第92話 緊急会議
「お前達は何をしてるんだ!!!」
騒動の関係者全員がギルドの一室に通されるや否や、問題の職員達には少し前にも聞き覚えのある怒号が飛ぶ、その余りの声量に、ギルドの外にまで聞こえているのではないかと思う程だ。
そしてこの声の持ち主はパトリック・バグマイヤー、グランシールの冒険者ギルドマスターに、40代という若さで成ったトゥキンヘッドの男だ。
若いだけあって、見た目はまだまだ現役に引けを取らない程にがっしりとした良い肉体なのだが、ある時ダンジョンのガストラップで左目が潰れ、右目の方も普通に生活する分には問題がないが、冒険者を続ける事が出来ない程に弱視となった元Aランク冒険者である。
「「「「申し訳ありませんでしたぁぁ!」」」」
「今度という今度は申し訳ありませんでは済みませんよ! 依頼を受けて頂いた冒険者の方々にあのような態度、元々目に余る行動が多かったですが、今回ばかりは厳重注意や減給では許されませんからね!」
話を聞く限り、どうやらこの4人は元々素行が悪かったらしい、しかしそれとは裏腹に、冒険者からはその容姿がカワイイ・綺麗と評判になり、本来であればクレームの対象である悪態が、彼女達の魅力として冒険者に受け入れられていたようだ。
結果、冒険者達に煽てられ、彼女達も自らを省みる事なく、自分達は特別なのだと歩み続けた姿が今である。
(謝るのはいいんだけどさ、結局この職員が謝ってるのは、自分達よりも目上の人間だけであって、オレ達には未だに謝罪が無いんだよな……どう思う?)
(こいつ等が居るんだったらアレを卸したくない、絶対に)
(そうね、流石にあそこまで馬鹿にされたら私も無理だわ。少なくとも、私達が納得するだけの処罰が下らない限りはね)
(正直、あんなのを今までギルドの顔としてたココにも信用が置けない)
(私の身分を教えたら不敬罪案件ですわね)
(全員似たように思ってるって事だな)
「で…でもですね! そんなトップレベルの冒険者なら、最初に言ってくれればあんな対応はしませんでしたよ!」
「は? つまりオレが悪いって言いたいのか? というか、相手のランクで対応を変えるな、応対する者として最低だぞ」
「だ…だから、悪い悪くないってより……最初に」
「最低って、そこまで言わなくても……言わない方が」
「人の話も碌に聞かず、勝手な思い込みで話を進めた上、悪態付いて来たお前達より、依頼の完了報告に来たオレ達に非があるってことだな? そうか、了解だ」
そう言うとナナセは立ち上がる。
同様にそれを見たアヤカ達も立ち上がり、全員が部屋を出ようと瞬間、慌てた様子でシャルロットが止めに入る。
「皆様!? ご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません! ですが、もう少々だけお時間を頂けませんか! 何卒!」
「そうは言いますがシャルロットさん、私達はそれなりの時間を待ちました。でも彼女達は謝罪をする所か、私達に非がある様な言い方をされては、此方ももうお話しする事はありません」
「なっ!? お前達はまだ謝罪していなかったのか!!」
まさか謝罪すらしていないとは思っておらず、パトリックは声を上げて彼女達の方を向くと、怯えた表情で小さい悲鳴が聞こえてくる。
「それと、これは依頼の破棄による違約金です」
テーブルの上に無造作に置かれる10枚の金貨、本気で破棄する気なのだと、今度はパトリックとシャルロットが顔を青くする。
「それでは失礼します」
こうしてナナセ達は受付嬢の独断とは言え、職員の横暴を止めさせる事が出来なかった冒険者ギルドを信用出来ず、既に依頼を達成していたもののその場で破棄し、ギルドを後にする。
建物を出る際には、先程まで野次を飛ばしていた者達含め、騒がしいギルド内には職員以外は誰も居なかった。
「ぐあぁぁぁぁあぁぁぁ!! あの受付嬢達! ムッッッカつくぅぅぅぅぅ!! 結局謝って来ないしさぁ!!!」
移動しながらユウカが地団駄を踏み叫ぶ。
「だからって大声出さないの」
「でも、気持ちは凄いわかるよ。あんなあからさまに態度に出されたら、怒るなって言う方が無理だもん」
「珍しく牙を剥き出しで睨んでイタッ!?」
「余計な事いうと殴りますよ」
「はい……(もう肘が入ってます)」
「それよりも、折角狩ったアレはどうしますの?」
「私が保管してますから傷む心配はありませんし、どこか別の街で卸すのがいいかもしれませんね」
「多少買取額が下がるけど仕方ないよね、あんな人の話を聞かず、一方的な受付嬢が居る所には卸したくないし」
「まぁその辺は、メシでも食いながら考えればいいさ」
そうして来た道を戻り、屋台が多く出ている広場へと向かうナナセ達、そしてこの件が切っ掛けとなり、冒険者ギルドの問題児でもあった4人は、内部から一斉に集中砲火を浴びる事となる。
「はぁぁぁ、なんてことだ……やっとあの依頼を受ける冒険者が出たというのに……再三にわたりあの態度は止めろと言ってただろ!! 何故止めなかった!」
机を強く叩き件の4人を問いただすパトリック、その顔は完全に怒りに染まっている。
当然それだけではなく、この場にはもう一人怒りを露わにしている者が居る、シャルロットだ。
「そ…その……他の冒険者からの受けがいいので……」
「喜んでくれる人が多く………」
理由を聞いた2人は、余りの子供じみた下らなさに怒りを通り越して呆れ果てる、当然だ、何せ自分達が持て囃されたいが為に行動した結果、達成されていた依頼を破棄されるという、前代未聞の事態に陥らせたのだから。
「ふざけないで下さい!! ここは仕事をする場所であって、あなた達の遊び場ではないんですよ!!」
「「「「ひっ!」」」」
「ギルドマスター、ひとまず今は、ナナセ様達も感情が高ぶっているかと思いますから、後程、私が泊まっている宿に説明に行こうと思います」
「そうだな、その際は俺も行こう。こんな酷い不始末を起こしておいて、責任者がその場に居ないのは彼等に失礼過ぎるからな」
「あ…あの~」
「私達は」
「そろそろ仕事に」
「戻りますので~」
どさくさに紛れてこっそり部屋を出ようとする4人、その反省の無い態度に対してパトリックは再度声を荒げる。
「戻す訳ないだろうがっ!! お前達の処分は話し合って決める! それまで自宅で待機していろ!! 絶対にナナセ殿に接触するな!!」
「「「「はいぃぃぃ!」」」」
相当な気迫だったのか大慌てで出て行く4人、それを尻目にパトリックは椅子の背に大きくもたれ掛かりながら溜息を吐き、そしてシャルロットは落とし所として、ギルドとナナセ達の双方が納得するだけの処罰を考える。
「……これ以上の失敗は許されませんね。どうにかして彼等の許しを得られない事には、ギルドマスターを含めての総入れ替えが必要になります。………本当に頭が痛い事です」
この世界の知識が乏しいナナセ達は、あの4人のみを許せないと思っているだけだが、冒険者、及び、他の冒険者ギルドからはそうは見られない。
そんな職員を野放しにしていた運営陣にも問題があると取られ、冒険者には避けられ、他のギルドからは統括に実態調査の嘆願書が出されてもおかしくない状況なのだ。
ましてや怒らせたのは個人ランクとは言え、AAランクの冒険者が所属するパーティー、否が応でも注目される。
そんな事態に対してシャルロットは、胃痛を我慢しながら役職者全てを集めた緊急の会議を開くのであった。
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