第85話 誤算

 朝食を食べてからフリージングウルフの生息域へと向かうナナセ達、最初の内は雑談をしながら進んでいたが、近くなるにつれ、話の内容は相手となるフリージングウルフがどれ程の強さなのかという内容に変わっていく。


「狼系ってことなら、多分相当素早いのは間違いないよねぇ」


「でしょうね、注意すべき点は爪と牙は確実に、他には……」


 対策を考える辺り、しっかりと敵を見据えている様で一安心……と行きたい所だが、事前に他の冒険者から情報を集めない所がまだ若干甘いかな、まぁそれも、オンゲ脳なオレが気になったからやっただけではあるけども。

 大型アプデとか来た時なんかは、公式から出されるMOBデータを見ながら、有志が作ったサイトでダメージ計算とかしてたもんなぁ、そして強過ぎふざけんなって言うまでがセットで。


「一応ファルミナさんが言ってたけど、フリージングウルフってだけあって、体そのものに属性が付与されてる上、その系統の魔法を使えるらしい」


「ってことは水魔法を使ってくる?」


「高ランクな魔物だけあって厄介ですわね」


「姿が見えないからって油断してると、痛い目に合うから気を付けてくれ」


 実際どの級位までの魔法が使えるかまでは分からないって言われたしな。


「ちょっと待って、体そのものに属性って事は炎属性が効きにくくて、攻撃には水属性があるって事だよね? 水属性の付与効果ってどんなの?」


 水の付与効果、全員がこのユウカの一言に考え出す。


 確かに、攻撃に水属性が乗るって言われてもいまいちピンと来ないな、水……水か……んー、ゲームのせいでとは言わないけど、水って攻撃よりも回復効果っぽいイメージが先行して思い浮かばんな。


「ありふれた所で言えば、攻撃した部分を凍らせたり?」


「もしくは酸による腐食とかですわね。実際問われると水属性の付与と言う物が、どんな効果をもたらすか検討も付きませんわね」


 氷に酸もこの世界では水属性に分類されるのか、そうなってくると他の属性持ちの魔物も、結構おっかない効果を持ってたりしそうだな、例えば地属性で石化とかなら、解除する術が無いと場所によっては一発で詰むんじゃないか?


「そう考えると属性持ちの攻撃は迂闊に武器受けせずに、避けれる攻撃は全避けした方がいいな」


「少なくとも効果が判明するまでは、そうした方がいいわね」


 全員フリージングウルフの危険性を更新しつつ生息域の奥へと足を進める。

 その途中、木に爪を研いだ様な痕や、ファングラビットの食われた死骸、触れるとまだ温かい事から仕留めてそんなに経ってないのだろう、もう目と鼻の先まで近づいている、そう思っていたのだが……。


「ティナ、この辺りには居なさそう?」


「あ…うん、それっぽい匂いはあるんだけど、凄く薄くて……何て言うか、ふらっと立ち寄った後の残り香みたいなのばっかりなの」


 未だにティナの索敵で捉えられずにいたのだ。

 痕跡と思しきものは引っ掛かってはいるのだが、その本体がどうしても見つからない、進みながらもナナセは頭をフル回転させて考える。


 そこかしこに跡があるのにどうして捕まらないんだ……向こうは狼、鼻が利くのはわかるがそれはこっちも同じ、何か違いがあるとすれば………ダメだ、思いつかね。


「お兄どうする? 一旦戻って作戦練り直す? 敵陣の真っ只中で作戦会議ってなっても危ないし」


 そうだな、オレも敵陣の真っ只中で悠長に話し合いは怖いしな………ん? 敵陣の真っ只中? …………ッ!?

 そうか!くっそやられた!!自分で確認しておいて見逃すとか洒落になんねぇやらかしだッ!!


「一旦ここから退くぞ!」


「カズシさん?」

「いきなりどうしたの?」


「ちょっと……遅かったですわね」


「どゆこと?」


「………囲まれてますわよ」


 リミーナの言葉で周りを見渡すアヤカ達、そこには体長2mはあろうかという10数頭の狼の群れがこちらを見ていた。


「なん…で……匂いだって殆ど」


「あぁ、オレもしてやられたよ。多分こいつ等は纏ってる属性で匂いを上手く抑えてるんだろう、

(確か空気中の水分が少ないと匂いが留まりにくく、更に温度が低ければ匂いの揮発性も低くなる、こいつ等、原理を知らなくても本能でそれを理解してやがるんだ!)


「くるぞっ!」


「ガウウッ!ガウッ!!」


 ナナセの声とほぼ同時に襲ってくるフリージングウルフ、全員身を翻す事で誰も傷を負うことなく避けられはしたものの、ナナセは一人、アヤカはティナと、ユウカはリミーナと共にパーティーを分断され、合流出来ないよう数匹ずつ立ちはだかる。


 こいつ等ッ!!1つの群れなのか統率が取れてやがる!しかもオレに多く数を割いて来やがったって事は、強さを認識してるのか、それとも単純に1人で居る奴を確実に仕留める為なのか、獣が変に知恵を身に着けやがって……。


「グルルゥ!!」

「ガルルゥゥゥ!ガウッ!」


「野ッ郎!!」


 尚も迫ってくる2匹のフリージングウルフに、ナナセも急いで体勢を立て直して刀を抜く。


 数も多いし動きも速い!下手に大振りをかませば振り終わりの隙を狙われる!一匹一匹確実に最小の動きで仕留めるしかねぇ!


 ナナセは刀を脇構えの様に構えるが刀が前面に見えている。

 本来脇構えは刀身を後ろに下げた構えを取り、刃の長さを目視出来ない様にするものであるが、ナナセは一切隠していなかった、無論構えの事など獣にわかる訳もなく2匹の突進し、接敵する瞬間。


「ぜあッ!!」


 掛け声と共に素早く刀を振り上げ、即座に下ろしたあと横に薙ぎ払う。

 襲い掛かって来た2匹の内、前に居た1匹が両前足と頭蓋骨の一部を残して断面図の様に縦に半分、少し後ろから迫っていた1匹も頭から首にかけて、魚の開き宛らに縦に開かれる。

 そして最後の横薙ぎの【風刃】で、後方に構えていた1匹の頭を飛ばすとゆっくりと力なく倒れる、その衝撃で頭に収まっていた脳が崩れて外に出る。


 残りは………5匹、早く援護に行きたいってのにまだ5匹も居るのかよ、アヤカ達大丈夫か?


 一瞬だけ仲間の方に視線を向けるナナセ、当然向こうもその隙を逃す訳もなく左右から2匹挟み込むように駆けて来るが、それを刀と左拳で力いっぱいに払う。


「ギャン!」

「ギャワン!」


 攻撃を受けた2匹は吹き飛ばされながらも直ぐ起き上がり、ナナセを睨みながら唸り声と上げる。


 は? 拳で殴った方はともかくとして、刀で払った奴はなんで生きてられるんだ? 間違いなく斬ったぞオレは。


 そう思った次の瞬間、ナナセは左手の甲に違和感を感じる、何故かジワジワと冷たくなってくるのだ、不審に思い左手を確認すると、身に着けているガントレットの甲部分が凍り付いていた。

 すぐさま刀も確認すると、こちらも刀身の中腹と切先部分がそれぞれ凍りつき、その部分ではもう斬れない状態になっており、ナナセに取っては予想だにしない誤算であった。

 無事な箇所と言えば一番鍔に近い所を残すのみで、これでは斬れて後1回、アヤカ達の援護の事も考えればかなり不味い状況と言える。


「マジかよ……」

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