第91話 失敗

「・・・・・・(じ~っ)」

「・・・・・・(じーっ)」


 やっばいな……忘れてたとはいえ、独り言で日本やら地球やらの単語が出たのはやばい、見ず知らずの人間なら「なんだそれ?」で済む話だけど、仲間の反応としては、「それって何の事ですか?」って話になってもおかしくない。

 そして現に2名、ティナとリミーナがそれについて聞きたそうな雰囲気が出てる、下手に別の国なんて話したら田舎出身って話自体が怪しくなる………よく考えろよ。


(お兄って時々ポンコツになるよね)

(ミスしない完璧な人間なんて居ないもの。この前みたいに戦闘にかかわる事じゃないからいいんだけど、どうするのかしら)


「ねぇカズシ、さっき言ってたニホンジンとかチキュウって何?」


「前者はジンと付いてるので種族名に近い感じですわね、ただチキュウというのは私も聞いた事がありませんわ」


 泣きたいほどに鋭い、それにリミーナに関しては王女として各国の知識も幾らかあると考えれば、地球は別の国にある村と言っても即バレするな……なら。


「ニホンジンってのは、昔親父の話で聞いた特殊な能力を持つ人の総称さ」


「特殊な能力って?」


「実際見た訳じゃないからそれが何なのかはオレにも分からない、そしてその種族の住んでいる地名がチキュウって言うらしい。2人はこの地名に聞き覚えとかはある?」


 絶対に知らないと分かっていてナナセは問いかける。


「私は初めて聞くかな、リミーナは?」


「私も同じですわ、他国全ての地名を知ってる訳ではありませんが、聞いた事が無いということしか。多分ですけど、今の地名は変わってしまってるか、もしくは、既に無くなってしまったのではないかと」


「成程、何か情報を知ってるかもと思ったんだけど、やっぱもう無くなってると見た方がいいか」


(嘘つけぇぇぇ! 日本人って私達の事だろー!)

(ほぼ事実だけで切り抜けたわね、それに答えを知りながら敢えて問いかける事で、話を終わらせる方向に舵を取れるようにした。本当にこういう事は上手いんだから)


「でも、どうしてカズシ様のお父様はその種族を探してたのかしら」


「そうだな……単純に好奇心とかじゃないかな。ウチの親父って、昔は気になった事に関しては納得するまで調べるって聞いたし」


「それはそれでパーティーメンバーが大変そうだね……」


「だな、自分の親ながらそう思う。それよりオレのせいで少し遅くなったし、冒険者ギルドに急ぐとしよう」


 何とかその場を乗り切ったナナセは、やや急ぎ足気味で冒険者ギルドへと向かう事に、その後ろではティナとリミーナが特殊な能力についてお互いに考察を、アヤカとユウカが少々呆れ顔で付いて行く。


 ―――


 その頃グランシールの冒険者ギルドでは、特殊依頼の受注とその冒険者パーティーについて、職員の間で話題となっていた。


特殊あの依頼やっと受け手が現れたっぽいね」


「そうそう、何でもここでは見ない顔だから、別の街からの流れみたいよ」

 ※街を追い出された冒険者の蔑称


「えー!? 流れって、実力とか大丈夫なの? 受けたけど失敗しましたとかなったら、ウチらが依頼主からグチグチ言われるんだけど」


「聞いた話じゃ、受けたのはBランクパーティーっぽい」


「それって、ちょっと無理してでもギルドに恩を売りたいって事じゃない? 正直言って有難迷惑だよねー」


 辛辣と表現するには無理がある程に、その口々から出る言葉はナナセ達【討ち滅ぼす者アナイアレイター】への誹謗中傷だった。

 そして同時にギルドの扉が開き、一組の冒険者パーティが受付へと進んで来る。


「いらっしゃいませ! 本日はどの様な御用件でしょうか」


「先日受けた特殊依頼の事で来たんですが―――」


(あぁこいつ等があれを受けた冒険者パーティーねー、見た所どこにでもいる様な感じの連中ね。大方思ってた以上に難しくて断念ってところかしら。にしてもこの男、鎧を買う余裕すらないのかしら、防具を一切身に着けない程余裕無いとか笑えるんだけど)


「…………あの、聞いてますか?」


(貧乏冒険者がうっせーんだっつの)

