第93話 広場での騒動
シャルロットが役職者を集めて会議を開いている一方で、広場へ到着したナナセ達は、宿に持ち帰って食べる為、各々好みの物を選んでいる真っ最中であった。
「皆メシは買い終わった?」
「あっ、カズシさん。後はユウカだけなんですが………」
ですが? アヤカにしては随分と歯切れが悪いな。
「アレですわ…」
「え?」
リミーナが指差す方向を見るとそこに居たのは、色々な屋台で買い込んだのだろう大量の包みを抱えながら、更に別の屋台で注文をしているユウカの姿だった。
「あっはは……ユウカってば、凄い量だね……」
「………なぁアヤカ」
「はい」
「ユウカって、キレると食べる派?」
「手当たり次第には」
そうかぁ……食べる派かぁ、せめてもの救いはこっちの世界には体重計が無いって事くらいかな、両手一杯に抱える量なんて確実に増えるだろうに、……何がとは言わんけど。
というか、言ったらユウカに殴られるだけじゃ済まなそうだ。
直感でナナセは悟り、これ以上考えない為に別の方に視線を向ける、すると広場の奥の方で徐々に人が集まってきているのを見つける。
そしてその人だかりが出来ようとしている所には覚えがあった、僅かな胸騒ぎを感じたナナセは直ぐに向かって行く。
「人が集まってる見たいですけど、何かあったんですか?」
「ん? あぁ、どうやら靴磨きの子が靴に傷を付けたらしくて、客が怒ってるんだが、子供は付けてないって言い張っててね、それでこんな騒ぎになってるのさ」
靴磨きの子って事は、やっぱりあの子か!
いや、でもあの子の持ってる道具じゃ傷なんて付けられないだろ、ブラシだって柔らかそうな毛だったし、何よりそんな事するような子には見えなかった。
とは言ってもこれはオレの意見だ、その傷付けられた靴を見れば話しは別だろうけど、この人だかりは…………。
時間は少し戻り―――
「この糞ガキ、どう落とし前つけんだゴラァ!!」
冒険者風の男が道具の入れられた箱を踏み壊しながら怒声を放つ、その後ろでは、仲間と思われる3人の男女がクスクスといやらしい笑いを浮かべている。
「で…でも、そのキズは……ぼくのどうぐじゃ……」
「まさか俺が言い掛かり付けてるとでも言いてぇのか? オイ!!」
(誰か止めてやれよ、このままじゃあの子に何するか分からんぞ)
(冒険者相手に無理よ、可哀想だけど…)
(こっちだって生活があるんだ、怪我なんてさせられたらたまらよ)
周りにいる大人達も、自分に危害を加えられる事を恐れて見ているだけ、少年は誰からも助けて貰えない恐怖と疎外感に身を震わせる。
「ねぇリーダー」
「どーしたよ?」
「靴を傷付けた事と、ウチらの貴重な時間を奪った迷惑料は貰うとしてさ、この子の今後の為に痛い思いさせてやれば、色々と勉強になるんじゃない?」
「おぉ確かにな! 流石はウチの
「ダッハハ! このガキんちょも災難だな!」
「仕方ないって、アタシらに迷惑かけたんだから、その責任は取らないと」
この言葉を聞き少年は金の入った袋を抱えて蹲る。
正直に言えば逃げ出したかったのが本音だろうが、既に周りには人だかりが出来、とても逃げられる様な状態ではなかったのだ。
「ッチ、今隠した物を出しやが…れっ!」
男の蹴りが少年の横腹部に突き刺さる。
「うぐっ!」
「オラオラオラッ!!」
(うぅ……これは…これがあれば、おかーさんを…すこしでもらくにさせられる………だからこれだけは)
「いい加減にしろやゴルァ!!」
「ぎゃうっ!」
まるでボールでも蹴るかの如くの大振りの蹴りは、まだ幼い少年を吹き飛ばすには十分な威力だった。
その際に抱えていた袋を手放してしまい、中身の硬貨が数枚飛び散ってしまう、そして散った中にはナナセが渡した金貨も含まれおり、男もそれに気付いてしまった。
「ひゅ~、金貨じゃねぇか!」
「えっ?! 本当リーダー!」
「朝まで飲み明かせしてもお釣りが出るじゃん!」
「こりゃ、たまには良い事もするもんだな!」
「か…かえ…して………おねが…い……」
「うるっせぇんだよ!」
「お前がなッ!!」
少年と男、そして男の仲間以外の声がしたと同時に、ダダン!と着地する音を響かせナナセが割って入る、が、地面に倒れている少年を見た瞬間怒りが爆発する。
「ユウカァァァァァ!!! 直ぐに来てくれ!!」
凄まじい大声が広場に響く。
「お…にー……ちゃん」
「喋らなくていい! 今オレの仲間が来るから、動かずに待ってるんだ!」
こいつ等、こんな幼い子供になんて事しがやる!! 小刻みに呼吸してる所を見ると、肋骨が折れて満足に呼吸出来ないのかもしれない………このクソ野郎共がぁぁ。
「あ? んだテメェは、誰を睨んでるのか分かってんのか?」
「知らねぇよ、お前の事なんて。それよりもだ、この子はこんなにされる程の事をお前にしたのか?」
「いや、何も? ただ靴を傷付けたってでっち上げて、小遣い稼ぎしてただけさ」
「リーダー!?」
「何言ってんの!?」
「いきなりどうした!」
「なっ!? いや、勝手に!! テメェの仕業か!」
「一々喚くな、オレのスキルで証言取っただけだ。つまりこの子は、お前に迷惑を掛けてないのに、殴る蹴るの暴行をされた訳だ………どう責任取るんだオイ」
(何だよこいつ、得体の知れないスキルなんて使いやがって!)
