第82話 ティナの嫉妬

 あれからというもの、食事時になると【鉄の衛兵アイアンガード】のメンバーがそわそわする様になる、どうやら【討ち滅ぼす者アナイアレイター】お抱えのシェフの料理にドハマりしたみたいだ。

 まぁそのシェフが迷惑に思っていないのでナナセも放っておいてるのだが、食べられなくなった時がキツイのでは?、と秘かに思っていたりもする。

 あと、ドハマりした人達全員が地味に大食漢な事もあり、グランシール到着までの間、【討ち滅ぼす者アナイアレイター】のエンゲル係数が一時的に跳ね上がるという事件もあったが、これもアヤカが、今の台所事情から問題が無いと判断を下したのでどうこうする事はなかった。


「あの…本当に報奨金は要らないんですか? 今更になってしまいますが俺達、そちらの食料を大分減らしてしまったのに」


「ええ、ウチのシェフからも言われているので大丈夫です。これでもし受け取ってしまったら今度はオレが叱られるんで」


 最悪当分飯抜きの刑にされる可能性があるから、絶対に受け取れない。

 旅での飯抜きは割と本気で死活問題だ、それは子供の頃の夏休みにじいちゃんとの稽古で、自給自足山籠もりした時に思い知った。


 人は本当に何も食べない日が続くと、最初に思考能力が急速に低下していって、その後一旦空腹感は収まるものの、何か食べた訳じゃないからどんどん体力も削れていくし疲労感も蓄積していく、それが稽古で動かざるを得ない場合であれば尚の事。


 ………つか今更だけど小1くらいの子供に食事与えないって虐待だろこれ、んな時代に野草やキノコなんかの知識なんて無いし、野鳥なんかのジビエを捕る為の罠だって作れる訳ねーんだから、よく生きてたなオレ。


「そうですか……野盗の件といい飯の件といい、本当にありがとうございます。皆さんはこれから冒険者ギルドですか?」


「宿を取ってから向かおうかと、明るい内に取っておかないと万が一宿無しになんてなれば目も当てられないので」


「私達もこの手続きが終わり次第報告に行くつもりだからね」

「そっスよ、どうせなら打ち上げに参加して下さいよ!」

「そうですよ、是非!」

「私も色々と話しを聞いてみたいので!」


 出会って僅か数日しか経っていないが共に死線を潜り、同じ飯を食った仲でもある【鉄の衛兵アイアンガード】からの、ナナセ達【討ち滅ぼす者アナイアレイター】への評価は本人達が思っているよりもとても高かった。

 その後は王都でティナ襲われた事で、1人部屋であることを心配したナナセの発言で、貴族が使う様な大きな宿で6人部屋の広い部屋を借り、冒険者ギルドへと足を運ぶ。

 ※宿代 1泊大銀貨7枚


 街の大通りに沿って建てられた冒険者ギルドは、例に漏れずどこも変わらず騒がしいと言うか、賑やかと言うべきか、そんな冒険者達の声が外まで響いており、活気で溢れている事がはっきりと分かる、ナナセ達はその扉を開いて中に入り、依頼書が貼られているボードへと向かって行く。

 中に居た冒険者達はナナセ達に注目するでもなく、飯や酒を飲みながら互いの戦果を語り合っている。


「おぉー初手で絡まれなかった」


「ある意味初心者には見られないだけの存在感を、私達自身が纏ったって事かしらね」


「3人で活動してた時って、そんなに酷かったの?」

「相当見る目が無い冒険者達だったんですのね」


 まぁあの時は方々からの面倒事を避ける為に、知らず知らずビクついた動きになっていたのかもな、そしてそれを見透かされて、悪意ある冒険者達の格好の的にされていた…って事かもしれんな。


「とりあえず前に聞いた依頼を見てみよう」


 確かフローズンだったかフリーズンだったかのウルフって言ってたな。

 ・Bランク ケルピーの討伐 証明部位:尾 討伐報酬:大銀貨2枚 銀貨5枚

 買取素材:肉の各部位

 ・Bランク シルバーウルフ討伐 証明部位:尻尾 討伐報酬:大銀貨3枚

 買取素材:毛皮※状態により買取額変動

 ・Aランク ジャイアントベア討伐 証明部位:尻尾 討伐報酬:金貨2枚

 買取素材:牙 爪 胆のう 毛皮※状態により買取額変動


 結構高ランクの依頼が溜まってるみたいだな、他には――


「ねぇお兄、言ってたのってこれじゃない?」


 呼ぶ声の方に振り向くと、ユウカが依頼書を指差してこっちこっちと言わんばかりに手を振っている、見るとそこには確かにフリージングウルフの討伐と書かれている。

 特殊依頼(Aランク)

 フリージングウルフ討伐 証明部位:フリージングウルフその物

 討伐報酬:金貨3枚 

 買取素材:毛皮※状態により買取額変動 素材最低買取額:金貨1枚

 特記事項:・討伐数制限無し ・素材単体での買取も可、その場合討伐報酬の支払いはありません。


 特殊依頼ってなんだ?

