく…か、もう大丈夫だな。


「本当に昨日の今日で変わられましたね」


「それもこれもナナセ殿達の指摘のおかげ、感謝しかありません」


「そうですか。ではフリージングウルフはここに卸して行きます」


「「!?」」


 まさか本当に卸してもらえるとは思っていなかったのだろう、今度は2人が大きく驚く。

 特にシャルロットに至っては、薄っすらと涙が見える程だ。


「ほ…本当に、本当によろしいのですか?」


「元々昨日の内から話し合ってましたから、金額も依頼書通りで構いません」


「ナナセ殿………本当に感謝します!!」


「気にしないで下さい。それと自分達の旅用に使いたいので、良い毛皮を上から5枚持ち帰りますから、お願いします」


「はい……はい! かしこまりました!」


 これで依頼の件も含めて、グランシールの冒険者ギルド騒動は完全に幕を閉じた。

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