第81話 グランシールのギルドの内情
パーティーリーダー兼盾役の重戦士ギアードと、ソーサレスのファルミナ、弓術士のミーシャ、剣士のルイスとジュリオール、計5人からなる冒険者パーティー【
一騒動の後、お互いのメンバーの自己紹介が済むと、向かう方角が同じという事で、道中を捕まえた野盗達に注意しながら隊商と【
後から教えて貰った話、野盗を騎士団に連れて行けば報奨金が出ると言う事で、倒すだけの実力がある冒険者にとっては良い資金源になるらしい、だがその分危険も跳ね上がると。
(仕留めたボスや野盗の首を麻袋に入れてたのはどうしてかと思たけど、そういう話だったのか。報奨金が出るって事はこの手の犯罪者が相当に多いんだろう、旅の途中でその手の話を聞いたら皆と相談してみるか)
「所でナナセさん達は、どこかに向かわれてたんですか?」
「オレ達は武器を作ってもらいに、エルハルト王国にあるガルバドールまで行くところです」
すると前の方からガルバドールの街名を聞き、声を上げる【
「ガルバドールの鍛治師が打った武器か、持ってみてぇ! 剣の切れ味もさることながら、何よりも箔が付くぜ!」
「だな。現役中に一度でいいから、自分専用の武器ってのを打ってもらいたいよな」
彼等に取ってガルバドールの鍛治師が打った逸品物は、ある意味二つ名や称号と同義らしく、かなり熱が入っていた。
「そこまで言うのであれば作ってみては?」
「いやいや、そりゃ無理だぜナナセさん」
「作りたいけど金がなぁ、短剣1本で金貨数枚は取られるから、俺達みたいな貧乏冒険者にはとても」
そんな事を言いながら2人で笑い合っているが、【
それに気付いた他のメンバーはその場を離れて、アヤカ達の近くに避難する。
「そおぉかぁぁぁぁ、貧乏ですまなかったなあぁぁぁぁ! なら今後は依頼後の打ち上げを控えて金を溜めるとするか、冒険者なんてもんはいつ金が必要になるかわからんからなぁぁぁぁぁ!」
「リ…リーダ!? 冗談! 冗談っスよ!」
「そうですよ! 決して本心ではないですから!」
慌てて弁明する2人を見ながら呆れ顔のファルミナとミーシャ、恐らくこれが彼等の普段なのだろう。
引き締める部分は引き締めるが、そうでない時は緩めるというメリハリがナナセに取っては心地よかった。
「ごめんなさいね、ウチの馬鹿2人は大体あんなんで」
「ギアードさんがしっかりしてる分、あの2人は気を抜き過ぎるんですよね」
が、身内からの評価は中々に辛辣なものであった。
「でも、とてもいいパーティーだと思います。ギアードさんがしっかりと引っ張ってくれてる感じがしますし」
「歳の差というだけではなく、隊を率いる資質が元々あるんだと思いますわ」
「だねー。お兄は偶に相談もしないで突拍子の無い事するから、ビックリさせられるもん」
「あぁ、何となくその気持ちわかるなぁ」
あっとやばい、オレの所にも飛び火して来たか、実際王都で1個とその前にもちょこちょことやらかしてるからな、燃え上がる前に消火しないと被害が拡大していきそうだ。
「と…ところでグランシールまでは後どれくらいの距離なんですか?」
「ここからなら多分……2日もあれば着くと思うな、数日休んだら直ぐに出発される予定ですか?」
「そこは仲間と相談になりますが、冒険者ギルドで滞ってる高ランク依頼があれば、名前知ってもらう意味で受けようかと」
「成程、恐らくですが冒険者ギルドに行けば、即座に幹部連中から幾つか頼まれるでしょう。今であればそうですね………Aランク依頼のフリージングウルフの討伐あたりですかね」
フリージング……氷や冷気を操る狼って事かな、それにAランクって事は結構強力な魔物ってことか、単体と群れで脅威度は変わるけど、受けるのであれば気を抜けないな。
「多分貴族様辺りから、相当責っ付かれてますから泣きついて来ますよ。あいつ等の毛皮には冷気が込められていて、これから暑くなる夏には、貴族の必需品みたいな物ですから、討伐報酬も素材もいい値になります」