(どうすんのリーダー! 街の守備隊にバレたら、罰金刑は間違いないって!)
(罰金なんてウチ払えないよ!)
(どうもこうもねぇよ、捕まる前に逃げるしかねぇだろ!)
その時、人だかりの一部が騒がしくなり、徐々に人が避けて行き現れたのは。
「お兄ってば、あんな大声出してどうしたの!?」
先程呼んでおいたユウカだった。
呼び出された本人は、訳も分からず人だかりの中に呼び出されて、やや疲れ気味の様子だ。
「この子を治療を頼む」
「何があったのこれ!? 酷い怪我じゃん!!」
「あぁ、それは「走れ!!」
ナナセが話している内に、大急ぎでユウカが作った道に向かって走る4人。
それこそ、守備隊に捕まればただでは済まないと言う事に必死になる余り、住民に剣まで向ける始末。
「怪我したくねぇならさっさとどけ!」
男は完全に慌てた状態で剣を振ったせいで、住民を斬り付けて怪我人を出す騒ぎにまで発展していた、当然、住民もパニックになり足がもつれて倒れる人、逃げようとしてぶつかり合い倒れる人等、状況は
「どこまでも迷惑を、ユウカその子は頼んだぞ!」
「え? あっ、お兄!」
「くっそ! あの野郎さえ来なければ上手くいってたのに!」
「どうすんのよ! このままだと遅かれ早かれ捕まるわよ!!」
「ウチはもう街を出るしかないと思う!」
「それじゃ何も変わんねぇ! エルハルトまで逃げるんだよ!」
「んなこた言われなくてもわーってんだヨ゙ッ!」
突如先頭を走るリーダーの体が横に回転して地面にぶつかる、そしていつの間にかその隣で、握り拳を構えながら立つナナセを見て、3人は何が起こったのかも理解出来ずに腰を抜かす。
「な…なんでアンタがここに! だってさっきまで後ろに!」
「オレとお前等とじゃ、ステータスに差があり過ぎんだよ、だからいきなり現れた様に見えるだけだ、AAランクの冒険者を舐めんな。あと、子供に大怪我させたお前等を逃がす訳ないだろうが」
「AA……そんなの無理じゃん……」
「そ……そんな高ランク冒険者が、どうしてこんなトコに居んだよ……」
「答える義務は無い、あとまだ逃げる気なら足を砕く、分かったら全員財布を出せ」
「なっ! なんで財布を出さないといけないのよ!!」
「お前達はあの子に偽って迷惑料を求めた上、暴行まで加えて怪我させたんだろうが。それの迷惑料に決まってんだろ!」
「……クソがっ!」
3人共自分の財布を投げて寄越し、リーダーの腰に下げてる財布を取り上げた頃に、アヤカ達が守備隊を3人連れて来てくれたので、そのまま引き渡す事に。
その際に如何にこの4人が子供に対して酷い事をしていたか、そして逃げる際に剣を抜き、住民に怪我をさせた事も知る限り全て伝える。
「ちなみにこいつ等のやった事は、どれくらいの罪になりそうです?」
「自分が決められる立場では無いので正確な事は言えないが、被害状況を聞く限り、大分重い罰金刑は免れないだろう」
「離してよ!! ちょっと坊や、謝ってあげるからこいつ等に離す様に言って!!」
「やだやだやだ!! 奴隷落ちなんてやだぁぁぁぁ!」
「俺達は何もしてねぇよ! やったのはあいつだけだ!!」
一体お前等は何様だよ、守備隊もそんな言葉には耳を傾けず淡々と、それいでいて手際よく捕縛していくの見る限り、ここじゃ血の気の多い連中が頻繁に問題を起こすんだろうな。
「お疲れユウカ、怪我人全員治療してくれてたんだな、助かるよ」
「それはいいんだけど、あいつ等どうなるの?」
「重い罰金刑だけど支払い能力が無いから、多分犯罪奴隷行き。まぁ財布をオレが取り上げたのもあるかもしれんけど」
「ざまぁみろ!」
「あの! おにーちゃん、おねーちゃん、ありがとうございます!」
「どういたしまして。ところで、坊やはこれからどうするんだ?」
「どーぐもわこされちゃったから、いえにかえってなおさないと」
その時少年のお腹がぐ~っと鳴る、どうやらまだメシを食べていない様子に、ナナセはひとつ提案する。
「大分お腹減ってるみたいだな。よし、オレがお腹いっぱいご馳走してやる」
「ほんとう!!」
「ああ、ちょっと待ってろよ」
こうしてナナセは、屋台で色々と買い込んでから少年の家へと向かう事に、それは被害の説明とご馳走する為もあるが、半分は少年の衣類に付いている見慣れたロゴマークの確認を取る為でもあった。
メシ代(屋台1品 約大銅貨3~5枚)
ナナセ 銀貨3枚
アヤカ 大銅貨5枚
ユウカ 銀貨5枚
ティナ 大銅貨6枚
リミーナ 大銅貨4枚
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