 それに()がついてその中にAランク、まぁこれはAランクの依頼ですよって意味だろうけど、特殊依頼なんてメイリアのシーラさん※4~5話に登場からは説明が無かったな。

 ふむ、知らんもんは手っ取り早く専門家に聞けってな。


 ナナセはその依頼書を剥がして受付嬢に持っていく。


「すみません」


「はい、どうされましたか?」


「この特殊依頼ってものについて説明を貰いたかったんですが」


「特殊依頼についてですね、かしこまりました。では――」


(ほう、ここの受付嬢は獣人でネコミミか…いいなぁ。他にもオーソドックスかもしれないけどイヌ耳っ娘やウサ耳っ娘とかも見てみたいな………ッ!? なんだ! 横から凄まじい殺気が!………あっ)


 瞬間ナナセはティナと目が合った、怒りに満ちた目と。


(私の狐耳と狐尻尾だけじゃ物足りないんですかぁぁぁぁぁ!!!)


 他の獣人の、それもケモ耳に目が奪われてるのを感じ取ったティナが、ナナセの横に来て腕に抱き付いて来るのだが、その腕を受付嬢から見えない位置でつねってくる、しかも指ででは無く爪で


「何 か あ っ た ん で す か ?」


「あぁ…いや、ちょっと、特殊依頼って何だろうと思って……」

(ゴメン! 獣人の耳が珍しくてつい目が 痛った! 目が行っただけだから!)


「ふ~ん、あぁ受付嬢さん気にせず説明をどうぞー」

(私だってあるもん! 耳も尻尾もあるもん!)


「かしこまりました。特殊依頼と言うのはギルドランクに関わらず受ける事の出来る依頼となります、これは討伐系の物とは別に緊急性が高い依頼に付けられる物で、多くは依頼者が素材調達を早急に行う為となっており、報酬額も通常より高くなっています」


「つまり討伐は勿論ですが、これの本当の意味は、指定ランクに満たない冒険者が、万が一素材を持っていた時に買い取る為の緊急措置ってことですか」


「その通りです」


 なるほどねーその辺は上手い事まわる様に出来てるのか。


「ちなみにフリージングウルフの首だけを落とした状態だと、いくらになるんですか?」


「もしかしてお持ちなのですか!?」


「あ…持ってはないんですが、一応こういう者だったので」


 そう言ってナナセはポケットからギルドカードを受付台の上に置く。


「……んんん!? しょ…少々お待ち下さい!!」


 ネコ耳受付嬢が血相を変えて奥に引っ込んでいったと思ったら、1分もしない内に戻ってくる、別の女性と一緒に。


 見た目美人で切れ長の目に茶髪のショートボブ、服装は他の女性職員と違ってメイドタイプじゃなくスーツ風の服装か、下もスキニータイプでシュッとして、如何にも出来る女って感じがしてるな。


「お話の途中失礼致します。私はフロント受付事務の主任を任されていますシャルロットと申します。フリージングウルフの首だけを落とした状態、最上物の買取金額ということでしたら、金貨6枚で買取致します」


「金貨6枚……」

(討伐報酬と合わせれば金貨9枚か、滅茶苦茶高いな、これは皆にも聞くか……ティナ今の話を皆にも頼む)

(わかったわ)


 ティナは皆が集まってる所に駆けて行き今の説明をする、そして腕で〇を形作ってナナセに合図を送った。


「では、このフリージングウルフの討伐を受けます」


「ありがとうございます。正直受けて頂ける方が居らず、途方に暮れていたところだったのです。どうかよろしくお願い致します」


 深々と頭を下げるシャルロット。


 こうしてギアードが言っていた、フリージングウルフの討伐を受ける事にしたナナセ達、これによりギルドには恩を、そして討伐完了時に冒険者の前でフリージングウルフの現物を出して見せれば、名前も顔も知られてその上自分達の資金調達も出来、一石三鳥の事態となった。

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