この世界はこれから夏になっていくのか、それなら旅の暑さ対策や、ダンジョンでの砂漠や火山の様な特殊な環境用にも欲しい物だな。
「色々と便利そうですし、普通に自分達様にも欲しいですね」
「いやーあれはあると夏の旅がガラッと変わりますよ、俺も触れる機会があったんで羽織ってみたんだが本当に涼しい。見た目を気にしないのであれば、加工する必要も無いし、夏の長旅には欲しい物の一つだよ」
ギアードは笑いながらグランシールの冒険者ギルドの内情を教えてくれる。
特にこの世界の夏がどれ程の暑さか知らないナナセにとっては、文明の利器とも言えるクーラーの代わりとなる物、これは非常にありがたい情報である。
(楽しそうに話してんじゃねーぞ! 何とかしてこの縄を解けば俺だけでも……)
そんな中、10人以上居る野盗の中で、1人だけまだ諦めていない者がいた。
後ろ手に縛られた手を、歩く動作に合わせてもぞもぞと動かし、違和感を与えない様に緩めようとしていた。
(このまま付き出されりゃ最悪死罪なんだ、他の連中なんぞ知った事か、緩めて見張りが少なくなる寝静まった頃に逃げてやる)
「ちょっとそこの歩く度にもぞもぞ手を動かしてる奴、次やったら全員首だけにすさね。こっちとしては首だけの方が楽だし管理もし易いんだ、生かして貰ってるだけ有難く思いな」
『クソがっ! 絶対にいつかぶっ殺してやるからな、覚えとけっ!』
「おう、期待してるぜ」
どうやらギアードとファルミナの2人は、野盗の不穏な動きに気付いていたらしい、ある程度泳がせておいて指摘した上で煽る、やられた側は最高に腹が立つだろうし、他の野盗からの視線も厳しくなるだろう。
そもそも、こんな事するなという話ではあるが。
そんなやり取りをしながら進んでいると日が暮れ始めたので、これ以上進むのは止め、数本木が生えてる所に野盗達を縛り付けて、ギアードとルイスをその見張りに立て野営の準備をする事に。
「リミーナ、オレが使った物で悪いんだけど寝る時は
「これは何ですの?」
「スライムシートって言う物で、下に敷くと寝る時も起きた時も体が痛くないんだ」
「そんな便利な物が、助かりますわ!」
そんなやり取りを見ながら、残った【
違うと事と言えば鍋を暖めつつ、別の手鍋で複数の材料を合わせて、乳白色でドロリとした物を作っている事くらいである、当然そんな物を作っていれば興味を惹かれた者達が寄って来る。
「あの…それって何を作ってるんですか?」
「これはホワイトソースを作ってるんです。出来上がったこれをそっちの鍋に入れて混ぜ合わせると、私達の田舎で作ってたシチューという料理の完成です」
「あれ美味しいんですよねぇ~」
「私も初めて聞く料理ですわね、どんな味か教えて貰えませんかティナさん」
「バターを使って焦げない様に香ばしく煎られた小麦粉に、ミルクが合わさってですね、それだけでもスープとして美味しいのに、更に野菜やお肉の味が染み出たスープと合わさる事でもっと美味しくなるんですよ。それをパンに付けて食べるとそれはもう……」
そんな話を聞くと食べた事の無いリミーナと【
「沢山あるので皆さんもどうぞ」
その一言でアヤカを見ていた全員が救われた様な顔をする、勿論味の方も「上手い!」「美味しい!」と大絶賛であり、それを聞いたアヤカも満足気な表情を浮かべる。
しかしアヤカがボソっと「コンソメや味噌があればもっと美味しくなるのに」、と言ってたのをナナセは聞き逃さなかった。
(確かにあれらの調味料があれば、この世界の料理に劇的な変化があるだろうけど、味噌は麹菌が、コンソメに至っては原料が複雑過ぎてわからんからな)
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