第83話 各国の飛兵戦力

「ん……んっっっづあぁぁ!……もう朝か、昨日は依頼を受けてからギアードさん達の打ち上げに参加させて貰ったんだったな」


 あの後宣言通り野盗達を街の警備隊に出し、手続きを終えた【鉄の衛兵アイアンガード】のメンバーが、ギルドに併設されたギルドが営業してる飲み屋兼飯屋に揃い、依頼の詳しい説明を受けていたナナセ達を見つけてそのままという流れだ。


「色々と魔物の特性も聞けたし、後は実際に見てだなって……ん?」


 ふと寝ていたベッドに視線を落とすと不自然にな毛布の膨らみがあり、こうなるまでの間に何があったかを考える、その理由は単純に2人部屋が3室ある広い部屋をとった為、自分の寝室に誰かが居るはずが無いからだ。

 よく見ればナナセ自身も上に何も着ていない状態であり、答えをハッキリさせる為、震える手でゆっくりと毛布を捲ると、見えてきたのは程よい肉付きの脚、そして何も身に着けていない可愛らしいお尻と白黒の尻尾、ベッドに潜り込んでいた犯人はティナである。

 見ればベッドの下に服や下着が脱ぎ散らかされている。


「そういえば昨日初めて飲むって言って酒を手にしてたっけか………」


 再度ティナに視線を移すと、とても幸せそうに寝息を立てているのでそっと頭に手を伸ばして撫でる。


「…ん………んん…ふあぁ~」


 やべっ、起こしちゃったか。


「ふいぃぃぃ~」


 ティナが体を起こして大きく腕を伸ばすと、ナナセの目の前にたわわに実ったものが出される、そして伸びが済んだところで目が合う。


「おはようティナ」


「うん、カズシもおはよう」


 お互いに挨拶をした後にティナはナナセに抱き着き、尻尾を振りながらその匂いを嗅ぐ。


「ん~私この匂い好きだなぁ」


「自分の彼女にそう言って貰えるのは嬉しいな、オレもティナが好きだよ、今のティナの姿なんかは特に」


 ナナセの言葉にティナは自分の姿をマジマジと見る、すると徐々に恥ずかしくなったのか顔を赤くしていき、腕で体を抱き隠す様にして丸くなる。

 そんな所も可愛いなと思いながらナナセは頭を撫でる。


「うぅぅ~~……さっき抱き着く時にさ………全部見たの?」


 自分が文字通り何も着けていない事に気付き、恥ずかしさの余り顔を真っ赤にさせながら聞いてくるティナ。


 まぁ隠す事じゃない…というか、多分分かってて聞いてるなこりゃ、変に嘘を言うのも違うし…ここは正直が一番だ。


「うん、全部見せてもらった。絶対にオレ以外の男には見せたくないと思った」


「う~バカっ、えっち」


 一段と強く体を隠すティナに、ナナセは腕を広げ「おいで」と一言いうと、少し考えた後ティナは再度飛び付いてくる、そしてそのままお互いの温もりを確かめ合いながらベッドへ横になる。

 そしてその情事は一向に起きてこない事に業を煮やしたユウカが、寝室に怒鳴り込んで来るまで続けられ、その際アヤカは苦笑いを、リミーナは羨ましそうにしていたという。


 ―――


 適当な露店で買った朝食を歩きながら取り、ギルドからフリージングウルフが出没すると聞いた森へと向かう一行、ナナセとティナは反省の為に離されて歩く事に。

朝食 大銅貨4枚×5


「全く、ティナってばいつの間にそんなにエッチな娘になったの」


「だ…だって私獣人だから匂いとかに凄い敏感で……それが好きな人の匂いなら…尚更止まらなくなっちゃうんだもん」


「つまりそんな匂いを出すお兄が悪い!」


「お…オレ?!」


 ユウカに名指しでエッチ呼ばわりされて真っ赤に俯くティナ、そしてお前が悪いと言われながら匂いはどうしようも無いのではと思うナナセ。


「はいはい、あなたも好きな人が出来たら分かんないんだからそんな事言わないの、このままいくと目的地には夕方になりそうね」


「でしたら勢力圏に入らずに一夜を明かして、明日の朝に入るのが安全ですわね。暗い中で相手の縄張りに足を踏み入れる程、危険な行為はありませんから」


「カズシさんみたいに、空を飛べればかなり時間を短縮出来るんですけどね、王都で見た魔法書には下級風浮遊魔法レビテーションの魔法はあっても、人を浮遊させた上で自由に移動出来る魔法はありませんでしたし」