「ええ、聞いております。それで依頼の取り消しをしに来られたのですね? 違約金が発生しますので、そのお支払額が」


「ちょっと待ってくれ、取り消しって何のことだ?」


「依頼の達成が困難という報告ですよね? 正直困るんですよ、自分の実力も分かってない方が受けると、こういう事になるのでぇ」


「そうじゃなくオレ達は」


「あーはいはい言い訳はいいんでぇ、取り敢えずさっさと違約金出して貰えますぅ? それが終わったら回れ右してとっとと出てって下さい、仕事の邪魔なので」


 なんだこいつ………人の話は聞かないわ、勝手に決め付けるわで、今までのギルドの中でもトップクラスに態度が悪過ぎる。


「どうしたの? 揉め事?」


「大丈夫大丈夫、身の丈に合わない依頼を受けた流れが取り消しに来ただけ」


 そう言うとさっきまで話していたギルド職員が集まり、ナナセ達を見てクスクスと嘲笑している。


「おいガキ共! 忙しい受付嬢に迷惑掛けんなよ、払うもん払って失せな!」


「そうだそうだ!」


 ここぞとばかりに、受付嬢への点数稼ぎをする冒険者まで出る始末、ナナセに限らずメンバー全員が怒るのも時間の問題である。


「や~ん! 皆さんもあんまり流れさんをイジメないで上げて~」


「……呼べ」


「は?」


「シャルロットさんを今すぐ呼べ!」


 ナナセが一際強く声を発する。


「っぷ! アンタなんかが主任を呼ぶとか何様だっての!」


「その通りだな!」

「「「「アハハハハ!」」」」


「あなた達! 何をしているのですか!!」


 嘲笑でギルド内が包まれる中、通る声で複数を叱責する者が1人。

 この声には誰もが聞き覚えがあった。


「シャ……シャルロット主任!?」

(やばっ! ちょっと騒ぎ過ぎた!)


「別の職員から、あなた達が失礼な振る舞いをしていると報告があったので、急いで来て見れば……」


「シャルロットさん、これがこのギルドの冒険者に対する対応と受け取らせてもらいます。少なくともオレ達に対しては言い逃れはさせません」


「ちょっとあんた何様のつもり!!」

「街を追い出された流れの癖に生意気よ!」


「あなた達は黙りなさい!!」


 シャルロットの怒声と睨みで、取り巻きを含んだ職員は不貞腐れた様に顔を背ける。


「【討ち滅ぼす者アナイアレイター】の皆様、当職員の失礼な言動と振る舞い、この者達に変わり私が謝罪させて頂きます。大変申し訳ございません。その上で、お手数ですが詳細をお聞かせ願えませんか?」


 ナナセはここに到着し、シャルロットが来るまでに起こった事をありのままに説明した。

 話の途中途中に何度かシャルロットが、原因となった職員と取り巻きを睨み付ける場面が発生し、その度に睨まれた職員達は不機嫌になっていく。


「その様な………重ね重ね本当に申し訳ございません!」


「つーか主任が態々謝ることですか?」


「あなた達は何をっ!」


「そうそう、こいつ等がBランクの癖に、無理してAランク特殊依頼受けるのが悪いんじゃん」


「取り消しするくらいなら最初っから受けんなっつの、くっそ迷惑だわ」


 とうとう面倒になったのかシャルロットさんにも悪態付き始めたなこいつ等、アヤカ達の方は。

(キレそう)

(ふふふ………)

(ウウゥゥゥ!)

(身分を明かしたらとても楽しい事になりそうですわね)


 ………当然そうなるわな。


「ナナセ様、私の方からこの者達に伝えてもよろしいですか?」


「……どうぞ」


「なんですか?」


「……AAランク」


「は?」


「あなた達が言ってるのは、パーティーメンバーの平均がBランクという事です。ナナセ様個人のランクはAAランク、現状冒険者の中でも最強位の1人です」


「「「「………え?」」」」


「………いやいやまさか! だってBランクって事は相当弱い奴と組んでるって事に」


「すみませんねっ! 私がまだCランクなんですよ!!」

「私もBランクですわね」


 まぁ馬鹿にしてた相手がAAランクって言われても、この手の輩は簡単には信じようとはしないだろうな。


 この瞬間ナナセはアヤカの方を見る。

 アヤカもそれに気付いた事を確認して、僅かな動きジェスチャーで指示を出す、すると空中から狩ったフリージングウルフが現れて全員の目を引く。


「これは、フリージングウルフ! 依頼の受注からまだ数日しか経ってないのに、もう狩り終えたのですか!?」

(しかも何もない空中から出て来たと言う事は、メンバーの誰かが収納系のスキル持ち!!)


「そうですね、ですが全て持ち帰ろうかと思います。彼女達の余りにも不誠実な態度に、オレも我慢の限界なので」


 そう言って件のギルド職員を睨み付けると、既に顔を青くして震えている、自分達が一体何をしたのか、今ここでようやく理解したらしい。


「あ………あなた達は何という事をしてくれたのですか!!!」


「「「「す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」


 冒険者に色々される事はあったけど、まさかギルド職員、それもギルドの顔とも言える受付嬢にされるとは思わなかった、まぁ今の様子を見て多少は溜飲が下がったけど、まだまだ許すには遠いな。

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