ーグランシールの街ー
第79話 読み違え
パーティーでの話し合いから2日後、ナナセ達は鍛冶師の街ガルバドールへ向かう為に王都を発つ、何故話し合いの翌日じゃないかと言えば、出発前に王女と当分別れる事になる王への挨拶と、出発前最後の休養という名のリミーナの持ち物選びの為だった。
「にしてもリミーナがあんな行動に出るなんてねー、面白かったなー」
「それは…何せ初めての冒険ですし、色々と分からない事だらけですから、物資は多い方がいいと思ったんですわ」
ユウカの発言にリミーナが恥ずかしそうに俯いて言い返す。
アヤカのスキルである【ストレージ・スペース】、これに収納限界が無いと知った事が発端となり、リミーナが色々と城から持って行こうとした。
持ち出し内容としては城にある食料の一部や上位のポーション類等が主で、ドレスや宝飾品が無い事にリミーナらしさを感じるナナセだったが、流石に全員が「そんな潤沢な資源を持った冒険者は居ない」と待ったを掛け、持って行くのは自分の着替えや風呂用のバスタオルを増やすだけに留まらせた。
「気持ちは凄くわかるよ。私も冒険者になって初めて街を出る依頼を受けた時は、何を持っていけばいいかわからなくて、荷物が多くなり過ぎた事があるから」
「最初はどうしても慎重になりますからね。あれがあると便利じゃないか、これがあると安全かもしれないって、よくわかります」
ティナが山の様な荷物を抱えて、初めての郊外での依頼か、想像すると………荷物を抱えて途方に暮れてるティナが思い浮かぶ。
うん、カワイイな。
「カズシってば何か変な想像してない?」
ジト目で少々ムッとした表情のティナも中々。
「そんな事はないさ、どうしようか考えてるティナを想像したらカワイイなと思っただけで」
「それを変な想像って言うんだってば!」
少々膨れてしまったティナの機嫌を直す為に頭を撫でつつ、白い狐耳をこしょこしょしてやる。
「ん~♪」
顎を少し上げて気持ち良さそうに撫でられるティナがカワイイ、正直ずっとこうしてたい。
「…リミーナはどうするの?」
「何がですの?」
「だってお兄を追いかけてお城を出たんでしょ? でもそのお兄はティナと付き合ってるから、リミーナ的にその辺はどうするんだろうって」
オレとティナが付き合い始めた事はその日の内に伝えておいた、別段隠しておくものでもないし、逆に変に勘繰られたり誤解されたりする方が困るからな。
ただこれは無意味な行動だった、ティナがオレの寝室から戻る時、既に2人とも起きていて寝たふりをしていたそうで、しかも割と最初の方から起きていたらしく、オレの寝室からくぐもった声が聞こえていたそうで………シタ事は即バレしていた。
それを聞いた瞬間オレもティナも真っ赤になるし、その後は話しかけ辛いしでギクシャクしていた訳だが、アヤカに男と女なんだからと諭され、ユウカには互いに好きなんだから問題ないでしょと言われ、オレ達も吹っ切ることが出来た。
「あぁ~そう言う事ですのね、全く問題ありませんわ」
「あの…先に言っておくんですけど、仲間同士での喧嘩は控えてもらえると……」
「喧嘩にもなりませんわ。だってここアルテニアでは、一夫多妻が認められていますから」
「「「えっ?」」」
まさかの発言に現地の人間以外が呆気に取られる。
完全に一夫一婦制とばかり思っていたナナセに至っては、背中に冷たい物が流れる感覚がある。
何せティナとの仲を見れば入る余地など無いと思い、諦めてくれると思っていたからだ、しかし今の発言でそれが通用しない相手だったことが判明し、完全に自分の想定の上を行かれた訳である。
「もしかして……知らなかったんですか?」
「法的に条件等はありませんが、強いて上げるとすれば、そうですね……妻や子供を全員養えるだけの収入……といった所ですわね。つまりナナセ様は十分その条件を満たしておりますので何の問題もありませんわ!」
ギギギギギと音がするんじゃないかと思う程カクカクした首の動きでナナセを見るアヤカとユウカ、だが一番慌てているのは想定外の事が起こり、新たに策を考える羽目になった
「あー…ガンバ、お兄」
「………」
んな他人事のように……いや他人事か、しっかし不味いな、まさかそんな婚姻制度だったとは、つまりオレが取った行動は完全に無駄骨どころか藪蛇だった訳だ、どうするよ。
「ご安心下さい、私は順番に拘るつもりはありませんし、同じ殿方を愛した女性に対して意地悪をするなど絶対にしませんわ! 寧ろその子供まで含めて愛せますから!」
………無理じゃねコレ?