「もしそんな魔法が作り出されたら、世界の戦力図が一気に変わりますわよ。そして残念な事に、我が国には対空戦が出来る戦力が居りませんので、真っ先に狙われる事になると思いますわ」


「他国の対空戦力って何を使ってるの?」


「多くの国は自国でワイバーンの卵を捕らえて、Dランクの魔物であるレッサーワイバーンとして人に慣れさせ、そこから数を増やして飛兵部隊としますわね、ただ中々数は増えないのが現状です。アルテニアも力を入れてるのですが思う様には……そもそもワイバーンの巣となる高い山自体無いので」


 他国が対空戦力を持ってるのに、アルテニアが無いなら確かに狙われる要因の一つになるな、行動を起こしそうな所でいけばディルフィニールか……フェングリフがどうこう言ってたけど、離れてしまった以上どこまでが本当か確認しようがないからな。

 もしアルテニアが他国から仕掛けられたらオレはどうする……

 助けるか?

 それとも助けないのか?

 戦争自体は今でも御免だけど、ここはティナとリミーナの故郷……全力での参加は避けるが、せめて対空戦力の排除くらいは手伝うか、後は実際その時になってみないと分からないな。


「私今下級風浮遊魔法レビテーションを応用して、移動可能な浮遊魔法が出来ないか試してたんですけど、戦力図が変わる程の大事ならやめた方がいいのかしら?」


「いいえ、続けて下さいな! そして完成したら……とても厚かましいお願いなのですが、ご教授して頂ければ。勿論謝礼は十分にお支払いしますし、その魔法を外部に漏らさない様に徹底も致しますので、是非お願い致します!」


 そういい頭を下げるリミーナ、恐らく仲間としても、そして王女としての意味も含まれているのだろう、だがこの行動でナナセは察する、アルテニアの対空戦力がどれ程余裕がない状態なのかを。

 今の所他国の飛兵部隊も充実していないが為に大きな影響が出ていないが、この状態が何時までも続くと言う甘い考えは持っていない様だ、確実に自分達が劣っている自覚を持って事に当たっているが、それが実っていない。

 ましてやそれが命を扱う事であれば尚の事だろう、ナナセは日本で養殖や養魚の事を考える。


 あれらもまずは生物の生態を知る所から始まるって話だよな、そもそも対象がどういう風に成長して、どういう風に飛べるようになるかを知らない事にはスタートラインにすら立てないよな。

 卵を捕まえて来て育てれば、勝手に人に懐いて飛べる様にならないから今の現状な訳だし。


「一応聞きたいんだけど、機密情報であれば無理に言わなくていいから。卵を取って来た後はそれをどうしてるの?」


「飼育場にて厳重に保管しますわ。でも生まれる個体自体が少なくて」


「飼育場で温めたりとかは?」


「温める? 何をですの?」


 んん?

 何をですの?って……いや待て、結果を急ぎ過ぎるのはオレの悪い癖だ、一つずつ確認していこう。


「そりゃ勿論ワイバーンの卵をだけど、ワイバーンって卵の上に乗って温めたりとかしないの?」


「さ……さぁ? 私も現場を見た事がありませんので。ただ兵士の何人かが、ワイバーンが巣で警戒していたというのは聞いた事があります」


 それだよ! がっつり抱卵してんじゃねーか!

 よくそれ無しで孵った卵あったなおい! そっちの方がびっくりだわ!


「た…多分だけどそれって警戒していたのもあるけど、ワイバーン自体の体温で卵を温めてたんじゃないかな」


「ですがどうしてそんな事を!?」


「それは分からないけど、多分卵が孵るのに必要だからじゃないかな、絶対とは言えないけど」


 リミーナは何かを考える様に視線を落とす、そして少し経った後。


「カズシ様、今のお話を父上にお話ししてもよろしいでしょうか?」


「それは構わないけど、あくまで今のは仮定の話だからね? そこだけはしっかりと伝えて欲しい」


 まぁ多分これで大抵の卵は孵るとは思うけど、それだけじゃ飛ぶことは出来ないだろうな、魚みたいに生きる為に必要なエラ呼吸なんかと違って、ワイバーンが飛ぶのは生きる為とはまた別の物の可能性があるし、何より親ワイバーンが飛んでるのを見て、自分も飛べると理解させない事には恐らく上手く行かないだろう。

 そこから先は自分達で試行錯誤してもらうしかないな。


 こうしてお互いに時に有用な、またある時は冗談の様な話題を振りながら目的地へと向かうナナセ達。

 ただナナセの胸の内に一つだけ引っかかっている事があった、それは………ユウカに言われた匂いの事である。


(体臭って話になると簡単には変えられないよな、食べる物だったり運動量だったりで変化するし……これって変えた方がいいのか?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る