第86話 各グループの様子

 ナナセが刀身の凍結に悩まされている頃、アヤカも3匹を相手に苦戦を強いられる。

 その理由は自分と相手との反応速度の差、フリージングウルフの速度に対して、アヤカはそれを見てから剣に意識を向けて変化を付ける為、どうしても攻撃がワンテンポ遅れてしまう、加えて。


「グルルゥゥ!」


「背後から魔法! 来ます!」


「このっ!」


 相手が使う魔法の存在。

 大きくその場から飛び退いた事でダメージを受ける事は無かったが、攻撃手段と戦闘人数から受けに回らざるを得ず、状況は不利。

 そしてアヤカが先程まで居た地面には氷の礫が複数発撃ち込まれた跡が、直径数cmの穴が開いた上礫が見えない所を見ると、威力は十分過ぎる程にある事が分かる。

 現状ティナがアヤカの背後を警戒してくれているからこそ膠着状態を維持出来ており、それが何かの拍子に崩れれば状況は一気に変わるだろう。


「多分力と耐久性はオーガが上なんでしょうけど、連携や速度・攻撃手段は圧倒的にこの狼の方が上ね、どうしようかしら……」


「私が囮になって奴等を誘い込むって言うのはどう? アヤカさんなら剣と魔法を駆使すれば、同時に2匹までは倒せるし」


「今の状況で確実に剣が当たる保証は無いし、魔法の一撃で倒せる保証も無いわ。何よりどちらかを仕留め損なうとティナさん自身が危ないからダメよ」

(かと言って守ってるだけじゃ事態は悪化するだけ、相手の攻勢を崩せるような何かがあれば……)


 しかしフリージングウルフはアヤカが何かを思考する事を許さないとばかりに攻め立てる、2匹が爪や牙での近接、1匹が魔法による遠距離。

 攻め手に欠けるアヤカに取って、打開策を考えながらの攻防は非常に戦い辛いものであった。


「グアゥ!」


「しつッこい!!」


 そしてユウカとリミーナの方は。


「―――ッ!」


 落雷の音が凄まじく、打たれた敵の悲鳴を軽々と遮る。

 前衛のリミーナに後衛のユウカ、恐らく分けられた3グループの中で一番安定して倒す事が出来る振り分けだろう。


「一撃でAランクの魔物を倒せるなんて凄い威力ですわね」


「この前王都の魔導士ギルドで魔法書を見て来た上級雷魔法ライトニングブラストって魔法、私が使える中で一番上の魔法だね」


「無詠唱で発動可能ですから、他の方と比べても隙が無いですし、攻撃役としては最高ですわね」


「半面調子に乗って撃ちまくると直ぐに魔法力尽きちゃうけどね、多分今の魔法を20発も使ったら私の魔法力もほぼ使い切っちゃうし」


「……本来であればユウカさんのレベルでは扱えないはずの魔法なんですけどね」


 規格外の能力に苦笑いを浮かべるリミーナ、そんな話をしているにも関わらずフリージングウルフは近寄れず、遠巻きに見ながら2人に対して唸り声を上げるものの、本人達は然程気にした素振りはない。


「とりあえず後4匹、早く片付けてアヤカさんの方に合流しましょう」


「りょーかい」


 2人共視線を自分達を睨んでいる存在に向ける。


「グウゥゥゥ!」

「ガウゥゥ!」


 フリージングウルフは更に姿勢は低く取り強く唸って見せるが、ユウカ達は微塵も引かない、生息域で強者として生きて来たフリージングウルフに取って、自分達に歯向かう存在など居なかった。

 故に自分達が窮地に陥っていると言う事も理解出来ておらず、今も「餌が抵抗をしている」程度の認識である。


「あれ全部私がやっちゃってもいい?」


「ええ、勿論ですわ」


「あんがと!」(上級範囲雷魔法ライトニングボルテックス


 次の瞬間辺りに轟音が鳴り響き、幾つもの稲妻がまるで生き物の様に4匹のフリージングウルフに襲い掛かる。

 魔法の中でも最速の攻撃速度を誇る雷魔法、それが広範囲高威力で展開され、余程高レアリティな装備やマジックアイテムが無い限りはただでは済まないだろう。

 現に10数秒間その攻撃を受けた4匹は水分が電熱で沸騰したのか、それとも筋繊維が焼け焦げたのかは不明だが眼球から煙が上がっている。


「よし」


 周囲の木を見ると裂けたり、内部から破裂したような状態の物が多数見受けられ、その破壊力に内心ぞっとするリミーナ。

 恐らくこの一撃だけで数十人の兵士を倒す事が可能であると分かったのだろう、しかもそれがまだレベル20にも満たないソーサレスがやったという事実、成熟した時の能力を考えると、ナナセ同様に欲しい人材であると改めて認識する。


「威力は凄まじいですけど、これ……間違っても人に向けてはダメなやつですわね、大抵は一撃で命を落としますわ。それに使い所も考えないと、被害も尋常ではないみたいですし」


「向けない向けない、捕縛なんかに使うのは別の魔法にしてるから」


 敵が浮き足立っている内に決着をつけたユウカ達、この行動が結果的に別のグループにも影響をもたらしていた事をまだ本人達も気付いていない。

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