一緒に旅をとか選択した時点で詰みじゃね?
どう考えても諦めてくれる未来が見えないんじゃが。
リミーナの熱いポリシーを聞きながら旅をしていると、思いのほか時間が経っていたのか、ユウカがお腹が空いたという事で適当に台となる岩場を見つけて昼食を取る事に。
「何だかんだと久々に外で作るな」
「確かにそうですね。多分1カ月ぶり位ですかね」
「王都までの移動時はグリフィスさんが
「了解、適当に木を切り倒して薪にでもするよ」
「私も野菜を切るの手伝いますね」
「あ…あの!」
「ん、どうした?」
「わた…私は、一体何をすれば」
あぁそう言えばその辺なんも考えてなかったわ、座って待ってて……は、居辛いよな、出会ってからそんなに時間が経ってる訳じゃないからあれだけど、明らかに借りてきた猫みたいになってるし。
「ならオレと一緒に薪を作ってくれるか? 夜と明日の朝分も必要だから結構な量になるし、多くあって困る物でもないから」
「わかりましたわ!」
元気になったな。
とりあえず手頃な木を見つけてから枝を落とすか。
「街道沿いの木―――」
一言いう間にドオォン!という音が聞こえ、慌てて音のする方を見るとリミーナが街道沿いの大きな木を切り倒していた。
今まさに、「街道沿いの木じゃなく、外れの方にある木を薪にしよう」、と言おうとした矢先の出来事だった。
「これだけ大きければ明日の朝分までは十分ではありませんか?」
なんだろう…普通に人間なのに犬耳と尻尾が見える気がする。
それもすんげぇ尻尾をぶんぶん振って、満足気な顔をした感じのワンコが。
「あ…うん。持つとは思うんだけど……次からは街道沿いの木はやめよう。万が一人に当たったら危ないし、切ってる所を見た人が変な噂を流す可能性もあるから」
「わかりましたわ!」
まぁやっちまった物は仕方ない、小さ過ぎず大き過ぎずに切って持っていくか、念の為枝なんかも持って行こう、そのまま放置するとゴミになりそうだし。
「戻ったよ」
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「おかえりなさい。さっき街道沿いの方から凄い音がしてましたけど、あれってもしかして」
「コレ」
視線を抱えている薪の山に落とすと苦笑いを浮かべるアヤカ、気持ちは分かる。
「大丈夫だとは思いますけど、怪我をさせたりとかは無いですよね?」
「勿論です。周囲に人が居ない事を確認してから切りましたから」
流石にその辺は行動を起こす前に確認している様で安心した、………でもまさか居ても切り倒してたりとか無いよな?
指摘はしてあるから次はしないと思うけど、これは念の為付いておいた方が安心安全かな……考えて見れば王女なんだし、一般人の普通とリミーナの普通がズレてる可能性だってあるわけだしな。
そうナナセが考えている間に、肉と野菜が沸騰した鍋に放り込まれて茹でられていく、今日の昼は肉と野菜の出汁が効いたスープとパンといった所だろうか。
そして結構な量を作られているのを見ると恐らく夜はシチュー辺り、何気に期待を膨らませるナナセであった。
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